第15話 降臨 Advent
「う、うわぁぁぁ!」
チンピラ三人衆は腰を落としたようだ。
ガクガクと足を震えながら逃げようとしている。
悪魔は大きな黒い羽を生やし、黒い角を2本掲げ、全身黒のその身体には衣服は装着されていなかった。
(やっぱり今の時期に「ガイア」に来るのは危険だったか!?)
頻繁に目撃されている事を知っていたのにもかかわらずクエストを受諾してしまった。
戒斗は悪魔が現れるとしたらもっと高レベルのクエストだと考えていた。
翼も強がっていた時とは全く違う表情を
リナは地面に座りこけてしまった。
(まずいな……)
後ろではツカサがメソメソと泣いている。
剣を握りしめるミズキ。
今まで上級者でも歯が立たなかったんだ、俺らは瞬殺だろう。
その時。
悪魔が高速で上空に上がると逃げようとしていたチンピラ三人衆めがけて攻撃した。
【闇:爆発魔法=
悪魔が魔法を唱えると悪魔の手には1つの大きな黒い球体が生成された。
そして放った瞬間3つに分裂し、見事にチンピラ三人衆に当たった。
「ぐぁぁぁ!」
悪魔が放った攻撃が直撃した3人のチンピラの足元には魔法陣が出現した。
その魔法陣は、"転送魔法"だった。
その3人のチンピラは全員一瞬で転装され、この場に残されたのは戒斗ら5人だけとなった。
悪魔の攻撃に当たったら強制転装される?
確信はない。
だが、悪魔に負けたペナルティとして1日「クロミナ」の仮想世界へ入れなくなる制限が課せられる。
その原理は、もしかすると転装先が悪魔によって作られた"亜空間"なのかもな。
そんな事を考えていた戒斗は中々悪魔からの攻撃が来ない事に気がついた。
「よし!みんな今のうちだ!逃げるぞ!」
戒斗の声に全員後退を始める。
ツカサもなんとか足を動かす事ができた。
しかし、少し攻撃が来なかった猶予も終わったらしく、すぐさま悪魔が進行を始めた。
「うわぁー!き、来てる!」
翼が弱々しい声を上げる。
すると悪魔が魔法を唱えた。
【闇:錯乱魔法=
悪魔の口から放たれた煙幕は戒斗一行の足を止めた。
「な、なんだこれ!?なんも見えねーぞ!」
「攻撃が何処からくるかわからない!」
翼とリナが嘆き訴える。
しかし、戒斗の目にはしっかりと見えていた。
少し見えづらいが、それでも誰が何処にいるのか、そして悪魔がリナを襲おうとしている事が確認できた。
「リナ!しゃがめ!」
戒斗の声にリナはパタリと倒れ込む。
その瞬間、一閃の暗黒の線がリナの頭の上を通過した。
その風で煙幕は払われた。
「あ、危ねぇ……」
戒斗が思わず口にする。
もしも下に打ち付ける斬撃攻撃だった場合即死だったからだ。
それにしても、戒斗の魔法である、
【紫:視覚補強魔法=
はどうやら使用するにふさわしい場所で自動で発動する魔法だったらしい。
煙幕が払われた今、5人の前には悪魔が空を飛んでいた。
「どうすればいい……!」
戒斗は頭の中で考えを巡らせた。
すると何故か戒斗の頭の中では相手の攻撃パターンや味方メンバーの魔法の特徴などが瞬時に頭の中で整理された。
こんな機能があったのか?
否。
それはクロミナの機能ではない。
戒斗が昔に培った、"ゲーム情報処理能力"が記憶とともに復活した証である。
(小5からHS(ヘッド・セット)持ってたくらいだからな……相当やってたんだな、ゲーム)
戒斗は過去を思い出して少し呆れていると、今やるべき事を決めた。
「ミズキ!雷の魔法で素早さを最大まで上げ、ツカサを連れて大南門の方へ逃げろ!」
[了解]
戒斗の言葉にミズキは魔法を唱える。
【黄:補強魔法=
バチッという電気の音が聞こえ、ミズキの身体は電気を帯びた。
髪の毛が電気によって癖っ毛のように盛り上がり、ミズキの周囲1メートルほどには電磁波が発生していた。
ミズキは黙ってツカサを抱えると、一瞬でその場から消えた。
電気の残像を残して。
「は、速ぇ、」
翼が驚きの声を上げていたが、そんな声を上げている暇もなく、悪魔の攻撃が来る。
「リナ!光魔法で目眩しできるか?!」
戒斗が言い放つ。
するとリナはハッと気づいたように光魔法を唱える。
【闇:爆発魔法……】
【金:発光魔法=
長いトンネルから出た時のように目に突き刺さる光。
悪魔は苦しむように鳴くと、少し後ろに後退した。
「走れ!」
戒斗の声に全員走り出す。
しかし、後退したのは何秒かで、すぐさま攻撃が届く射程距離に到達してしまう。
そしてまたもやリナが狙われた。
リナ目掛けて斬撃が飛んでくる。
(それは……無理だ!)
