第38話 お買い物 shopping

 第四区画に到着した戒斗たちは徐々に賑わってきた街中を眺めながら目的地であるショッピングモールへと向かっていた。


 第四区画は中心都市の中でも中央部に位置している区画である。


 その為、かなりの数の中枢機関があるのか、ビルの数が多かった。


 遠隔地という不具合が多いバトルフィールドの近くに位置する場所に中枢機関を設置するとバトルフィールドの不具合の影響がすぐに出てしまう為、その対策として中央部に中数機関が設置されているのだ。


 歩道を歩く戒斗たちの横には車道が通っていた。


 更にはその車道を渡る為に黄色の歩道橋が設置されている。


 戒斗の目の前を1台赤いスポーツカーが通り過ぎる。


 このゲームにはプレイヤーが車を操縦し、街中を走り回るという若者にとっては夢のような事はできない。


 理由としては、中心都市の治安維持の為が大きい。


 車やバイクを許可するとなると、その車両を使用して暴れる人が出てくることも懸念される。


 他にも幾つか理由はあげられるが、どれも些細なことである。


 だが、その些細な不安や懸念、乱れがあるのなら、徹底的に根絶するという考えなのか、プレイヤーが車を操作することはできなくなっている。


 では、何故"道路"という物が存在しているのか。


 それは勿論、バスという公共交通機関が存在しているからという理由もあるが、この仮想世界をなるべく現実世界に近づける為、らしい。


 若者の社会勉強の一環として取り入れられるのか、はたまた現実性リアリティを追求したかったのかはわからないが、この中心都市には数千万という"自動走行車両"が毎日通っている。


 車の形はそれぞれで、車メーカーからスポンサーがつくこともあり、新しいデザインの車を街中で見つける事もできるのだ。


 つまり、道路の存在意義として至極簡単に言うと車やバイクのランウェイといったところか。


 車やバイクのマニアの人は道路に注目を向けるのは当然だ。


 いつしか、全ての安全性やゲームバランスが整った場合アップデートで自分の車を操縦できる日が来るかもしれない。




 *




 さて、駅から3分。


 歩いた先には大きな横断歩道。


 いや、これは大きな横断歩道というレベルではなく、スクランブル交差点という類だろう。


 四方向から伸びた白線は全て真ん中でぶつかる。


 歩行者信号が青に変わると、奥の方から人がたくさん溢れてきた。


 奥の方、つまり北側にはこの中心都市の中の最大都市である第8区画がある。


 そこで行われていた予選が終わったのだろう。


 様々な冒険者プレイヤーが放たれていた。


 どれだけの人数を集めていたのだろうか。


 第8区画にはこの中心都市の中で一番広い闘技場がある。


 キャパは何人だったか。


 興奮気味の冒険者プレイヤーたちを横目に戒斗は考えた。


 少し耳を澄ませると、大分盛り上がっていたようだ。


 中には肩を落として落胆している人も多数見受けられたが。


 戒斗たちはスクランブル交差点を抜けて、帰ってくる人だかりを縫って歩いて行くと、そこに御目当ての建物が見えてきた。


 『ion』という光る電光掲示板のような看板が目立つ。


 自動ドアを通ると、香水の匂いが鼻に突き刺さる。


 それとともに目の前に化粧品や、香水売り場が広がっていた。


 戒斗は近くにあった店内案内を見て食事をするような場所は地下1階であることを知った。


 戒斗を先頭にエレベーターに乗り込むと、戒斗は地下1階のボタンを押そうとした。


 だが。


 隣から出てきた手は5階を押した。


「リナ?多分食事をするのは地下1階だと思うぞ?」


 その言葉にリナは呆れ顔で


「知ってるわよ。今から5階へ行ってカイトの服を買いに行くの」


「え?俺の服?」


 戒斗は素っ頓狂な声を上げる。


 どうやらその話題は終わったものだと思っていたようだ。


 終わったとは思っていなくとも、ここではその話は出てこないだろうと思っていたらしい。


「さっきの交差点でも恥ずかしかったんだからね?周りの人たちがヒソヒソヒソヒソと!!」


「えええ?!ま、まじで?!」


 そんなにこの世界で生きるプレイヤーは服装に頓着しているのか。


 それ自体も知らなかった。


「カイト、良かったわね。恥ずかしい思いをしたのがゲームの中で」


 エレベーターが上昇を始めた。


「た、たしかに。そうかもな。俺の服装がおかしいのはちょっとわからないが、周りに合わせる協調性っていうのも大事だよな!」


 リナがまた呆れ顔を露わにする。


((ちょっとわからないんだ…))


 壊滅的な服装に関する執着心の無さをまた垣間見て唖然とする翼とツカサ。


 ピンポーン。


 エレベーターが5階に着いたことを教えてくれた。


 扉が開くと、目の前には若者の服を数多く取り揃えたメーカーの店舗が並んでいた。


「すげぇ。こんな感じなのか」


 リナは驚くように戒斗の方を見る。


「カイト、現実世界でもこんな感じの場所に来たことないの?」


「うん。来た記憶無いな」


「そ、そうなんだ」


 リナはなぜか申し訳なさそうにそっぽを向く。


「よし!じゃあ俺様がカイトに似合う服を選んでやるぜ!」


「ぼ、僕もお手伝いします!」


「2人とも、悪いな」


 ツカサはいえいえ、と笑顔で対応してくれた。


 翼はそそくさと自分の紹介する店舗へと案内してくれた。


「ここだな」


 翼と共に入った店は"Sword of Dragon"というアパレル製品を扱うお店だった。


 リナはまた頭を抱えていた。


「これなんかどうだ?」


 そう言って翼が指さしたのは胸のあたりに"SOD"と白の文字でプリントされた黒のパーカー。


 なんとこのお店のロゴ入りだ。


「へー」


 戒斗は宙に浮かぶ服を上下左右回しながら見ていた。


 衣類は全てホログラムで直接触ることはできない。


 だが、試着は可能だ。


「へー、じゃない!!」


 リナは戒斗と翼に怒号を浴びせる。


「な、なんだよ?!この服が悪いってのか?!」


 翼が腹を立て始める。


 そしてリナから発せられた辛辣な一言。


「ダサい」 


 翼はリタイアした。


「つ、次は僕が案内します!着いてきて下さい!」


 ツカサの後ろに戒斗とリナとミズキは付いて行く。


「ここなんですが…」


 ツカサが案内してくれたお店はアパレル製品を扱っている大手メーカーが運営するお店だった。


 "UNIKLO"という表示があった。


「いいチョイスね。私も後でここに来ようとしてたわ」


「よ、よかったです!」


 ツカサは先程の翼の件を見て少々リナという女性に対してどのようなファッションが通るのだろうとびびりながら考えていた。


 なんとか的は得ることができたようだ。


「さ、選ぶわよ」


 戒斗はリナに連れられるように店内に入った。


 その後、戒斗は買い物を終わらせた。


 といっても、全てファッションリーダーリナによって決められた物だったが。


 下は黒の長ズボンに上は白色のシャツ。


 その上から灰色のジャケットを羽織っていた。


 結局最後の最後まで戒斗はファッションはわからないのだった。


 ただ、少々高い買い物をしたな、程度にしか思っていなかった。

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