第37話 戦いの後 After the battle

 戒斗グループ及び生き残った組織ギルドが転送されたのは、第14闘技場の闘技場コロシアムの中心だった。


 眩しいほどの光に思わず目を閉じ、再び開けると目の前には大勢の冒険者プレイヤーが観客席で待っているのが確認できた。


 大きな歓声が上がり、そこには戒斗たち本選出場 冒険者プレイヤーを恨むような声は飛んではいなかった。


 讃え、互いに喜び合っている、そんな状況だった。


 まぁ中には一撃で葬られた冒険者プレイヤーもいるらしく、「くそったれー!作戦負けだー!」と言った純粋な悔しさがこもった声を上げている冒険者プレイヤーもいた。


 その後、進行役のマナがDブロック予選の終わりを告げるとともに、各自解散となった。


 戒斗たちも闘技場コロシアムの大きな出入り口から外へ出ると、空は青く澄んでいた。


 だが、外を歩く人影はこの第14闘技場から出てきた人以外で見られなかった。


 なんでも、1600人を超える冒険者プレイヤー同士の戦いで、20分弱で終わる事は想定されていなかったからだ。


 まだ他のブロックでは戦いが続いているという。


 こう言ったバトルロイヤル系の大会は大体40分から1時間はかかるとリナが言っていたが、それは定かなのか。


 そのまま他の闘技場へ戦いを観戦しに行く冒険者プレイヤーもいれば、ログアウトをする冒険者プレイヤーもいる。


 さらには大会は気にせずに遊びに行く人もいた。


 Dブロックの本選は明日。


 今日はぶっちゃけ言うともうやることが無い。


 これからどうするか、思案に暮れていた戒斗たちに思わぬ声がかかった。


「カイトさん!」


 その声はネムだった。


 銀髪の髪に足まである白いロングワンピースを着用し、肩には薄いカーディガンを羽織っていた。


 どちらかというと戦い向けではないことも服装からしてわかる。


 そしてその隣にいたミズナが話し出す。


「これから皆さんでお食事に行きませんか?」


「食事?」


「はい!Dブロック予選を通過した3組で。どうですか?」


 ミズナは首を傾げながら聞いてくる。


 戒斗はどうするか、メンバーに聞いた。


 少々そういうことは苦手なメンバーだが、初めてのことだったので、承諾した。


「わかりました!では、ここから北の方向にある第4区画のショッピングモールで会いましょう!」


 それでは〜と元気に走り去って行くネムとミズナ。


  あの方向には駅があったか。


 この第14区画は第8区画やその周辺の中心都市の中の中心のような場所とは違い、結構な遠隔地である為、ビルや、高層マンションが多いのではなく、多く目立つのは民家である。


 それもかなり高級で立派な民家が立ち並んでおり、現実世界で言う高級住宅地か、別荘地街と言ったところか。


 この世界で言う家屋の役割は2つある。


 1つは家屋に組織ギルドメンバーを登録し、そこを組織(ギルド)の拠点とすることで、公式に認められた組織ギルドとして確立することができると言う点だ。


 その他の利点としても、集会場所として使用したり、手に入れた食材を使って自分で料理するキッチンが使用できたりするのだ。


 さらには倉庫として不要なアイテムを収納、管理、共有することもできる。


 2つ目としては自身の趣味として存在するパターンだ。


 新しい土地に新しく家を新設することはできないが、家の配置や、内装外装などを現実世界のように事細かに設定し、それに応じた金銭取引が発生する為、まるで本当に家を買ったような感覚になることができるのだ。


 現実世界に新居を買おうとしている冒険者プレイヤーにとっては現実世界のお金関係なく、内装や外装をアレンジすることができるため、新居を買う時の予行練習になると評判である。


 更に様々な企業と提携しているこのクロミナは本物の家具をゲーム内で用意し、試しに使用することもできるため、そこの現実的リアルさもまた人気の秘密である。


 組織ギルド内でシェアハウスのようにメンバーでお金を出し合って買うこともできるこの家屋というシステムは一種の組織ギルド社会の象徴シンボル的意味合いも兼ね備えているのであった。


「いつか、みんなで家買いたいね」


 住宅地を見ながら歩いていたリナはぼそりと呟く。


「そうだな。組織ギルドの為にもそろそろ買うことを検討するか」


「マジで!家買うのか!」


 翼はいつにもなく興奮気味だ。


 なんだ?友達がいなくて家とか買えなかったパターンの奴か? 


 戒斗が哀れな子羊を見るような目で翼を見ていたが、それは本人に届くことは無かった。


「みなさんで外装とか内装とか決めるの楽しそうです!」


 ツカサが楽しそうに話す横でミズキがずっとガッツポーズをしていた。


 そして戒斗の元に何件もチャットが届く。


 [キタ――――♪───O(≧∇≦)O────♪]


 コイツは、そう、あれだろう。


 ツカサと一緒に一つ屋根の上にいられることが楽しみで仕方ないのだろう。


 [それに、ツカサくんの部屋の趣味とかもわかる!よっしゃあ!]


