第92話 異形変身 Heteromorphic Transformation

 デメルギアスによって倒された西都と東都の『転生者』は多くいた。

 西都のプレイヤーであるデメルギアスの謀反とも呼べる行動によって戦場にいた多くのプレイヤーが背中から刃を刺された。

 だが、最前線で戦うプレイヤーとは別に行動し、密かに行動していたグループがあった。

 それが西都と東都の中レベルプレイヤーによって構成された特殊部隊だった。

 その部隊の目的はただ一つ。

 南都の王、ダンデ・リ・ユニオンの首を取ることだった。

 南都の王宮には既に侵入しており、王座の間の目の前に来ていた。

 そしてダンデ・リ・ユニオン自身が一時的なログアウトをしたという事実を知り、ログインした瞬間を狙った通称復帰狩りを遂行することに決まった。


 元々、ダンデ・リ・ユニオンとは真剣に戦って勝てる相手ではない。

 何処かで姑息とも言える行動をとるほか、彼らには勝利の二文字は有り得なかった。

 相手の不意を突くこと、攻撃されるはずのない場所からの攻撃。

 ダンデ・リ・ユニオンにその攻撃はどこまで有効だろうか。

 5人で構成された特殊部隊の面々は顔を見合わせ作戦を練った。

 ログインした瞬間は一番油断しているはずである。

 その瞬間にどれだけ油断をさせることができるか。

 考え抜いた末、現状維持しか有り得ないという結論に至った。

 何も異変は無かった。

 そう思わせることができれば安心して座り続けるだろう。

 その為に外で上がる爆炎や、爆撃によって生じた煙を鎮火させることにした。

 あくまで普通に、何事も起きていなかったかのように、彼らは隠蔽した。

 結果、王座の間には一筋のオレンジの光線が窓の外から差した夕方の王座の間が完成した。

 環境は整った、あとは攻撃手段である。


 ダンデ・リ・ユニオンが座る王座には地雷を仕掛けた。

 プレイヤーが出現した瞬間に四方八方から弾丸が飛んでくる機関銃を設定した。


 五人の特殊部隊構成員は臨戦態勢を取り続ける。

 何時出現してもいいように、準備は欠かさない。


 そして遂に、日本時間にして23時。

 地雷が発動した。

 大きな炸裂音とともに機関銃が作動する。

 合わせておいた標準に沿って銃を構え、乱射する。

 手応えはある。


(いける!!)


 ダメージの合計は200万、300万はとうに超えていた。

 ダンデ・リ・ユニオンの体力は100万と少し。

 守備力から差引いてもこの大量の弾丸を受けて倒れないわけがない。

 もくもくと煙が立ち昇った。

 機関銃が止まった。

 同時にプレイヤーの手が止まる。


(やったか?)


 プレイヤー同士、顔を見合わせる。

 経験値の移動は行われたのか。

 煙が晴れた。

 そこには瀕死のダンデ・リ・ユニオンの姿があった。

 何やら黒いベールを纏っている。

 黒い闇のような、影のような、煙のような。


「惜しかったな…あと一歩だ」



『 鏖殺帝 』 特殊効果スキル 【異形変身】



 南都の宮殿が崩壊した。

 天井には大きな風穴が空いた。

 そこに立つは巨大な存在。

 巨人のような、なにか異形な存在。

 真紅の目、骸骨にような骨格に黒いマントを身に包んでいる。



 ≪ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ≫



 異形の者の咆哮が響き渡る。

 五人の精鋭たちは恐怖のあまり動けなかった。

 そこにあったのは圧倒的なまでの力の差。

 そして自分の無力さ。

 自分が持つ武器でこの怪物を倒す方法が一切分からなかった。

 一振り。

 怪物は玉座の間に拳を叩きつけた。

 同時に五人の経験値がダンデ・リ・ユニオンに移動した。

 ダンデ・リ・ユニオンが使役する帝、『鏖殺帝』は一時的にプレイヤー自身からコントロール権を奪うという特異な効果を持っている。

 その間プレイヤーは何もすることはできず、生きるも死ぬも『鏖殺帝』次第である。


 プレイヤーにコントロール権が戻るタイミングは二つある。

 体力が残り1になった瞬間。

 一定時間を経過した瞬間。

 時間経過によるコントロール権の返還はランダムである。

 そのため、南都に出現したこの怪物を止められる者はダンデ・リ・ユニオン自身を含め存在して居ない。


 有り余ったその力の矛先は敵味方関係無く向けられていく。

 ものの30分で南都にいた全ての悪魔プレイヤーを鏖殺した。

 その瞬間、ダンデ・リ・ユニオンのレベルが100を超える。

 怪物の背には異形の翼が生えた。

 更なる強者へと会うために。

 怪物は移動を開始する。

 その時だった。


 ゴーン…ゴーン…ゴーン…。


 8月5日になったことを知らせる鐘が鳴り響く。

 怪物は足を止める。

 そして目的を思い出したかのように羽を広げある場所へと向かう。

 あらかじめ知っていたかのように一切の迷いもなく進んでいく。

 その場所はちょうど東都と西都の高レベルプレイヤーが集結していた戦場だった。

 互いに戦意は無い。

 何やらこれから起こる行事を楽しみに待っているかのようだった。


 そして戦地の中心に、彼は現れた。

 彼の名はネメシス。

 この世界最強の天使。


 西都、東都、ダンデ・リ・ユニオン、そしてネメシス。


 この世界の覇権を巡る戦いが今始まろうとしていた。

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