第二十七話
「……ヘレナさん、ここ、どこですの?」
振り返ったソフィアが不安げに問いかける。
「……私に聞かれても、というかここって本当にさっきの室内なんですよね?」
二人は見つめ合ってぎこちなく微笑んだ。
ヘレナとソフィアの周りは樹高が五メートル大きいものに至っては十メートルに達しているかという大きさの大樹がいくつも堂々とそびえ立っていた。何より伸びている草むらでさえもヘレナとソフィアを簡単に隠しているのだ。二人は手を繋ぐことで何とかはぐれるということを避けていた。最も今の状況ではどう考えても迷子になっているというのが簡潔で妥当な回答であろう。
二人がある程度学院の中を歩き回り大まかにその構造を理解した頃にそれは現れたのだった。明らかに重々しい扉にドーム状のガラスに
問題だったのは彼女たちが予想していたよりも中の広さが広かったということだ。この建物、明らかに中と外の比率があっていないのだ。普段から方向音痴であるヘレナはなおのこと普段なら迷うことなどないソフィアまでもが入口に戻れなくなっているのも
何よりどこまで行っても変わらないように思える景色、背丈ほどある草むらの中では今自分がいる位置もろくに掴めない。おかげで二人の方向感覚は確実におかしくなっていった。
(なんか、私にとっては凄いデジャブな感じだよ。あんまり思い出したくはない思い出ではあるんだけど……でも、あの時は今とは逆に何も無かったし誰もいなかったから不安がとんでもなかったけど、隣に誰かがいるってだけでこんなに変わるものなんだね。というか、そうかあれからもう五年も経っちゃったんだ。今頃あのヤエと名乗った女神様は何をしてるんだろう)
そして、もう一つ大きな問題があった。
そう、ここに来た理由である試験が刻一刻と迫っているのだ。こんな状況が普段から起こるはずもなくソフィアの心境はヘレナと違って全く穏やかではなかった。これがまだソフィアだけだったのなら彼女の心も少しは休まっていたのかもしれない。
でも、現実は違う。自分のせいでヘレナまで試験に遅れてしまうかもしれないという焦りがどうしてもソフィアの判断を邪魔していた。このままではどうにもならないことはわかっているけれどこれ以上ヘレナに迷惑をかけたくないという感情の板挟みのせいで一向に答えが出せなかった。
「ソフィア様。これ、このまま闇雲に動き回っても出れそうにありませんよ、一旦止まって考えましょう」
「ええ、そうしましょう」
今のソフィアにはぎこちない笑顔でそう返すことぐらいしかできなかった。
「随分とお困りのようだね」
立ち止まって呼吸を整えるために大きく息を吸い込んだその時だった、音もなくいきなり背後から声をかけられたソフィアは声にならない悲鳴をこぼしながら振り返ることなく草むらを突き進んで行った。
慌てて後を追うヘレナも声の主を少し確認しただけですぐに去っていった。
「……参ったなぁ。どうやって探そうか」
ただ一人取り残されたやる気のなさそうな表情の女性は右手の人差し指に何度か自らの緑髪をクルクルと巻き付けてしばらくすると仕方なくといった表情で空へと飛び上がった。
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