止められない。
完全に戒斗が止められる距離ではなかった。
その時。
【銀:空間魔法=
戒斗の横を走っていた翼が魔法を放つ。
その瞬間、リナに攻撃が直撃した。
しかし、何かが壊れるような音が響いた。
それは、"盾"だった。
「翼!」
戒斗は翼の方を向いて呼びかける。
翼は魔法により、亜空間から盾を出し、その出現場所をリナの前に設定したのだ。
銀系統の魔法はそんなこともできるのか、と戒斗は思った。
そして意外にも戦闘慣れしている翼に驚いた。
だが、翼の方を向くと、思いっきりガッツポーズをしている翼の姿があった。
「よっしゃ!一回も成功したことなかったんだよ危ねぇー!」
ものすごく嬉しそうだった。
何はともあれ悪魔の攻撃を防いだため、また猶予ができたが、逃げれるのは数秒だけだろう。
悪魔がまた動き出した。
「また来たぞ!」
リナと翼は後方を確認する。
そしてまた魔法を放ってきた。
【闇:爆発魔法=
まずい、あれは……。
「私だって守れるわよ!」
「リナ?!」
突然前に出たリナ。
そして悪魔から魔法が放たれる直前に。
【金:防御魔法=
戒斗、翼の後ろに大きな盾が生成された。
そして悪魔の攻撃を防いだ。
「は、初めからそれ使えよ!」
翼が吠える。
「そうしたかったけど!この魔法は一度しか使えないの!もう魔力切れよ!」
「ま、マジか!」
もう守る術は無くなった。
しかし、あと少しで大南門に到着する。
遠くの方に巨大な門砦の頭が見えてきていた。
だが。
「また攻撃くるぞぉ!」
翼が悪魔の攻撃が来るのを察知した。
あの構えは斬撃か。
悪魔は横に手を突き出し、今にも振り払おうとしている。
まずい、もうリナは魔法が使えないし、翼の盾も期待できない!
戒斗は頭の中で考えていたが、
「俺に任せろ!」
颯爽と前に出たのは自信満々の翼。
先程の攻撃を止めた事で自信を得たようだ。
「翼!」
翼が魔法を唱える。
【銀:空間魔法=
が。
「え、な、なんで?!」
翼は放つ場所を誤り、悪魔の後方の方で魔法が炸裂していた。
「やば、」
「翼!」
翼が後ろに逃げようとしたが、間に合わず、攻撃が直撃した。
≪ザンッ!!!≫
身体をえぐられるような音がフィールドに響いた。
「か、カイト……!」
翼の身体に覆いかぶさるようにカイトは身代わりとなって攻撃を受けた。
「は、早く……逃げろ!」
翼は顔を真っ青にしながらも、怯えるように後退して行った。
攻撃を受け、自分自身では身動きが取れない"瀕死"の状態になると目の前に100秒のカウントダウンが表示される。
その時に20秒間メンバーに蘇生をしてもらう事で復活する事ができる。
だが、今回はその20秒すらも惜しかった。
というか無かったのである。
戒斗は一定時間動かなくなった悪魔の方を見た。
そしてそれが動き出し、またあの2人の方角へ向かったのを確認した。
身動きは取れないが、ステータスを確認することはできる。
これが1
1
バトルフィールドには
しかし、
そしてその間に、ステータスを開くことだけでき、自身のチャットから仲間を呼ぶ事だって可能なのだ。
但し、魔法や道具は使えず、連絡手段として使用するか、自身の"設定"を行うかが選ぶ事ができる。
自身の設定が、できる。
戒斗は
2人の白い丸は大南門へ一直線に向かっている、が、そのすぐ後ろに悪魔の黒い丸が追っていた。
戒斗はもう方針を決めていた。
(もう、やるしかない!)
戒斗はステータスにある"設定"から「アカウント共有」を選択した。
*
悪魔は距離にして4メートル。
リナが悪魔の目線に気づくと嘆き始めた。
「な、なんでよ!なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ!折角……折角こんないいメンバーに出会えたのに!なんでよ!」
リナの目には涙が浮かんでいた。
悪魔が迫ってくる。
翼は「ディスプレイ」と叫ぶと戒斗の生体反応が消えたことを確認した。
「……くそ!俺があんなことしなければ!調子に乗らなければ……」
翼は酷く後悔していた。
あの時調子に乗ってしまった自分自身に。
そして見捨てて逃げた自分に。
「カイトは1日contact出来なくなる……くそが!俺がcontact出来なくなった方がよかったのに!」
翼も嘆き訴える。
だめだ……。
もう魔法は使えない。
リナはどうするべきか頭の中で考えた。
だが、どう考えても逃げる以外の選択肢が思い浮かばない。
リナと翼の目の前には悪魔が立っていた。
魔法を放とうとしている。
終わった……。
(か……い……と……)
その時だった。
≪ズバン!!≫
と、この世界で1度も聞いたことがないほどの気持ちのいい何かを切断する音がした。
目を瞑っていた私は目を開けた。
そこには片腕を切り落とされた悪魔の姿。
そしてソイツから聞こえる断末魔のような声。
(うるさい……な。)
―――え?―――
悪魔の腕が斬られた?
悪魔、魔王軍を倒すためにはそれ相応の武器が必要だって……
ということはまさか……。
リナが思考を巡らせているうちに悪魔が再び残った腕で魔法を放とうとしていた。
(危ない!)
リナは目を瞑った。
その時。
何かに力強く支えられてたような感覚を覚え、目を開ける。
そこには……。
全身を黒光りした鎧で包み、頭装備はロボットのように歪。
胴、脚は西洋の騎士のようなデザインの……。
夢のようだった、でも夢じゃなかった。
「聖騎士……エグバート?」
リナは声を絞り出した。
正直待ちくたびれていた。
(でも、やっと…目覚めた!私の選ばれし最強の勇者様!)
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