 なんで話通じてんだよ。


 それに純粋無垢な「よっしゃあ」久々に聞いたぞ。


 各々夢を膨らましながら住宅地を眺めた。


「じゃあこうするか。このイベントが終わったらみんなで家を買おう。報酬金がでると思うからそれで家の規模も大きくなる。どうだ?」


 それを聞いた一同は大盛り上がりだった。


 そしてまた戦いに熱が入るだろう。


 全く、みんな楽しそうだな。


 そう戒斗は思った。


 だが、この中で一番楽しみに思っていたのは戒斗だった。




 *




 数分後。


 戒斗たちは第14区画にある駅である「第13・14区画合同駅」に着いた。 


 この駅を東側へ越えた先には13区画が広がっている。


 14区画と13区画の境は線路で区切られていると言っても過言ではないかもしれない。


 同じような駅の名前で「第◯区画合併駅」というものがあるが、これは駅同士が合体しているのではなく、外回りの車線と内回りの車線が合体しているのだ。


 詳しく説明すると、外回り(中心都市内を大きく円を描くように回る)の電車は車線が一本しかない一方通行である。


 それに比べ、内回り(中心都市内を小さく回り、主に都市部との接続が多い)の電車は車線が2本あり、上りと下りの概念が存在する。


 つまり合併駅では、外回りに乗っていた時、あともう一周しないと特定の駅に戻れないという場合内回りの上り又は下りを選択する事で、その駅により早く辿り着くことができるようになる便利な駅なのである。


 最短ルートもそこから導き出されていたりもする。


 合同駅はただの駅同士の連結という意味である。


 戒斗たちはかなり広々とした駅内部に驚きながらも、電車に乗る為の切符を買う。

 第4区画までは1駅だ。


 運良く5分後には来るようで、そのままホームへと向かう。


 この駅は先程の戒斗たちが出場したDブロック予選出場選手らしき人すらもおらず、数人が駅内部を歩いている程度だった。


 もう既に一度電車が出た可能性が高いな。


 戒斗は兎に角空いていたので良かった程度に思っていた。


 階段を上がり、通路を通って行き、また下がる。


 ホームに到着すると何か変な違和感がした。


 いや、違和感しかなかった。


 剣を装備した鎧ガチガチの男女が現代風の電車ホームで電車を待っているのは。

 そしてシュールさすら生まれてきた。


 違和感を感じ取った戒斗はメンバーに話しかけた。


「装備脱がないか?」


「それ私も思った。」


 リナも賛同する。


「中心都市内だから剣もいらねーしな。」


「ちょっと恥ずかしいですね」


 翼とツカサも言う。


「まだ電車来ないし、着替えるか」


 着替える、と言ってもただステータス画面から「装備を外す」を選択するだけ。


 全員装備を外し始める。


 男達はそれだけでいいと思っていた。


 だが。


「ねぇ。今から初対面の人たちと食事するんでしょう?こんな服装でいいのかしら」


 リナはジーンズに黒のパーカーという面白味のない服装でミズキに話しかける。


 ミズキは上は白ニット、下は黒のくるぶしまで伸びたロングスカートという初めて会った時から変わっていない服装。


 そもそも服はその上から装備をするものである為、装備を外せばその下の服が出てくるだけなのである。


 [た、確かに。面白くないわね]


 ミズキも同情する。


「お前らって、服装他に持ってるのか?」


 装備を外した戒斗がミズキとリナに聞く。


「そんなに持ってないよ……ってえぇーー!」


 ミズキも驚いたのか、目を見開いている。


「な、なんだよ」


 ミズキとリナが驚いているのは、戒斗の服装だろう。


 翼は黒に染まったインナーと長ズボンとコートというその年でそれは厨二だなと言われそうな服装をしており、ツカサは上が緑のパーカーで下は黒のジャージという比較的ラフな服装。


 それに比べて戒斗は初期装備。


 一番初めに配布された、上が「Contact with Crosslamina」とプリントされた白の半袖Tシャツ。


 下は黒の短パンで、スニーカーだった。


「か、カイト。あんた、初期から変えてなかったの?」


「え、あぁ、服装?別にこれで良くないか?防御力上がるわけでもないし」


 戒斗の圧倒的な服装に対する執着心の無さはメンバーを凍らせた。


 戒斗は長年の病院生活によって現代のファッションはもちろんのこと、過去の自分がしていたファッションも忘れ、ファッション無知男へと成り上がったのである。


 それ故に理解しようとする気持ちもゼロに近く、古代人のように服があればいいじゃないか?精神で生きていた。


 彼の高校が制服だったことに感謝するだけである。


  そうでなかったら今頃友達欲しいなどと言ってられる場合ではない。


 そんな感情すらも湧いてこないだろう。


 何故か省かれている自分を不思議に思いながら。


 戒斗は感謝すべきなのかもしれない。


 現実とは違う場所で、彼の圧倒的服装センスの無さを指摘してくれる仲間がいてくれていたことに。


「よくない!!カイトはこのグループのリーダー的存在なのよ?!そんな人が服装に無頓着なのは困ります!!」


「待てリナ!リーダーは俺だ!!」


「厨二は黙ってて!」


 リナが勢いよく戒斗に向かって訴える。


 [確かに、それは恥ずかしいわよ]


 ツカサも少し「どうしよう、このどうしようもない先輩」みたいな顔で戒斗を見ていた。


「お、お前ら。俺が何か悪いのか?」


 その時、電車が来ることを知らせるアナウンスがホームに響いた。


「兎に角!カイトの服装を変えましょう。あぁ、自分がアホらしく感じてきたわ」


「そ、そうですね。初期装備だとちょっと」


 翼とミズキも頷く。


 戒斗は全員から何を否定されているのかわからないまま電車に乗り込んだ。


 そしてもう一度自分の服装を見て…。


 (別に良くない?!)


 気づかないのであった。

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