第40話 談笑 Chatting

「ネムちゃんって、魔法攻撃無効反射オートマジックリフレクターっていうスキル持ってるんだな!だから魔法を跳ね返したわけだ!」


「なるほどな。して。そのスキルはどこで手に入れたんだ?」


「僕も気になります!」


「えーっと、それはですね……」


 左奥ではネムとジャックとツカサ、それとハンクが話していた。


「その場所って"バッドイル"が出没しますよね?」


「うん!いたいたー。私それに【赤:対象破壊魔法=爆炎爆破メテオバースト】打っちゃって。」


 ネムは口を手で覆い、笑いながら答える。


「大分弱いですよ?その敵」


「そうなの。魔力の無駄だよね」


 ハンクとジャックは2人の話についていけなかった。


「なぁ。これは俺らには無理だな」


「そうだな!2人にしかわからないことであろう!」


 2人の間に沈黙が流れる。


「何か。懐かしいな!去年のクリスマスもこうやって2人で……」


「やめろ!ジャック!その過去を思い出させないでくれ!」


 ハンクが吠えた。


「そこの君。可愛いねー。幾つ?好きな食べ物は?」


「えっと、その……」


「ふふ、照れちゃって。可愛いなー全く」


 金髪ホストに近寄られ、照れるリナ。


 だが、その顔からは困った様子が見て取れた。


「ミズキって剣術上手いよね。何か現実世界で習ってたりするの?」


 [剣道を習っているわ]


「やっぱり!いいなー。私は何も習ってないからな。いつか習い事始めようかな」


 [赤姫の職業は?]


「えー?現実世界のことを聞くのは御法度よ?」


 [私に現実世界のことを聞いたじゃない]


「確かに!」


 赤姫が楽しそうに笑う。


「なぁマルスさん。なんで何発も最上位の魔法なんか撃てたんだよ?」


「それはですね翼さん。赤姫さんが持つ【金:魔力操作魔法=魔力供給マジックギフト】を使用したのですよ。その魔法は自身の魔力を全て他のプレイヤーへと譲渡することができる魔法なのですよ」


「へぇー。じゃあネムの言っていた推理は正しかった訳か。流石だな」


「当然よ。ネムの魔法オタクっぷりを侮ってはいけないわよ?」


「魔法オタク?それはなんです?ミズナさん」


「あー、マルスさんは知らないよね。ネムは魔法オタクなんです。クロミナの攻略本に載っている全ての魔法を暗記しているんですよ!」


「へぇ。それは凄い。だからあなた達は私たちの最上位魔法を見切ったわけですか」


「その通り!」


 ミズナが誇らしげに言う。


「オタクだったらこっちにもいるぜ?なぁ?カイト」


「そうだな。こっちには敵NPCAIオタクがいる」


「敵NPCAIオタク??」


「誰です?そのオタクは」


 マルスが興味有り気に聞く。


「ツカサだ。あの……」


 戒斗がツカサの方を指差した。


「あの2人ですか。随分と盛り上がっていますね。きっとオタク同士話が合うのでしょう」


 誰に対しても低い腰の持ち主で、誰に対しても"さん"付け。


 戒斗たちはマルスに対し、好感が持てた。


 戒斗は全員から話を聞いた。


 すると赤姫取り巻く組織ギルドはもともと現実世界では何の関わりも無かったらしく、このクロミナのサーチで出会った仲間らしい。


 その後に実際に現実世界で出会ったりする事で仲を深めていったと話していた。


 また、全員断定はしなかったのだが、大まかな年齢把握はできた。


 ハンクは20〜25歳。


 ジャックも20〜25歳。


 マルスは18〜20歳。


 巋緜氎ぎめんちょう耰彌ゆうやは本人曰く、永遠の18歳。


 赤姫は18〜23歳。


 そして浪河 玲とは結局話すことができなかった。


 というか誰とも話していなかった。


 近寄り難いというか、ずっと何かの本を読んでいた。


 ミズナとネムは同じ学校に通う中学3年生。


 クロミナではなく、現実世界で知り合ったらしい。


 各々の話題で盛り上がったその場は解散の雰囲気が出始めた。


「よっし。じゃあ最後に大事な話がある!」


 ハンクが急に立ち上がると周りからは声が上がる。


「ここで仲良くなるのはいいが、明日の本選で会った時は敵同士だ。手加減無用、正々堂々戦おう!」


 また周りから声が上がる。


「っていうことはハンクさん!明日もまた最上位魔法を使って戦うの?」


 ミズナがハンクに質問する。


 それにハンクは真顔で


「あぁ。明日も使うつもりだ。お前らだけにその情報は教えておく。だから……」


 ハンクは一度区切った。


 そして周りからの視線を一度に浴びた時。


「決勝で会おうぜ!」


 大きく言い放った。


 それとともにハンクたちの組織ギルドメンバーは声を上げる。


 本当にいい人たちだと戒斗は思った。


 年齢レベル関係無く気軽に接してくれるプレイヤー。


 そんな人がこれからも増えればいいと思った。


 すると意外にも翼が声を上げた。


「にしても。ここのお店って結構高いよな……」


「心配いらないさ」


 翼の呟きに巋緜氎ぎめんちょうは答える。


「俺たちが払うからさ」


「そ、そんな!私も払います!」


 ミズナが立ち上がる。


「あぁ。俺たちも」


 戒斗も言う。


 だが。


「LANKの制度は知ってるよな?」


 ハンクが戒斗グループとミズナグループの全員に聞く。


「確か……勝ち進めば進むほどその値が上がっていくものですよね?」


 ネムが答える。


「それだけじゃあ不十分なんだよ。このLANKという制度には生存者数や蘇生数、撃破数なんかも反映されるのさ」


 続いて赤姫が言う。


「そして。それに応じて報酬金も出るってわけ」


「な、なるほど!」


 ミズナが関心したように言う。


「君たちも自分の組織ギルドのLANKを確認すればいいさ」


 巋緜氎ぎめんちょうが戒斗たちに催促する。


 戒斗たちは揃ってステータス画面を開き、LANKを確認しようとした。


 それはどうやら運営からのメールで確認することができるらしく、メールBOXにメールが大会参加者に一斉送信されているようだった。


 そこには


「俺らはLANK160だ」


 翼が呟く。


「意外と高いですね」


 マルスが言う。


「私たちはLANK90です」


 ネムが全員に教える。


「大分差が開いたな」


 戒斗が不思議そうに言う。


「きっとメンバーが少ないせいでしょう。それに、撃破数も少ないでしょうし」


 ミズナが自論を語る。


「まぁ、ぶっちゃけ言ってどういう計算の仕方してるかは分からねーがな」


 ハンクが半ば呆れ顔で言う。


「因みにハンクさんたちの組織ギルドのLANKは?」


 ミズナが聞く。


「俺らはLANK480だ。」


「ええ?!480?!」


 一同驚きの声を上げた。


 それはそうだろう。


 なにせ1000人を超えるプレイヤーを一掃したのだから。


 それはそのくらい行ってるのが妥当だろう。


「ま、嬢ちゃんにやられたのがちょっと引かれたのかもしれないな」


 ハンクはミズキの方を見てニヤリと笑う。


 ミズキは依然として無表情だった。


 だが、ミズキはこの時間、かなり同じ職業の人と話していた。


 どれだけゲームの自分と現実リアルの自分をマッチングさせることができるか。


 それも今後分かっていく事だろう。




 *




 お食事処"月花蝶"を出た後。


 ハンクたちやミズナたち同様戒斗たちもそれぞれ解散となった。


 そのままこの場所に残る人や、そそくさとログアウトする人もいた。


 戒斗のグループはミズキとツカサ、それに翼はログアウトをし、リナはこのままこのショッピングモールを見ていくそうだ。


 戒斗は少し考えたが、明日の準備がてら明日の試合会場の偵察に行くことに決めた。


 外に出ると辺りは暗くなり、街灯と月明かりのお陰でなんとか明るさを保っているようだった。


 戒斗は少々空腹感を覚えていた。


 先程食べたこのゲーム内の食料は当然ながら現実世界の自分の胃を満たす効果は無い。


 ただ食欲を抑える程度、空腹感を紛らす効果しかないのだ。


 だから現実世界で食事をするためにログアウトした人もいるだろう。


 戒斗は明日、4月10日に行われるDブロック本選会場へと向かった。


 その場所は今いる第4区画の隣に位置する第5区画にある闘技場。


 だいぶ中心地である。


 それもそのはず。


 この本選を勝ち進めば1日調整が入った後の12日には中心都市第8区画で行われる決勝戦に出場することができるのだ。


 戒斗は少し緊張してきた。


 今日の予選でかなりの数の冒険者プレイヤーが脱落した。


 その上に俺は立っている。


 でも何故か戒斗は心が踊っていた。


 この高揚感はなんだ?


 この胸の高鳴りは。


 彼の奥底に眠っていたゲームに対する闘争心が再び目を覚まそうとしているのかもしれない。


 ふと歩みを止めた。


 第5区画総合闘技場に到着したのだ。


 歩いてすぐだった。


 電車や転送魔法テレポートを使うまでもない距離だった。


 周りには人影はなく、等間隔で置かれている街灯が照らしている闘技場前のコンクリート地面がはっきりと浮き上がっていた。


 周りに木や雑草も無く、あるとすればベンチなどの整備された物。


 広大なコンクリートの地面には"Ⅴ"という文字が金色の文字で彫られていた。


 中に入ると広いスペースがあり、座席や天井からぶら下がったモニターなどがあった。


 依然として真っ暗な空間。


 観客席がある方はまだ明かりが付いているのか、その光に導かれるように駅の改札口のような場所を抜けてその先に続いた階段を上り、闘技場内へと入った。


   (広い)


 戒斗は周りを見渡した。


 青色の座席が数え切れないほど設置され、天井高くにあるスポットライトが座席に当たって反射し、光っていた。


 ここで明日やるのか。


 随分と広い場所でやるものだ。


 それもそのはず。


 Dブロックのプレイヤー数は他のブロックと比較して一番多い合計約25.000人。


 832組織ギルドなのだ。


 それが全員入るのはこのくらいの規模じゃないと駄目だろう。


 ふと。


 誰かの話す声が聞こえた。


 遠くの方なのか、小さい声なのかわからなかったが、確かに声がした。


 その声の方を見てみると、知った顔がいた。



「カイトさん!」



 そこにはネムと浪河 玲が座っていた。

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