第百七十七話

「―――サリーナ、それは」


「わかってるよ。これはここだけの話だからね他言無用で頼むね。第一、あの子達が折角選んでくれたものだからね。例えこれに嫌われても使い続けるよ」


 それに単純にそれだけという訳でもない。だって多分ここまでくればもはや運命というか宿命なのだろう。

 そんな事を思いつつ握ったニブルヘイムの柄は不思議な事にほんの少しだけさっきよりも暖かいような感じがした。


「それに、言った通り結局のところ私の意思だから。そこさえ間違わなければこの剣は何人何十人の命を救う事も出来る」


 改めて中庭に出るとさっきまでとは打って変わって晴れやか気分に包まれる。気の持ちようだけなのかもしれないけれど、それでもやはり衣服の存在は大きいのだろう。


「ふふ、衣装が変わると気分も変わりますよね。では私も着替えてきますのでしばらくお待ちを」


 たまに、本当にたまにこういうことがある。

 彼女に限った話では無いけれどこういうことが。多分、私が思っている以上に私の感情は表情に出るのだろう。

 でも、だからこそでよかった。今はまだ、今の私では到底向き合うことなんて出来ないから。必ず向き合うって覚悟するから罪を贖って罰を受け入れるから、その時にはどれだけ過酷であろうとも二度と逃げないって誓うから、もう少しだけ今を楽しませて欲しい。

 本当に自分勝手だって分かってる。それでももう少しだけ時間が欲しいから、ごめんね。


「……許しを乞うつもりは無いけれど、なんて都合のいい言い訳だよね」


 ため息を飲み込んで中庭に設置されているベンチに座る。見上げれば吹き抜けの向こうでただただ澄んだ青空が広がっている。

 きっと、これは一生消えることは無いのだろうし消すことも出来ないのだろう。とはいえこれは私だけに言えたことではないのだろうな、なんて不意に思う。世界に不変も当たり前も無いなんて当たり前のことなのに人はそれを無意識に忘れてしまっているのだから。


「また、難しい顔をしていますね」


「終わったの、ルー……ナ?」


 声に合わせて振り向いた先には確かにルーナが居た。ただ、その服装は普段の彼女からは全くもって想像のできないもの、ではあったけれど私からするととても馴染みの深いものだった。


「どーですか? サリーナとお揃いですよ」


 ルーナが着ていたのは私のいつもの冒険者服、黒のショートパンツに白のブラウス。クルクル回って私にそれを見せつける彼女を見てふと思ったのは「あれ? この服装少し恥ずかしいかも」、というもの。

 客観的に見るとルーナにはすごく似合っていると思うわけだけれど自分には少し不釣り合いのようなそんな気がしてならない。


「……うん、似合ってるよ」


「むぅ、なんか歯切れ悪くないですか? 折角念願のサリーナスタイルなのに……」


 なんていうか、今聞き捨てならない単語が聞こえた気がした。


「ごめん、ルーナ。今なんて言った?」


「ですから、念願のでしたのにって」

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