第126話 感触 Sensation
鎮ヶ崎と桐野は第六区画闘技場の前にやって来た。
闘技場で連日行われているのは武器を使った決闘。
中心都市で武器が使えるのは闘技場内くらいだ。
桐野は慣れた手つきでタブレットに表示された注意事項にチェックを入れていく。
予約は誰でもできる。
プレイヤー同士の決闘を赤の他人が見ることもできる。
観客席はいつでもだれでも入退場可能だ。
鎮ヶ崎は予約手続きをしている桐野の背中を眺めながら桐野について考えを巡らせていた。
桐野の戦闘スタイルは「長剣」。
愛刀である「石田正宗」は石田三成が所持していた刀を模倣したものだ。
戦国時代が好きな桐野から熱く語られたのを覚えている。
初撃はスキルで斬撃を飛ばしてくる。
相手が避けるか弾くかで次の行動パターンが変わる。
避けた場合、その方向を瞬時に察知し、二撃目を繰り出す。
そして体制を崩した相手に向けて渾身の一撃をお見舞いする。
斬撃は同等の攻撃力を持った斬撃や守備力を持った盾、もしくは盾と成り得るものであれば弾ける。
その場合、相手の体制は崩れないが相手が使う武器が判明する。
そして攻撃力、守備力もある程度推測が可能になる。
鎮ヶ崎は思考を止めた。
そして客観的に自分を見つめ直した。
(自分は何を考えている?)
桐野の戦闘スタイルや行動パターンを分析している自分に驚いた。
いつもならそんなこと気にもならなかったはずなのに。
いつも通り桐野の飛ぶ斬撃で攻撃を喰らい、相手のペースに乗って気持ちよく桐野に勝たせてあげる。
そうするつもりだったのに。
なぜか心がざわついている。
胸が締め付けられるようだ。
思考が侵食されていくのを感じた。
「負けよう」から「負けたくない」へ。
「負けたくない」から「勝つ」へ。
鎮ヶ崎の思考は本来ある姿へ、狂っていった。
前のプレイヤーの決闘が終わった。
桐野は慣れたように闘技場内部へと歩んでいく。
鎮ヶ崎は自分の武器を見た。
鎮ヶ崎の役職は魔法使い。
魔法を使って相手を制圧する攻撃型魔法使い。
持っていた魔法の杖を捨てる鎮ヶ崎。
目の前に無造作に落ちている長剣に目を向ける。
拾い上げると二、三度感触を確かめるために握る。
そして腰に携え、桐野が待つ闘技場内部へ進んだ。
「お前、ロングソードなんて使えるのか」
怪訝そうな眼を向ける桐野は鎮ヶ崎が選んだ長剣を眺める。
ほとんど斬れそうにないナマクラのような剣。
刃こぼれのした刀身は傷で溢れていた。
対して桐野の愛刀「石田正宗」には、刀身に大きな切込のような
刀コレクターである桐野の目にはさぞ汚く映っただろう。
だが、当の本人である鎮ヶ崎にとってはどうでもよかった。
ただ、使い慣れた剣で相手を倒せれば。
「始めるぞ」
桐野の声と共に決闘開始の合図が鳴り響いた。
鎮ヶ崎が周囲を見渡してみると観客が大勢いた。
(注目されている)
鎮ヶ崎の身体が震えた。
「よそ見するなよ」
桐野の斬撃が飛んだ。
周囲の人間から向けられた視線を肌で感じ、快楽を得ていた最中、桐野が放つ斬撃への対応が遅れた。
避けることはできない。
弾くことは鎮ヶ崎のレベルでは無理だろう。
直撃、避けられたとしても大きく態勢を崩すことは明白。
鎮ヶ崎の剣は桐野の飛ぶ斬撃を弾いた。
その衝撃で桐野は肩が揺れた。
「なんだ、今の衝撃は…?!」
鎮ヶ崎は自身の剣から発せられた「衝撃波」によって斬撃の軌道をずらした。
聞いたことも無い、剣が衝撃を纏うなど。
これが本当に現実で起きていることならば、このゲームに革命が起きる。
汎用性はどこまでなのか、わからないが、かなり高いのではないか。
衝撃に対抗する術を、ほとんどのプレイヤーは持ち合わせていない。
「衝撃剣…?」
桐野が呟く。
剣が纏うことができるのは各々が持つ魔法の属性ではなかったのか。
ミズナがDブロック予選で剣に水圧を纏わせたのはミズナの魔法系統が水だったからだ。
(鎮ヶ崎の魔法系統は…確か火だったはず)
火を纏った剣なら想定できたし、対応できた。
しかし衝撃を纏うとはいったいなんだ、何が起きているのか。
鎮ヶ崎にとってそれは意図していないものだった。
発動しようと思って剣を振るったわけではない。
ただ、慣れ親しんだ感触を、かつてのゲームで培った振り方をしただけだった。
「衝撃」という概念がこのゲームにおいても反映されることにただただ驚いた。
それは、このゲームが徐々に崩壊を始めていることを示していた。
霧春真治の侵入。
それによって数多の概念が取り入れられた。
そこには存在しないはずの武器も追加された。
いつの日か、このゲームにおける安全地帯など、無くなっていた。
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