第百八十五話

 体感にして十五分くらい経っただろうか。宴は当然勢いを増すばかりでまさしくどんちゃん騒ぎ。それにこの騒ぎを聞きつけて参加しに来ている冒険者もいるのだろう。最初よりも食堂のスペースの人口密度が増している。


「それで、結局のところ私をここに呼んだ理由って何なの?」


 隣で本当に遠慮なく飲み食いをしているルーナを見ているとこれこそ本来の目的のようにも思えるけれど、多分というか絶対にそれは無い。

 空になったジョッキをあおりながらさり気なく問いかける。


「ん? ですから、復帰祝いと―――」


「それ、建前でしょ?」


「もう、サリーナ。少しは空気を読んでください。私、今すっごくお腹がすいてすっごく喉が渇いているのです。それこそここの倉庫を空にするくらいには」


 その表現はふわふわしているというのにその内容と行動は真逆。冷徹にして冷血、冷酷にして冷淡。というか情け容赦の欠けらも無い。


「でもなるほどね、ギルマスにしては浅慮だったってことね」


 ギルマスとルーナ、その話し合いの過程で双方の利害は一致していたのだろう。ただ彼はルーナを使用する事の被害をその影響を軽く見た。多分、元々ここで私の為の会を開くということにはなっていなかったはずだ。これはルーナの即興、私に群がる冒険者たちを見て咄嗟に思いついたのだろう。付け加えて言うのならギルマスは私を連れてくる過程で何をしてもどんな手段を使っても構わないから私の前に連れてこい、とでも約束してしまったのだろう。

 自分で言うのもあれだけれども、確かに私がギルマスの立場ならそう言う。そう言わざるを得ない。

 だって、そうでもしないと私をここに連れてこれる保証が無いのだ。ギルドに来ても自分と会う確証が無い。

 ただそれが墓穴だった。ルーナにそんな条件を与えてしまえば彼女は遠慮なくそれを最大限利用する。


「まぁ、私としてもギルドマスターとしてもサリーナの復帰を祝いたいという気持ちに偽りは無いです。私と彼では微妙に意味の違いはありますが」


 でも、それにしてもである。

 流石に酷い、無情過ぎると思うのだ。

 いくらギルドマスターとはいえギルド支部でも大規模にあたるここの倉庫の食材の代金を一括で払えるかと言えば、それは厳しいと言う他ない。借金はしないにしてもこれから数ヶ月はひもじい思いをせざるを得ないだろう。


「流石に同情するよ、ギルマス」


「なんですか、私が悪者みたいに」


 みたいじゃなくてそのものなんだよ、って言ったら確実に殴られるだろうけれど、少なくともそのやり方が聖女と呼ばれる人のする事じゃないのだけは確かだ。


「だいたい、人を動かすならそれ相応の対価は用意しておいて然るべきです。どう考えても今回は彼に非がありますよ」


 これは当然の権利です、とでも言いたげというか確実にそう思っているのだろう。

 ルーナ再びワインを左手に右手のフォークで器用に食材をまとめて口に運ぶ。

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