第43話 闇夜の遭遇 Dark night encounter

 ネムと玲と別れたあと、戒斗は1人で第5区画の夜の街を歩いていた。


 2人はその場ですぐにログアウトしていった。


 戒斗もログアウトしようか迷ったが、やはり明日の準備をしておくことにした。


 街灯がかろうじて地面を照らしている為、所々に設置されたショウウィンドウから発せられる光が眩しく感じた。


 さてと、この街の店も見てみるかな。


 そう戒斗は思っていたが、路地裏へと繋がる暗い道から出てきた人とぶつかってしまい、足を止めた。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 路地裏から急に出てきた人はペコペコと頭を下げて戒斗に謝った。


 戒斗はその声をどこかで聞いたことがあった。


 いや、今日だ。


「その声は、マルスさん?」


 その声に相手も気づいたのか、下げていた頭を上げる。


 そのまま「なんだ、カイトさんでしたか」などという発言をマルスはしてくると戒斗は思ったのだが。


「う、うわぁぁ!」


 あまり似合わない声を上げるとマルスはそのまま後ろに尻餅をついてしまった。


「ど、どうしたんですか?」


 困惑しながらも戒斗は聞く。


 大分焦っている様子を見せるマルス。


 戒斗は一瞬顔が酷似した他人かと思ったが、顔や上げた声が偽物にしては似過ぎていた。


 そっと手を差し出す戒斗。


 その手を見てマルスはメガネを一度整えると、戒斗の手を取った。


「い、いや。すまない。ちょっと乱してしまった」


 戒斗がマルスを持ち上げるとマルスは足元を数回叩いて付着した砂を払った。


「な、何かあったんですか?」


 戒斗が心配そうに聞く。


「な、何もないさ」


 マルスはいつも通りの声のトーンで答える。


 だが、その手は微かに震えていた。


「そ、それよりも。カイトさんは何故ここに?」


「俺ですか?俺はこの街を散歩に来ただけですよ」


 するとマルスは苦笑いを浮かべながら


「ふっ。夜の散歩なんて良い趣味ですね。私はこんな闇の世界、早く抜け出したいんですけどね。」


 抜け出す?


 なんだそのこの場所から縛られているような言い方は。


 戒斗は考えたが、わからなかった。


 抜け出したいのなら早くログアウトでもすれば良いじゃ無いのか?


 苦笑いを浮かべるマルスに戒斗は聞く。


「マルスさんは赤姫さんたちとはあまり仲良くないんですか?」


「……」


 突然の話にマルスは少し固まった。


 だが、そのあとにまた口元だけ笑うせると


「気づいたのか。結構そんな感じを出さないように努力したつもりなんだけどね」


「え?」


「どこで気づいたのかな?」


 マルスの言葉。


 本当に周りに合わせているようだ。


「いえ。気づきませんでした。気づいたのは俺ではなく、玲先輩です」


 一瞬考える素振りを見せたが、何かを理解したように数回頷くと


「あぁ。浪河 玲か。彼女は私と同じだと思っていたのだが。いや。それ故に気づいたという感じか」


 戒斗が頭にハテナマークを浮かべているとマルスは続けた。


「君が気にすることではない。私には私のがあるだけ」


 それは、自分があの組織(チーム)に合わないとか、あの人がいるから俺が話せないとか、合わせているといった事情ではないことはわかった。


 マルスが語るとは、もっと深く感じた。


「いや。気にしますよ。マルスさんが悩んでいるのなら俺は手伝いますよ。何かお手伝い……」


 しかし。


 その戒斗の言葉をマルスは強引に封じた。


「君に何ができる!!」


「え…」


「いや。君には何もできない。俺を手伝う?知ったような口で言うな!」


 戒斗はマルスの言葉で一蹴される。


「それでも!」


 戒斗は負けじと食らいつく。


「俺とマルスさんはもう友達みたいな……」


 その言葉を聞いたマルスは一層目を鋭くさせ、戒斗の胸ぐらを掴んだ。


「友達だと?笑わせるな。お前は俺の友達ではない」


「……!!」


 マルスは掴んでいた手を離すとメガネを整えた。


 そして唖然としている戒斗を見て


「もう2度俺の友達などと言うな」


 吐き捨てた。


 そして一瞬顔を和らげると


「このくらいの関係の方が明日徹底的に戦えるだろ?だから俺も潰せるはずだ」


 そして去り際、マルスは戒斗には聞こえない程度の声で一言放った。


「……そして俺を解放させてくれ…」


 呆然と立ちすくんでいた戒斗はマルスがログアウトをしていくのを見てどうすることもできなかった。


 止める、ことなどできない。


 そんなことをして何になるのか。


 戒斗の頭の中では先程マルスに言われた言葉が響いていた。



   『お前は俺の友達ではない。』



 俺は何か間違っていたのだろうか。


 戒斗はそう考えた。


 だが、答えなど出てこない。


 戒斗は先程すんなりと友達ができたことを経験してもしかしたらあの食事会場にいた全員とはもう友達みたいなものなんじゃないかと勘違いしていた。


 その勘違いは今証明された。


 俺は少し有頂天になっていたのかもな。


 そう、戒斗は反省した。

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