第百五十九話
「ソフィア様、ヘレナさんの好きな食べ物は何ですか?」
突然のグレイさんのその質問、その意図を掴めずに私は思わず首を傾げます。
とはいえ別にそれをグレイさんに伝えたところで何かがある訳ではありません。そもそも、ヘレナに口止めされている訳でもないですからね。
と、そんなことを考える事もなくスルスルと言葉は口から反射的にこぼれでました。
「焼き串とグラタン、後はクッキー……です」
「……なんて言うか、庶民的ですね。もっとこう、高級な物がお好きなのかと」
彼女のその答えは私が以前ヘレナに質問した時に私がした返答と全く同じものでした。その時のヘレナは「好きな物以上に高級なものは無いでしょ」、と頬を膨らませていましたけれど、本当にその通りだなと同じ返し方をされるとそう思うわけです。
「そこは私も少し思う所はあるんですけれどそもそもヘレナは食べ物、というか色々な物に基本無関心な所があるんです」
時折、ごく稀にキラキラと目を輝かせる以外は基本「美味しいと思う」、と言うだけです。そもそも味の感想を聞かなければヘレナは特に意見も文句も言いません。
「つまり、ヘレナさんは基本的に食べることが出来るのならばたいして味は気にしないということですか?」
「いえ、それは違いますね。ヘレナは聞けばちゃんと美味しいや不味い、特に不味い時ははっきり言います。容赦とか気遣いなんて一切なくです。この前なんて屋敷の料理長を呼び出して叱りつけていましたから」
「へー、意外です。ヘレナさんが怒鳴っている姿なんて想像できませんけれど」
「怒鳴らないですよ」
そう、あの時ヘレナは一切怒鳴らなかったのです。不幸にもあの場にいた私は本当に生きた心地がしませんでした。湯気を立てていたスープさえも凍りついてしまいそうな程に冷たく鋭い視線でただ淡々と話を進めていくヘレナに私はもちろん、ほかのメイドも口を閉ざしてただただ視線を落とすことしかできませんでした。
「ただ淡々と怒るんです。でも口調はいつもと変わらないですし語尾を荒らげる事もないのです。でもヘレナの様子から伝わる雰囲気は確かに怒っていて……でも、ヘレナは何も間違ったことは言ってないので怒られてる側も反論なんてする余地もないわけです」
あの時の料理長の顔、あの青ざめた顔は後にも先にも見たことないです。もともと料理長も表情の変わらない人でしたがそんな人でも冷や汗に顔が歪むくらいです。
サリーナ様も時々そういった雰囲気を醸し出しますがそれが遺伝なのだとしたら将来ヘレナもサリーナ様ように…………いえ、既に十分すぎるほどに似ていましたね。
でも、それとは別に少し気になることもあるわけですが。
「うぇー、まだ怒鳴ってくれたほうが可愛げあるのに。ちなみにどうしてヘレナさんは怒ったのですか?」
「あの日はもともとヘレナの機嫌も良くなかったのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます