第41話 異色トリオ Unique trio

 声が聞こえた方を振り向くと、5メートルほど先にある青色の長ベンチに2人の女性が座っているのが確認できた。


 他の場所に目をやってもこの場所にいるのは2人だけだった。


 ネムよりも先に座っていたのか、奥に浪河 玲が、その隣にネムが座っていた。


 浪河 玲は先程と変わらない俯き&赤面をキープしていたが、服装は先程とは打って変わって私服を着ていた。


 先程までの服装が変わっていたからだろう。


 どうも「Contact with Crosslamina」という白の半袖Tシャツに短めの赤のスカートに黒のニーソックスという格好には素朴さを感じていた。


 あの戒斗が、だ。


 それほど派手な着物からの私服はギャップが激しかったのだろう。


 そんな黒髪ショートのギャップ女子はチラチラと戒斗の方を見ていた。


 その隣に座るネムは先程会った時と服装は変わっていなかった。


 こちらは肩まで伸びた銀髪をなびかせて笑顔で戒斗を受け入れてくれた。


「奇遇だな。ネムと、れいさん?も偵察か?」


 戒斗が質問しながらネムの右横(浪河 玲とは正反対の位置である)に座るとネムが何やら指示を出した。


 左手で自身の左サイドのベンチを叩く。


 しかし、鈍感男戒斗はそのサインに気づかない。


 ネムは自身の逆側、つまり、ネムと浪河 玲の間にくるように促しているのだが、戒斗はそんな事には全く気づいていない様子だった。


 なかなか返答が返ってこないことに不思議に思った戒斗が頭にハテナマークを浮かべていると一層ベンチを叩く力を強め、ネムは指示を出す。


 ネムは笑顔だが、心中は「なんで気づかないの?こんなにサインを出しているのに!!」と思っているのだろう。


 強く叩かれたベンチの音に驚いて浪河 玲はびくんと肩を動かした。


 それにようやく気づいた戒斗は


「あぁ。そっちに座っていいのか?」


「はい。いいですよ。ね?玲先輩?」


 ネムに聞かれた浪河 玲はこくりと一度頷いたが、その後に何かに気づいたかのように頭を上に上げると、「なんでそれを言うのよ!」と言わんばかりの表情でネムを睨んでいた。


 なんだか掴めないな、と感じていた戒斗は了承を得たため2人の間に座る。


 確かに、浪河 玲の話も聞きたかったのは事実だ。


 その戒斗の意図に合わせてくれたのであれば、ネムには感謝しなければならないかもしれない。


「それで。もう一度聞くんだが。2人はなんでここに?」


 戒斗が聞くとネムは忘れてたものを思い出したかのように2、3度頷くと、


「偵察です」


 と答えた。


 浪河 玲も2、3度頷いていた。


 そのまま一時沈黙が流れた。


 すると空気を読んだかのようにネムが口を開く。


「玲先輩。もう一度、カイトさんに自己紹介した方がいいんじゃないですか?」


 浪河 玲は依然として固まったままだ。


「俺からもお願いしたい。玲さんのことを教えて欲しい」


 戒斗が真剣な眼差しで浪河 玲に頼む。


 それを聞いた浪河 玲は戒斗の方を向いた。


 そして戒斗と目が合うなり目を逸らすと、戒斗とは逆の方に顔を向けた。


「わ、私の名前は浪河なみかわ れいです…。16歳の高校2年生です……」


「高校生だったんですか?俺も同じです!高校1年の年下ですけど」


「先輩〜。なんでこっち向いてくれないんですか。もしかして。恥ずかしいんですか?」


 ネムが煽る。


「は、恥ずかしいの!そう、そういうこと!だ、だからこっち向きでもいいでしょ!」


 浪河 玲は自身の行動理念を説明する。


 半ば強引にだが。


 初対面だが、嫌われたのでは。


 などという考えは全く持たずに、戒斗は浪河 玲に話しかける。


「なるほど。だからネムに先輩って呼ばれてるんですね」


 戒斗が言うと浪河 玲はすごい勢いで戒斗の方に向き変えると戒斗の腕を掴み、


「き、強制的に言わせてる訳じゃないからね!こ、これはネムちゃんが勝手に……」


 そして急に戒斗の腕を掴んでいた自分に気づく浪河 玲。


 結構至近距離まで近づいていた。


 また勢いよく戻るとなにやら肩を落としていた。


 戒斗は少し緊張した。


 美人な先輩に腕を掴まれるなどというシチュエーションには立ち会ったことがなかったからだ。


 まぁ、当然今尚現在進行形で行われている美少女2人に囲まれる逃げ場のないハーレム展開も、だが。


「俺も先輩って呼べばいいですか?」


 戒斗が浪河 玲に聞く。


「せ、先輩じゃなくていいし、敬語じゃなくていい!よ、呼び捨てでもいいし、なんなら呼ばなくてもいい!」


 必死に訴えてくるが、それは戒斗たちには届かなそうだった。


「俺、玲さんが初めての高校の先輩なんです。ゲームの中っていうのはちょっと変な話ですけど」


 浪河 玲とネムはそこにどんな意味が込められているのかは理解していない様子だった。


「だから、先輩って呼ばせてくれませんか?」


「……!!」


 浪河 玲は依然として黙ったまま戒斗がいる方ではない反対側を見ていた。


「い、いいよ」


 浪河 玲の言葉に思わず口角が上がる戒斗。


「じゃあ……」


「た、ただしー!」


 思いがけない浪河 玲によるストップに戒斗は戸惑った。


「な、なんですか?」


「わ、私と、その」


 戒斗の方をへとゆっくり向き直し、もじもじする浪河 玲。


 すると戒斗の後ろから声がした。


 この場合、ネムである。


「言いましょう先輩!春はもう来てます!」


 と、意味不明な言葉を口にする。


「わ、私と」


 春?


 春といえば、別れと出会いの季節とか誰かが言ってたな。


 それって誰だっけ?


 あぁ、そうだ、テレビのCMだ。


 などと戒斗が考えているうちに答えは出てしまった。



「と、友達になってくれない、?」



 戒斗は一瞬フリーズした。


 その頭の中に補足説明としてネムの言葉が流れ込んでくる。


「玲先輩って友達と呼べる友達もいないとか。それで唯一いた友達に誘われたこのゲームをやっていたけど、その友達が急に辞めると言い出した。1人になった玲先輩を赤姫さんたちが拾った。結局このゲーム内でも友達と呼べる友達もできないまま。今に至る」


 ネムの言葉は途切れた。


 ネムの言葉は浪河 玲の耳には入らなかった。


 何故なら先程から戒斗同様フリーズしているからだ。


「なってくれない?」の「い?」の口で止まっている。


 これは、戒斗がYESかNOを言わないと先へは進まなそうだ。


 それがトリガーなのだろう。


 ネムの説明を聞いた戒斗は、いや、聞かなくとも決まっていた。


 戒斗は友達が欲しいのだ。


 それは誰がなんと言おうとも優先順位が非常に高く設定されている。


 本来ならば自ら懇願するところを相手からお願いされたのだ。


 こんなチャンスはない。


 戒斗がこのあと首を縦に振ったのは言うまでもない。

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