幕間

第五十七話

 薄暗い広間の中央には大きな円卓と背の高い椅子が整然と置かれている。

 全部で十三ある席のうち既に十一席には黒いフードを被った人物が座っている。円卓の真ん中に置かれている数本の蝋燭ろうそくでは部屋全体を照らすことはもちろん周りの人物の顔すらも映すことはままならない。

 しばらくすると重々しい扉の開かれる音と同時に一人の男が広間へと現れた。


「全員揃っていないのはいつものことだが、時間だ。とりあえず報告を聞こうか」


 辺りを見回しながら一番奥の席へと座った男の静かに冷たい声が部屋に響く。部屋の空気が一気に緊張したものになり不規則に蝋燭の炎が揺れる。そしてそれは両肘を天板につけ顔の前で手を組む男の顔を浮かび上がらせる、と同時にその男の対面に座る男が報告書を片手に立ち上がる。


「は、はい……まず、王都にて目下進行中の『計画』は現在第二段階まで進んでおり、軍による妨害や目立った動きもないのでこのまま予定通りに第三段階に移行します。次に『神器』についての情報ですが、これに関しては全くと言っていいほど進展がありません。我々も全力を尽くしていますがそもそも神話の域を出ない代物ですのでもうしばらく時間を頂きたいと思います。最後に……」


 それまでよどみなく話していた男の声が詰まる。何度か手元の報告書を確認しては周りに目線を送っている。


「……どうかしたのか?」


 それまで黙って報告を聞いていた男が怪訝けげんそうに声を上げる。問い詰められた男は額の汗を拭い報告書に目を落としたまま震えた声で答える。


「え、ええっと、それがアレイスロアに構えていた我々の支部が消滅したそうです」


「消滅だと? 一体どういうことだ」


 広間の中を様々な小声の会話が飛び交う。


「ほ、報告によりますと数日間連絡の取れなかったアレイスロア支部を偵察をしに行ったところ支部だけではなく我々が管理していたサヘラ区画そのものがその、草木一つない更地になっていたとの事です。後に残っていたのは何らかの爆発による影響か大きく窪んだ地面だけだったそうで……」


 男が指で天板を数回叩く。すると広間はそれまでの喧騒が噓のように再び静まり返り男はただ一言「続けろ」と、言って再び手を組む。


「はい、それに伴って当該地域で行われていた計画並びに作戦は全て中止を余儀なくされました。計画全体に占める割合は一割程度ですのでそこまで大きくはないのですが……その、この件の最大の問題は先日王城より盗みました国宝級魔法具『封魔の呼鈴』までもが消滅してしまったということです」


 再び広間にどよめきが広がる。

 仕切っていた男も流石の事態に頭を抱える。


「とりあえず、状況を整理しよう。とはいえ少なくとも私の考える中では最悪と言っても過言ではない状況……まぁ、それは置いておこう。何であれまず我々が注力するのは『封魔の呼鈴』の捜索だ。事が事だ、各自すぐに準備にかかってくれたまえ」


 未だかつて無い勢いで会議は終わり、ローブに身を包む男たちは我先にと広間を後にした。

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