第42話 微かな疑惑 Slight suspicion

 それからというもの。


 ネム、戒斗、玲はすぐに打ち解けた。


 玲は相変わらずのぎこちない話し方ではあったが、ちゃんと話す対象の人間の方を向いて話すことができるようになっていた。


「玲先輩の着てる服。俺もつい最近まで着てました」


 戒斗が言うと、玲は少し顔を赤くしながら、


「わ、私。あんまり最近の流行とかファッションがわからなくて…。適当な服ばっかり着てるの」


「わかりますわかります!俺もファッションというかそもそも服を選ぶことの必要性が分からなくて。他の人がそれはダメだって言うんですけど。全然違いがわからないんですよ。」


 するとネムが少し後退しながら、


「えー、カイトさん、それは終わってますよ。それは完全になんか服着ればいいっていう原始人みたいな発想ですね」


 ネムの言葉で戒斗にダメージが入った。


「で、でも。今すっごくオシャレしてるね」


「確かに!そう言ってる割には良いセンスですよ?」


 玲とネムが戒斗の服装を褒める。


 しかし、この服装が良い事を理解していない戒斗は自分の服装を褒められたとしてもあまり喜べなかった。


「あぁ。これはリナに選んで貰ったんだ」


「なるほど。リナさんだったんですね!それなら納得です!」


 普通の人が聞けば怒る人も出てくるかもしれないネムの言葉は戒斗の心にはノーダメージだった。


 どちらかと言えばメンバーを褒められたことに対する喜びの方が強かったか。


 すると、玲がまたそっぽを向いてしまった。


 戒斗とは逆の方を見て、顎を少し上げてツーンとしている。


 そして一言呟いた。


「……リア充」


 それを聞いた戒斗は反論した。


「いやいやいや!先程も言いましたが!本当に現実リアルに友達いないんですよ!リア充っていうのは現実世界リアルで充実してる人って意味でしょう?!だったら仮想世界このせかいにしか友達と呼べる友達がいない俺はリア充じゃないんです!」


 戒斗は自分で説明していて悲しくなってきた。


 しかし、玲は納得するような感じはなく、依然として反対側を見たままだった。


 ネムは少し納得したのか、


「じゃあ仮想世界で充実してる人はなんて呼ぶんですかねー?」


 とやけにニコニコしながら戒斗に聞いていた。


 戒斗はネムと一緒に考えていたのだが、玲がふと


「…私には仮想世界にも友達がいないのに…」


 と呟いた事から戒斗とネムは互いに顔を見合わせて、玲の方を神妙な面向きで見た。


 戒斗はゆっくりと事情を聞くことにした。


「赤姫さんたちとは仲良くないんですか?」


 玲は少し困ったような顔をした。


「な、仲良しなのかな?ううん。違うと思う。私にみんなが合わせてくれてるの。そ、そんな感じがする」


 戒斗は考えた。


 1人ぼっちになった玲先輩に赤姫さんたちは合わせている。


 合わせているのならなぜそんな事をわざわざするのだろう。


 そんな事をするのなら初めから組織ギルドに誘わなければ良かったのではないか。


 情けをかけたのか。


 それとも別の理由があったのか。


 戒斗は玲に聞いた。


「赤姫さんたちとはどうやって知り合ったんですか?」


 玲は即答だった。


「友達の紹介」


「え?」


「げ、現実世界でも仲の良かった友達が急遽このゲームをやめるって言い出してね。その子が私と一緒にゲームをする前から知り合いだった組織ギルドに私を紹介してくれたの。それが赤姫さんたちの組織」


 なるほど、と戒斗は思った。


 その繋がりがあったから赤姫さんたちの組織も玲先輩を受け入れたのか。


 そして玲は続けた。


「そ、そしてその時に私の友達は私に魔法を渡してくれた。それがあの魔法」


 あの魔法、とは 【金:"最上位"対象破壊魔法=シャイニングレイン】の事だろう。


 玲のレベルで最上位魔法が使えることに少し疑問を抱いていた戒斗たちだったが、そういう原理だったのだ。


「あ、赤姫さんたちのこと、どう思う?」


 突然玲が戒斗とネムに問いかけた。


 客観的意見が欲しいのか。


「ハンクさんは頼れるリーダー剣士って感じで、ジャックさんは力強くて脳筋な感じで……」


「おいネム。それはちょっと失礼だろ」


 ネムの正直発言に突っ込んだ戒斗を見て玲は口に手を当てて吹き出した。


 意外だったもので、戒斗とネムは玲の方を凝視してしまった。


 その視線に気づいたのか、玲はいつもの表情に戻り、


「つ、続けて」


 と背筋を伸ばした。


 ネムに続くように戒斗が話した。


「赤姫さんはハンクさん寄りのリーダー気質ある、場のまとめ役みたいなポジションですね。巋緜氎ぎめんちょうさんは紛れもないホストですね。実際リナも口説いてましたし。ポジションで言うボケでしょうか。まぁ本人はボケているのかわからないのですが」


