第65話 終結 Termination

 第八区画特設総合闘技場の観客席は大きな盛り上がりを見せていた。


 中でも目を引いたのはDブロック出場者、カイトの活躍。

 目くらましを使った攻撃で混戦状態に持ち込み、として高い評価を得た。

 時には逃げ、時には前に出るその戦法は多くの人を魅了するとともに、低レベルプレイヤーに希望を与えた。


 しかし幾つか不可解な点もあった。

 ギラの組織の剣士の攻撃を見切ったのはどういう理屈か。

 彼が最後動かなくなったのは何故か。

 攻撃を読み切ったのはギラがS値極振りプレイヤーだと推理したことで、公式組織リーダーの言うことを真に受け納得した様子だった。

 動かなくなったことに関しては彼は諦めたのだと判断する人が大半だった。

 敵わない相手だと瞬時に判断し、降参を選んだのだろうと推測された。

 その姿勢に反感を抱く者も一定数居たが、引き時を分かっていたプレイヤーだとしてまた評価された。


 このように評価が高いのは最後の高レベルプレイヤーによる激しい攻防戦が大きく盛り上がったからだろう。

 公式組織リーダーとソロプレイヤーの戦い。

 高次元の戦いに多くのプレイヤーが魅了された。

 ギラの見せた多彩な戦法。

 それによって発生したリンへの致死量のダメージ。

 暗黒とのタッグマッチ。

 リンの覚醒。

 盛り上がりを見せたのは大きく分けてこのシーンだ。

 初めてリンに致死量のダメージを与えたとして暗黒とギラは大きく評価されたとともに、初めて本気を出したリンには改めてクロミナ最強プレイヤーとしての地位が築かれた。


 見せたのは盛り上がりだけではない。

 暗黒vs義武戦で暗黒が放った詠唱魔法。

 その魔法について議論が白熱した。

「詠唱魔法…そんなものがあったなんて知らなかった…」

 ショックな顔を見せるのは公式本に載る全ての魔法を暗記した魔法オタク、プレイヤーネムリ、通称ネム。

 戒斗のグループと一緒に観戦していたネムとミズナ。

 ネムは暗黒の使用した魔法を知らない様子だった。

「ネムでも知らない魔法なんてあるの?」

「うう、分かんない…見落としていたのかな」

「最近追加されたとか?」

 リナが問いかける。

「いえ、それはあり得ません。私は最近追加された魔法も逐一チェックしていますから」

 きっぱりと自信満々に言うネム。

 話は疑問を残したままで終わった。


 戒斗グループは前回の試合から引きずっていた疑問が払拭されて気分が晴れていた。

 前回の試合、戒斗は何やら特殊な力で相手を倒したように見えた。

 その時戒斗グループは戒斗は何か隠していることがあるのではないかと勘付いた。

 そして戒斗との間に壁を感じていた。

 しかし、今回の戦いではいつも通りの戒斗が観られ、安堵した。

 一つ疑問に思うことがあるとすれば高レベルプレイヤーの剣を避けたことだが、それも「カイトだから」という理由で片付けてしまった。

 兎にも角にも、戒斗に抱いていた疑念は払拭され、PvP大会Dブロック出場者4位という驚くべき結果を笑顔で祝う他ないだろう。



 *



「鎮ヶ崎ジュース買ってこい」

「…」

 順位予想を外したことで怒られた鎮ヶ崎は渋々パシリを遂行した。

 しかし、彼はこの戦いの中で確固たる考えを持った。


 


 鎮ヶ崎のような観察眼を持ち、そして他人の意見ではなく自分の考えをもって行動できる人間にはカイトというプレイヤーが特段不気味に思えた。

 普通なら一瞬で一刀両断されて終わりなはずだが、あの最終局面まで生きていたことを考えるとある程度のレベルのプレイヤーであることは間違いない。

 順位は違えど確実に上位に食い込んできた。

 この予想は間違ってはいなかった。

 彼はカイトに接触する機会を作ることを決意した。

 なぜ自分の力を隠しているのか、その理由を聞きたい。

 鎮ヶ崎はジュースを片手に公式組織本部へと帰還した。



 *



「何が起こっている」

『Crosslamina』の会社『ZONE』のオペレーター室は混乱状態にあった。

 何者かに『Crosslamina』の内部まで侵入された。

 開けられた風穴は閉じられたが、既に侵入を許した後だった。

 状況が混乱し始めたのはプレイヤー暗黒が何やら魔法を唱えた瞬間。

 その瞬間一部機能が停止し、一部プレイヤーに支障が生じた。

 目の前に砂嵐のようなものが発生したとの報告は何件も聞いており、機能がダウンしたことのよる弊害だと見られている。


 しかし、問題はここからだ。

 プレイヤーの個人情報を保護するサーバーに一時的にアクセスができなくなり、強制的に締め出そうとした瞬間にアカウント情報がコピーされたことを知らせる通知が届いたのだ。

 何者かがクロミナのサーバーに侵入し、個人情報を一部コピーしたのならば、それは流出されかねない。

 しかし何が起きたのか、なぜ起きたのか、詳しいことは分からなかった。

 一通のメールが届くまでは。

 クロミナの社長、澤田はメールを見て激しい怒りを覚えた。




 クロミナの管理者の皆さん。

 私はクロミナに存在する1億を超えるプレイヤーの個人情報をコピーしました。

 私の望みはクロミナの破滅です。

 悪魔の巣窟も私の管理下にあり、私が考案したプログラムも実行済みです。

 その名も「クロミナ内で悪魔に倒されたプレイヤーのデータを消去する」プログラムです。

 因みに言うと個人情報がコピーされたプレイヤーは行動不能になりますよね、この手の話はあなた方の方が詳しいので割愛しましょう。

 今すぐにでも個人情報を流出させたいところですが、今ある個人情報のコピーはクロミナ内部にしか存在しません。

 つまりこの世界を抜け出す必要があるのですが、生憎と抜け出す算段が無い。

 だからクロミナ事態を内部から破壊し、プログラムを書き換えます。

 その為に我々魔王軍は一か月後の5月12日、中心都市のサーバーに一斉攻撃を仕掛けます。

 ではまた。




 ドンッ!と机を叩く澤田社長。

 怒りに溢れ、今すぐにパソコンの画面を割る勢いだ。

 個人情報がコピーされたプレイヤーが行動不能になるのはこの世界に二人の同一人物が存在できないことにあるだろう。

 この差出人はきっとコピーした個人情報を基にプレイヤーのクローンを作る。

 その際に生じるアカウントの重複で本来のプレイヤーの行動を制限するという算段であろう。

 全く持って違うアカウントならばアカウント共有を選択することで行動は可能だが、完全に同一となるとクロミナに両者は存在できず、両者とも行動が不能になる。


 澤田社長は思い当たる節があった。

 このプログラムを考案した人物。

 過去にこのクロミナの開発に携わっていた人間でなければ此処まで詳しい内部情報は知らないはず。

 この差出人の正体は。

 このクロミナに攻撃を仕掛けた人物は。


  だ。

 推測に過ぎない、がほぼ間違いない。

 澤田社長はプレイヤー暗黒に事情聴取をするとともに、大会の順位変更を決定した。



 *



 PvP大会 最終結果


 1位 ソロプレイヤー リン

 2位 公式組織『黒龍』リーダー ギラ

 3位 無記名組織リーダー カイト2021


 失格 公式組織『玄武』リーダー 暗黒 (チート行為が露見したため)

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