第39話 自己紹介 self-introduction

 ピンポーン。


 エレベーターが地下1階に到着する。


 ガコンッと扉が開くと1階の香水のような匂いが支配する空間とは打って変わって食品の匂いがこの空間を支配していた。


(そういえば、厳密にはこの場所に集合とはなっていなかったが、ここで合っているのか?)


 戒斗は不安の色を見せるが、その不安はすぐに取り除かれた。


「カイトさん!みなさん!」


 奥の方からミズナが手を振りながら走って来た。


「悪いな。遅れて」


「いえいえ。いいんですよ。私も時間をお伝えするのを忘れていたので」


 ミズナがてへっ、と舌を出す。


「では、早速行きましょう!」


 ミズナが戒斗たちを率いて先頭を歩く。


 頭から音符マークが見て取れた。


 だいぶウキウキしているのか。


「ここです!」


 ミズナが指さしたのは"月花蝶"といういかにも和風なお店。


 外観がこの店だけ江戸時代のような風格がした。


 入り口は横にスライドして開ける扉で、その両脇の垣根のような場所には竹が生えていた。


 着物を着た店員さんが奥の部屋へと案内してくれる。


 一段高くなっており、その部屋に入る前に靴を脱ぐシステムになっていた。


「失礼します」


 サッ、とふすまを開けるとそこは畳が敷き詰められた空間。


 沢山のぜんが並び、その数に応じて座布団が設置されていた。


 宴会場のような場所だった。


「やっと来たか!遅いぞ!」


 奥の方から太い声がした。


 だが、初めて聞いた声ではない。


「すみません。ちょっとした用事がありまして」


 戒斗が素直に謝ったのは先程ミズキと剣交えた男剣士だった。


 この場所だからか、私服だからかわからないが、男用の着物を着用していた。


 それはその男剣士に限らず、前方に座っているグループのメンバー全員がこのお店の景観に合致しているような着物だった。


 男物は甚兵衛じんべえと言った方がいいのか。


 それぞれ色が多少異なっていた。


 左奥から男性が4人座り、その隣から2人の女性が並んでいた。


 2人の女性はとても美人だった。


 一番右側に座っているのは最上位魔法を展開していた術者だった。


 髪型は黒髪のショートボブ。


 初対面の戒斗たちに会うのが少し恥ずかしいのか、俯き加減で少し顔が赤くなっていた。


 その右横にはメガネをかけたショート赤髪の女性。


 見た目からして気が強そうな印象を与えた。


「まぁ座れや」


 その男の声に戒斗たちは座る。


 7つの座布団がある中で、奥から3番目から戒斗、リナ、ミズキ、ツカサ、翼という順だ。


 その戒斗の左側の2つの座布団にはネムとミズナが鎮座していた。


「じゃあ、まずは自己紹介からいきますかね」


 するとその男剣士が声を上げる。


「俺は『ハンク』。レベルは295だ。武器は片手長剣で主に日本刀型が好きだな」


 ニヤリと白い歯を見せながら笑う。


 黒髪で、ハンサムな顔立ちをしている。


 確かに戦闘時に日本刀らしき形の剣を振るっていたような。


 するとその隣の人が声を出す。


「俺は『ジャック』!レベルは284!武器は両手剣だ!」


 声の大きさも含めて力強い人だなと戒斗は感じた。


 角ばった顔立ちに短い黒髪。


 身体もいい形をしており、腕を曲げれば筋肉が盛り上がりそうな身体付きだ。


 工事現場が似合いそうな若手仕事人のような風格だ。


 次に黒髪のメガネをかけた知的そうな人が口を開く。


「私の名前は『マルス』。レベルは257です。使用する武器は主に……ロッドですね」


 マルスというその人はメガネを上に上げながら答えた。


 少し武器を言うことに抵抗があったのか。


 一瞬あたかも自分の武器を忘れたような区切り方をした。


 この世界では視力が低下したり、現実世界の視力が反映されたりしない為、メガネは付ける必要性はないのだが。


 それがその人のアイデンティティなのか。


 それともそれが"装飾品"なのか。


 それはまだわからなかった。


 次は金髪のどこかホストを感じさせるプレイヤーが口を開いた。


「んじゃ、俺の番だねー。俺は『巋緜氎ぎめんちょう耰彌ゆうや』。レベルは289だったかな。武器は…君の心を打ち抜くピストルさ」


 パンッ!


 隣にいた赤髪の女性から思いっきり叩かれる巋緜氎ぎめんちょう耰彌ゆうや


「ひ、姫。何をするのかな!?」


「何をするのかなじゃない!!またあんた変なこと言って!私たちの組織ギルドが変だって思われるでしょ?!」


 加えるようにマルスも口を開く。


赤姫あかひめさんの言う通りです。少しは自重してください」


 マルスがメガネを上に上げながら言う。


「そんなこと言ってもねー。これだけ可愛い子が周りに居たら血が騒ぐって!」


 その発言にミズナが質問する。


「血が騒ぐってなんですか?」


 その質問には"赤姫"と呼ばれる女性が答えた。


「こいつ…現実世界でホストやってるのよ。だからこんな口調だしくっそみたいな名前なの」


「ちょ、名前はよくないかな?!」


 名前を指摘された巋緜氎ぎめんちょうは少し口調を強める。


 ただ、笑顔は崩さずに。


 まぁ、どちらかというと苦笑だろうが。


「自分で書けもしない漢字で名前登録するなよって話。だいたい、私たちもあんたの名前フルで書けないわよ」


 他の4人は頷く。


 一番向かって右端にいた術者の女性だけは顔を赤くしながら俯いていた。


「まぁ、こんなナルシストホストだけど。よろしくね」


 何故か赤姫と呼ばれる隣の女性が紹介する。


 それに少し違和感を感じたのか、ホストが赤姫の肩に手を置く。


「おいおい。なんで俺の紹介を君がするの?俺に任せておけばいいんだよ……」


 パンッ!


 顔面ビンタはそのくらいにしてあげて欲しい。


 痛がっているホストを無視して赤髪の女性が口を開く。


「さっきからちょくちょく名前でてるけど。私は『赤姫あかひめ』。レベルは290。武器はロッド。よろしくね」


 しっかり者のお姉さんのような感じがした。


 にこりと笑う笑顔は純粋に美人だなと思った。


「さ、最後だよ!」


 赤姫が左手で横をトントン叩く。


 するとビクッとあたかも今まで寝ていたかのような反応を見せる。


 俯いていたその顔を一気に上に上げ、周りの人からの視線の集中攻撃を受けた。


 その為か、そのプレイヤーは顔を両手で覆ってしまった。


「こらこら。……ったく。私から紹介しよっか?」


 その黒髪ショートボブの女性は何度か頷いた。


 そしてまた床に目の焦点を落とした。


「彼女は『浪河なみかわれい』武器はロッドで、レベルは250くらいだっけ?」


 赤姫が聞く。


「に、252…」


「252だって!仲良くしてあげてね!」


 ミズナが


「よろしくお願いしますー!」


 と声を上げた。


 その声にまた肩を震わせた。


 戒斗たちは頭だけの一礼をした。


 そのあとはミズナとネム、戒斗たちの順番で自己紹介が進んだ。


 みんな一様に自己紹介を済ませた。


 ミズナたちは緊張はあまりしていないようだった。


 戒斗グループはみんな緊張はしていたものの、なんとか自己紹介で事故することは無く、全員がフレンド登録するところまで話は進んだ。

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