 戒斗の細かい第一印象の説明に玲は頷きながら聞いていた。


「それで……」


 戒斗が最後の1人の印象を話そうとしたとき、玲は前のめりになって戒斗の近くに出た。


 気にせず戒斗は話し始める。


「マルスさんは知的で誰に対してもさんつけ。とても好感の持てる良き先輩といった印象です。」


 その戒斗の言葉に何か物足りないと感じたのか、少々呆れた様子で後退していく玲。


「な、なんなんですか?玲先輩」


 戒斗が聞くが、答えは返ってこない。


 黙り考えている様子を見せる。


「あ、もしかしてー。マルスさんのことが好きなんですか?」


 ネムがニヤニヤしながら玲に聞く。


 ネムは顔を真っ赤に染めると予想していたのか、真顔の表情で少し俯く玲を見て見当違いな様子を見せる。


「そ、それはないと思う。でも……」


 玲は一度区切った。


「ま、マルスさんのこと。全然わからないんです」


「全然わからない?」


 ネムが玲に聞く。


「う、うん。いつも何考えているかわからないし。赤姫さんたちともあまり仲良くないみたいだし」


「そうなんですか?!」


 戒斗が意外そうに聞く。


「う、うん。それもまたマルスさんが赤姫さんたちに合わせてるみたいな感じで……」


「複雑なんですね」


 ネムが同情する。


「う、うん。私とマルスさん以外は現実世界でも面識あるみたいなんだけど。マルスさんのことに関しては私たちは知らないことばかりな気がするの」


「知ってる事といえば?」


 戒斗が聞く。


「だ、大学生だってことくらいかな。あとはほとんど知らない。ど、どうしてこの組織ギルドに入っているのかも知らない」


「それはマルスさんが隠すってことですか?」


 ネムが聞く。


「う、うん。それが一番大きいね」


「いつかその関係も良くなればいいですね」


「そ、そうだね。ありがとう」


 ネムと玲が話を締める。


 戒斗は少し考え事をしていた為に周りの声が聞こえていなかった。


 少し下を向いた状態で固まっていた。


 それを見たネムは


「何考えているかわからないっていうのはカイトさんも同じですよねー?」


「お、俺?」


 玲も同情する。


「た、確かに。いつも何かを考えてる」


「そんなこと無いですって」


 戒斗が2人を抑える。


「カイトさん。私たちに何か隠し事してませんか?」


「か、隠し事?」


 戒斗は真っ先に思いついた。


 アカウント共有の件を。


 だが、話すつもりはない。


 折角友達になったのだ。


 こんな早く失ってたまるか。


「ないない!」


 笑顔で答える戒斗。


 まだ不審な目で見られるが、戒斗は否定を続けた。


 何故なら。


 あの自己紹介の場で自分の武器等を公表し合ったが、一番大事と言っても過言ではない、"魔力系統マジカルディセント"を公表し合ってないからだ。


 武器などその場で適当に言っておいても後から変更可能だ。


 しかし、変更不可の"魔力系統マジカルディセント"を公表しないということは敵対の意思が明確に残されているということだろう。


 今、仲良くなったとしても、戦場では敵として。


 戒斗は明日また戦う覚悟を決めた。




 *




 暗い路地裏。


 ほとんど月の光も当たらない暗黒の世界。


 その世界ではしーん、という音が耳を圧迫しているようだった。


 そんな世界に3人の人影。


 顔が暗くてよく判らない。


「これであとは3組織ギルドか。案外余裕なんだよなぁ。このゲーム」


「それな。2人動かすだけでほとんどわかっちまうんだからな。楽勝楽勝」


「にしても、アイツ来なくねぇか?」


「まさか、逃げたか?」


「ふっ、まさか。アイツが逃げられる訳ねぇだろ。まぁ。逃げたら逃げたでその意思を称賛して潰す」


「笑えねぇーな(笑)お前マジで潰すもんな」


「お、来たみたいだぞ」


 遠くの方から聞こえてきた足音を聞く為に3人の口は塞がれる。


 依然として顔はわからないが、どこか俯いている様子だ。


「よぉ。佐藤。さっさと情報教えろや」


「いきなり個人名ワロタ」


「ちっせぇことは気にすんなや」


 後から来た佐藤と呼ばれる人間は口を開いた。


「ま、まずはから話す」

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