放置すればするほど強くなるゲームを5年間放置したらいつの間にか最強プレイヤーになってました。〜ぼっちは嫌なので最強であることを隠します〜
第16話 五周年アニバーサリー 5th anniversary
第16話 五周年アニバーサリー 5th anniversary
(簡単なものだな)
戒斗は光り輝く魔滅剣を振り下ろし、悪魔の腕を斬り落とす。
それはそうだろう。
ステータスは最高レベル。
武器も魔王軍に対抗できる武器だ。
これ以上ない好条件である。
体中から力が漲る感覚がした。
剣術スキルもスキルマである。
(負ける気がしないな。)
「聖騎士…エグバート?」
戒斗はリナの声にドキンとした。
(ああ、そういえばリナの憧れの人だったな、聖騎士エグバートって)
しかし、戒斗は方針を既に決めていた。
メンバーに自分が聖騎士エグバートであることをカミングアウトをしない、と。
自ら正体を明かすようなこともしない。
戒斗はリナの為にもこのグループの為にも正体を隠し続けることに決めた。
それが一番良い。
リナも今のグループが好きなようだしな。
(聖騎士エグバートと天秤にかけるとどっちに傾くかは知らないが、とにかく俺が聖騎士エグバートだったら嫌だろ)
だから戒斗は隠し続ける。
周りには誰の目も無く、聖騎士が出てきたところで騒ぎには発展しなかった。
ならば好都合である。
思いっきり"腕試し"ができる。
戒斗は試しに悪魔の攻撃の斬撃を食らってみる。
≪ドッ!!!≫
戒斗の体力(HP)は702000。
悪魔の攻撃は2000くらいだった。
たしかにレベル100くらいの冒険者ならワンパンだろう。
だが戒斗は倒れない。
攻撃後の為悪魔が隙を作った。
(今だ!)
その時、魔滅剣が七色に光り始めた。
(なんだこれは……。)
すると後ろから感激したような声が聞こえる。
「あぁ……あれが、魔滅剣!魔物を倒すときに真の力を発揮するという……あぁ、なんて美しい光なの?」
リナのちょうどいい説明に感謝しながらも戒斗は剣のステータスを見てみた。
【魔滅剣シャイリアル】LV.6042
☆特殊効果発動中☆
「この剣は騎士にのみ装備可能。この世界に一本の名剣であり、魔物を切り裂く力を持つ。剣自体も時と共に成長し、時間が経つにつれてステータスも上昇していく。攻撃力68214+50000/防御力32584/耐久値30425」
なんだこの攻撃力は……。
合計攻撃力118.214だぞ?!
戒斗は剣を握りしめ、悪魔に斜めの斬撃の攻撃を喰らわせる。
『グァァァァァ!』
悪魔は叫んで、
ボンッ!
と黒い煙幕のようなものを出して消滅した。
意外とあっけない終わりだったと感じた。
(待て、今が逃げるチャンスじゃないか?!)
戒斗は悪魔がご丁寧に作ってくれた逃げ道を使い、アカウント共有をしてその場から消えた。
元のアカウント「カイト2026」に戻るとそのアカウントは死んでいることになっている為、強制帰還させられるのだ。
*
リナと翼は目の前で起こった事をまだ信じられていなかった。
「た、助かったのか?」
「エグバート様?!」
リナが黒い煙幕の中、周囲を探しても何処にも聖騎士の姿は無かった。
煙幕が晴れてもそこにはもう居ないことが確認できた。
だが、リナは満足だった。
今までただの都市伝説だと思って信じていた事が紛れもない真実だった事が証明されたからだ。
「ありがとう。聖騎士様」
涙目になりながらリナは笑顔で空に向かって呼びかけた。
すると何やら冒険者が集まってきた。
どうやら悪魔が出現した緊急クエストに駆り出されたらしい。
しかし冒険者の人の前に広がるのは枯れた花々と緊急クエスト完了のお知らせ。
そのお知らせの意味を理解できれば何者かが悪魔を倒したことまで繋げられるだろう。
冒険者達は一斉に雄叫びを上げた。
初めて
リナと翼は色々なプレイヤーから声を掛けられた。
だが、そういう場所が苦手なリナと翼はそそくさと逃げるようにしてミズキとツカサが待つ大南門前へと戻った。
自分たちがやっていないと言い張りながら。
「ミズキ!ツカサー!」
リナと翼は大南門前で座っていたミズキとツカサの姿を確認すると声を上げた。
「リナさん!翼くん!」
[無事で何よりだ]
しかし、その場に戒斗がいない事を不審に思ったミズキとツカサは質問した。
「カイトさんは?」
リナと翼は少し俯く。
そして翼が声を出す。
「俺を庇って攻撃喰らっちまったんだ……。くそ、カイトは1日contactできない……」
「あ、そうか。悪魔に負けたから……」
「えぇ!じゃあカイトさんに会えないんですか!?そんなぁ、会いたかったのに……」
更にツカサは謝った。
「皆さんごめんなさい、僕がこんなクエスト受けたいなんて言ったから……」
「ツ、ツカサは悪くないわよ!」
「それはカイトがいる時に言ってくれ」
翼の言葉にツカサは黙る。
4人は少し暗いムードになった。
そんな中ミズキがチャットをした。
[どうやって悪魔から逃げ切ったの?]
