第百六話
「あの、先生。私に何も言わないんですか?」
グレイの問いかけに分かりやすく首を傾げるミシェル。
「何か言ってほしいことでもあったのか。もし仮にあったとして何を言うんだ? お前が授業にでないことか、それとも禁書庫に無断で入ろうとしたこと、あるいは受けてないはずの内容の小テストで満点を取ったことか、他にも色々あるが。私はお前を褒めるべきか? それとも叱るべきか?」
「全部、知ってたんですか」
実の所、今年の入学生の中で一番問題を起こしているのはグレイであった。色々と目立つという意味ではヘレナやソフィアが群を抜いていたが悪目立ちという面ではグレイは文句無くのトップである。
ただ、(これはヘレナたちも含めてだが)そういった問題を起こすような生徒たちが今期の中ではずば抜けて頭がいいのである。授業を受けず成績が悪いなら教師も叱り用があるというのに彼女らは揃ってそこら辺は完璧なのだ。
まだ学院生活が始まってから一ヶ月も経っていないがヘレナを含めた特定の人物の更生を大半の教師が半ば諦めている状態なのだ。
「当たり前だろ。私はお前の担任だ、良いことも悪いこともどうしたって私の耳に届いてくる。最初こそ苦情や文句ばかりだったが最近は割とマシになって来たからな、私から言うことがあるとすればこの調子で頑張れってくらいだ。願わくば苦情自体を無くして欲しいが……まぁ、そこは諦めてる、それにお前ら相手にそんなことを頼んだら今以上に面倒事が増えそうだ」
笑いながら立ち上がるとミシェルは下で始まったばかりの試合の様子を眺める。
「先生は……私が授業に参加しなくても良いんですか?」
どうにもばつの悪い思いのグレイは言い澱みつつも言葉をひねり出す。
グレイ自身授業をさぼりたくてさぼっているわけではない。確かに彼女にはやり遂げなければいけないことがあってそれを成さなければならない時間が限られている。とはいえそれが理由だとしても彼女の中では授業に参加しないということを正当化することは難しかった。
「その辺は特に気にしてないぞ。受けたいなら受ければいいし別に強制するつもりは無い、無理強いしたって受ける意思が無ければ受けてないのと変わらないからな。それに結局の話金払ってるのは私じゃなくてお前らの親だからな。こういう言い方は良くないが困るのは私たち教師じゃない」
すっぱりと言い切るとミシェルはグレイに向き直る。
「それに、ただ単にサボってるだけなら私も注意はしたりするかもしれないがお前はそういうわけじゃないんだろ。目標があってここに居る、それを達成する為に自分の意思で授業よりも優先するべきものを見つけている。それに授業を受けてなくても問題が無いならそれこそ時間を潰して受ける必要もない。言っただろ頑張れって、ただまぁどうしても気になるってんなら図書館から本を持ってきて教室で読むことだな」
「それって教師の言っていいこと?」、と思いながら聞き耳をたてつつクレアの試合を見守っていたヘレナ。もう余計な事を口走ることのないようにと固く結んだその口から驚きの声がこぼれだす。そのあまりに切羽詰まったヘレナの声に何事かと闘技場へと目をやった二人も次の瞬間驚きと感嘆の声を漏らして固まった。
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