第百七十一話

「うん、まぁこの話はとりあえず置いておくとして、私が聞きたいのはルーナはなんでここに来たのかだよ」


「なんですか? 理由がなければ私はサリーナに会ってはいけないとでも言うんですか?」


 私の質問に不満そうに頬を膨らめるルーナ。


「いや、そういう訳じゃないけど。今のルーナは理由もなく私に会いに来れるほど暇を持て余してはないでしょ? 聞いた話だと強引にここの院長になったんでしょ、引き継ぎとか手続きとかあるんでしょ?」


 どこへ行ってもそうだけれど人というのは噂が大好物なのだ。

 ここにほぼ強制的に入院させられて自由に動けない以上、私に出来るのは魔法を使って職員達の内緒話を盗み聞くくらいだった。

 とはいえ最初の数日はそれだけでも何とか暇をつぶせていたけれど、自分はその会話に混ざれないしわざわざ魔法を使わないといけないから疲れるしで急速に飽きが来た。そもそも会話の大半は噂話の範疇でしかなく信じられる物もあれば眉唾な物もあってその真偽を考えるのは酷使している精神には荷が重い。何よりそんな冗談半分の会話を頑張ってまで聞きたいのかと言えば答えは決まっている。


「別に大した事じゃないですよ。元々、教会の指示でもありますから大半はお偉い人達が処理してくれていました。私がしたことと言えば山のように積み上がった書類にサインとハンコを押したくらいです」


「教会が? どうしてまた?」


 ルーナが以前まで滞在していたのはレイアスロア、ここアレイスロアよりも南東にあるカトラス家の領地でありそれこそ教会の総本山でもあるサントゥアーリオ救護院。

 今のルーナのように七賢者、その中でも光属性最高権威者が代々継承してきたそこはセイントルミナスと呼ばれていて、遅かれ早かれルーナもそこの院長と教皇の座を引き継ぐこととなる。


「まさか、何かやらかしたのか?」


「そんなわけ無いじゃないですか。私はサリーナではないんですから。師匠の気まぐれですよ」


 この辺りが凄く厄介なのだ。実際、今現在七賢者の一員としてその肩書きを背負っているのはルーナであるのは間違いない。ただ、彼女はまだサントゥアーリオ救護院は継承していなく当然教皇も別にいる。そして今なおその頂点の座にいるのは彼女の師匠であるセシル・ローゼ。


「セシルさんは元気?」


 ルーナの義母にあたる彼女はもうかれこれ七十年ほど教皇の地位ある。実年齢こそ聞いたこともないが見た目的には四十代、それが私と初めて会った時と全く変わっていない上に元々の低身長と童顔ということを考えれば未だに三十代と言い張る事も不可能ではない。


「元気ですよ。今回みたいに相変わらずその地位を使って好き放題です」

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