その質問にはリナが即答した。
「やられそうになった時颯爽と聖騎士エグバートが現れたの。助けてくれた後すぐに消えちゃったわ」
「聖騎士えぐばーと?リナさんが会いたがってた憧れの人ですか?」
ツカサがリナに聞く。
「うん、まぁね」
[会えたっていうのに随分冷めてるね]
「う、うん。カイトにも話したかったなって思って」
「そうですね。」
「…………」
再び4人の間には沈黙が走った。
全員で帰りたかった気持ちが強かったのだろう。
それに明日もカイトに会えないという事実が4人に悲しみを生んでいた。
時刻は23時30分を回っていた。
「も、もう遅いし、中心都市へ戻りましょ?」
リナの発言に3人は頷く。
大南門に1人ずつ入っていく。
中心都市に入ったその時。
「よ、お前ら無事で良かった。なんか悲しそうな顔してるけど、どうしたんだ?」
4人は一斉に声のした方を向く。
するとそこには戒斗が立っていた。
「「カイト?!」」
「カイトさん?!」
ミズキも思わずいつもの真顔を歪める。
「カイト!」
リナと翼が戒斗に突撃する。
「いってぇな!なんだよいきなり!」
「カイト!カイトだー!」
笑顔満面の嬉しそうなリナ。
翼も嬉しそうだが、それよりも疑問の方が大きいようだ。
「カイト!なんでcontactできてるんだよ!悪魔に負けたじゃねーか!」
戒斗は押し倒された身体を起き上がらせながら答えた。
「悪魔の攻撃を喰らって負けたら1日contact出来なくなるっていうのは半分正解だったってことだ。」
「半分正解?」
「ど、どういうことだよ!」
「つまりだな。悪魔の魔法で俺らの前にいたチンピラ共は"転送"された。それが1日contactできないっていう仕掛けだったんだよ。つまり、その攻撃にあたって死ななければ、そのペナルティも課せられないって訳さ」
「お、俺の亜空間みたいな所に送られるって事か?」
「そう!そこで1日保管管理されるんだろう」
話を終えたと判断したリナは目を輝かせて戒斗の元へ飛びついてくる。
「カイト!カイトカイトカイトカイト!聞いて!私、聖騎士エグバートに会ったの!」
すると戒斗は知っているような顔で、
「あぁ、今すごい中心都市で流れてるよ。悪魔が始めて倒された日だって」
「それはそうでしょう!そうでしょう!」
この興奮は当分収まらないだろう。
戒斗はドンドンと胸ぐらを叩かれた。
戒斗の無事にツカサもミズキも安心していた。
[カイト。無事で良かった]
「よかった、みんな無事で!」
2人は正常だった。
よかったよかった。
するとその時。
空から大きな音がした。
ドン!!
中心都市という安全地帯にも関わらず悪魔が来たのかと思ってしまうほどの似合わない音。
花火が上がったのだ。
一個上がるとそれに連れられるように次々と打ち上がった。
真っ暗な星が煌く空に咲く大きな花。
全員その綺麗さにとても感動していた。
なんだ?
悪魔初討伐記念か?
俺が主役か?
などと戒斗は考えていたが、違かった。
時計を見たリナは、あー!と大きな声を上げて4人の方を向いた。
「みんな!いつのまにか0時よ!4月8日、5周年よ!」
そう、戒斗一行は0時まで気付かずクロミナをやっていたようだ。
「5周年か、あ!そういえば5周年特別イベントがあるって情報出てたな!」
翼の声に全員反応する。
「何のイベントだ?」
「確か、レベル20以上冒険者限定のPvPトーナメント大会?だった筈だ」
「マジで?!絶対面白いじゃねーか!」
「面白そうですね!」
「私たちも出ようよ!」
「いいかもな」
[私は賛成だ]
「詳細はあんまり公表されてなかったから後日発表されるのかもな」
翼が言う。
日付が変わり、5周年の4月8日。
楽しそうなイベントを前に俺は複雑な気分だった。
心肺停止してから、今日で5年か。
周りからも歓声が聞こえる。
花火が立て続けに上がる。
俺以外の4人は花火に目を奪われていた。
5年が経ち、俺は変わった。
学校も、容姿も、境遇も、そして友達も。
全て変わった。
よかったことも悪いこともあった。
でもひとつだけ大きく変わった事がある。
それはクロミナが俺の知らないうちに世界的に人気なSNSアプリになっていたことなどではない。
俺が、
「放置ゲーを5年間放置したら最強になってた」
ってことだ。
第1章 ―自覚編― 完
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