幕間
第百六十六話
この世界はどうしようもなく理不尽であると、そう思ったのは今から四年前。いえ、それ以前からもそういったことはちょくちょくと感じていましたが明確にそれを感じたのは私がちょうど十一歳の誕生日を迎えた日でした。
「お父様、どうして、どうしてリリスなのですか?」
その日の朝、リリスは私を連れて私の大好きなカフェを訪れていました。
出された特製のパフェを私への誕生日プレゼントだとそう言ってはにかむリリスを見て私は本当に最高の気分でした。
お礼とともに頭を撫でるとリリスは少し照れながらも嬉しそうに笑顔を浮かべます。そんな笑顔を見ながら食べるパフェはどれだけ美味しかったか。今にしてもあの日のパフェを超える物には……いえ多分、今のままではきっと出会うことも無いのでしょう。
その理由は分かりきっています、だってあれはパフェが美味しかったのではないのです。確かにパフェの味は美味しかったですが私にとって重要なのはそれを誰と食べたのか。あの時はリリスと一緒に食べたパフェだったからあそこまで美味しかったのです。
パフェを食べて街を観光して、お土産を買って、そうして何事もなく終わるはずでした。
終わってくれれば何よりでした。
でも、世界は神様は私に何よりリリスに厳しかったのです。
「どうしてですか、なんでどうしてリリスなんですか?」
布団の上で横たえる自分よりも一回り小さいリリスの手を握りながら傍らに立つお父様を見上げます。
あの後、パフェを食べたのち私達はカフェを出て次の目的地へと足を進めていました。
異変の始まりは極わずかなものでした。それこそ今になってから違和感を覚えるくらいのなんてことの無いものでした。
だから、私の胸にはそのことに対する後悔しかないのです。だってあの時にその違和感に気が付いていれば、今は変わったのかも知れないのですから。
「すまんな、グレイ。私にもっと力があれば聖女様を呼べるくらいに力があれば」
固く握られた拳はわなわなと震えその表情も普段のお父さんからは想像も出来ないほどに弱々しくただ自分の不甲斐なさを嘆いているようでした。
そんなお父さんを見ては私が何かを言えるわけもありません。お父さんだって私と同じかそれ以上に苦しくて悲しいのです。そして何よりも何も出来ない自分が悔しくて仕方がなかったはずなんです。
その時の私だってその事は分かっていました。
例えお父さんがどんなに凄い商人であっても買えないものは山ほどあると、どんなコネや手段をつかってもどうにもならない事があるのは分かっていたのです。でもこれはあまりに理不尽です、不条理です。
リリスは、私の妹は何も間違ったことはしていない。それは私がよく知っています、だって私はリリスが生まれてきてから七年間隣で姉として彼女の成長を見守っていたのだから。
リリスはいい子でした、他者を敬い誰であっても馬鹿にすることはなく分け隔てなく優しく親身に接するそんな子です。
だから───。
「お父さん。私、学院に通う。それで、それで私がリリスを助ける。絶対に、そう絶対に」
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