第14話 遭遇 Encounter
20時になった。
空は少し曇っていたが、雲の隙間からはキラキラ輝く星が綺麗だった。
戒斗は再び4人がいる大南門周辺へと向かった。
勿論アカウントは「カイト2026」である。
すると既に4人集まっており、戒斗を待っていてくれたようだ。
「悪い、遅れたな」
現時刻は20時ピッタリで、戒斗は遅刻などしていないのだが。
(こいつらどんだけ楽しみにしてたんだ?まぁいいが。)
「遅いわよーカイト!」
「何してたんだよ!カイト!」
「今来たところなので、その、大丈夫です…」
[遅いぞ、カイト]
4人からの一斉返信が来た。
みんな楽しそうで何よりだ。
「じゃあ!全員揃ったので、レッツゴー!」
リナの掛け声に俺と翼以外が答える。
「お、おー」
弱いが、可愛い声だ。
[おおおおおおおおおW(`0`)W]
ショタコンお姉さんは別の意味で声をあげてるみたいだった。
「ミズキさん、元気いいね」
急なツカサからの言葉にミズキは一瞬フリーズした。
その後なんとか態勢を立て直し、チャットを打った。
[元気よ]
(いや、それだけかよ。)
そう突っ込んだ戒斗の元に個人チャットが来る。
ミズキからだ。
[ご馳走さまでした。]
(何が?!)
(まったく、そういうことはグループチャットで言えって……。なんで俺に言うんだよ。)
疑問に思いながらも戒斗は低レベルなクエストを早く終わらせたい気持ちが強い翼を先頭に歩みを進めた。
しかし、何かに気づいた戒斗は足を止める。
「待て、翼。あそこにある道具屋で回復薬とか買って行った方がいいんじゃないか?」
すると翼は即答した。
「いらねーよ、そんなもん。今回受けるのはレベル1向けのクエストだろ?」
「でもな、「ガイア」の隣にある「魔王軍の領域」から悪魔が来ることもあるんだろ?それを念頭において考えるとやっぱ必要なんじゃないか?」
「んな事知ってるよ!そんなん滅多に現れないから大丈夫だよ!」
「心配なら買いに行くべきね」
リナは戒斗の意見を尊重しているようだ。
「翼。アンタは多少の回復薬は持ってるんでしょ?私は持ってないから買いに行こうかしら」
「…………」
翼は押し黙る。
「まじで?じゃあ俺も行くわ。そこに道具屋あったよな?ツカサも行こう。必要だよ」
「は、はい。買います!」
[なら私も行くわ]
「…………」
「悪いな翼。お前はここで待っててくれるか?」
すると少し小刻みに震えながら
「行くよ!!」
と言い張った。
*
大南門前に並ぶ商店街。
大体バトルフィールドへ繋がる門の前にはこういった商店街がある。
今回訪れたのは「NEWS」と言うお店で、ファンタジーの世界によくある木造建築の歩いたら足場がギシギシ鳴るような趣のあるお店ではなく、現代のコンビニに近い……いやもうコンビニだった。
序盤で述べた通りこの仮想世界は現代風とファンタジー風が融合している。
その為少しも違和感を覚えることは無かった。
何故なら遠くを見ると山ではなく、林立する高層ビルであるからだ。
余談だが、この世界に存在する多くの高層ビルは仮想世界のNPCAIを制御する為に設置されているとか。
つまり大きなスーパーコンピュータと想像して貰えばいいだろう。
「凄い!『クロミナ限定 ポテチ』だって!食べてみたい〜!」
リナが棚にあった珍しいポテチを見て声を上げる。
「おい、リナ!遊びに来たんじゃねーんだぞ!買うもん買ったらさっさとクエスト行って帰るんだ!」
「あ〜!見て見てカイト!『クロミナジュース』だって!どんな味するんだろ!」
リナは翼のことは気にも留めず、珍しい商品に夢中のようだ。
「飲むとHP回復するのか。意外といいかもな。……でもよく見たら全部飲まないと効果ないらしいな。」
「えー?本当?それは一気には無理だね。これ炭酸ジュースだし」
楽しそうに会話する戒斗とリナ。
一方ツカサは無難にポーション売り場を物色していた。
「うーん、どれがいいんだろう……。『HP回復ポーション SP』かな?って、げ!2000 G(ゴールド)もする!高いんだな……」
[買ってあげようか?]
ツカサの後ろを着いてきていたミズキ。
「い、いや!流石に電車代も払ってもらったのにそれは駄目です!」
[いいんだよ。買ってあげるって]
すると翼が乱入してきた。
「いや、いらねーよ!特にお前にはまだ!"SP"だぞ?HPを"大回復"するポーションだぞ!俺も持ってないわ!」
するとミズキが翼の方を向く。
[黙りなさい。この子が買うって言ってるじゃない。だから私は買うのよ]
「いや、買うとは言ってないんです!ミズキさん!」
「お前には『HP回復ポーション S』でいいんだよ。"小回復"でもお前のHPなら満タンになるだろ?」
ミズキは買いたそうにウズウズしていたが、翼の言い分は至極当然の事だったのでそのままツカサが自分で決めて買う方針に合意した。
*
「みんな行くよー?」
リナの掛け声で買い物を済ませたメンバー全員は外に出る。
そしてそのまま大南門へ向けて歩き出した。
大南門はいつも通り大きく開いていた。
この門を境に絶対に命の安全を保障された"
つまりこの先は武器の使用は可能となり、敵NPCAIも当然現れる。
戒斗含めグループメンバーの顔が少し強張ってきた。
翼は余裕そうだ。
その姿と対照的にツカサはおどおどして落ち着かない様子だった。
戒斗が聞くとどうやら初めてのバトルフィールド及びクエストらしい。
それは緊張するよな。
戒斗一行は全員で大南門の入り口に横並びで整列する。
「じゃあ、みんな準備はいいか?」
戒斗の呼びかけに全員頷く。
戒斗を先頭に中へと入っていく。
入り口は膜のようなものがあり、それを抜けるとバトルフィールドへと行ける。
ザッ。
バトルフィールドの地面を踏む。
戒斗に続くように他のメンバーもバトルフィールドへと入った。
ツカサは相変わらずおどおどしていた。
左手の方向には巨大な転送装置があり、前方180度は全て野原だった。
少し凹凸のある大地で、綺麗な川が太陽の光を帯びてキラキラと光っていた。
このバトルフィールドはどうやら現実時間とリンクしていないようで、空は21時を回っているというのに明るかった。
青い空に白い雲。
いい天気だった。
クエストの指定場所はここから少し離れた平原。
お花畑が目的地だ。
移動は上級者なら「ガイア」内に多数設置された転送装置を使って
あまり魔力とG(ゴールド)を消費したくない戒斗一行は目的地へ向けて歩くことになった。
その間何故か戒斗ら5人は少しプライベートな話をしていた。
「なぁリナ、じゃあお前はどういう男がタイプなんだよ」
翼からの質問。
「え、私?そんなの決まってるじゃない!最強の勇者様よ!」
翼とツカサの頭の上にははてなマークが乗っていた。
ミズキは小耳に挟んだことはあるようだ。
「聖剣を使いしクロミナ界最強の騎士!魔王軍を打ち倒し、この世界に光をもたらす指導者!カッコいいわ!!」
ここまでくるとキモいな。
翼は言った。
「お前、キモいな」
(ド直球だな、まったく)
だが、何故か戒斗と翼はこういう時だけ話が合った。
「はぁぁぁ?!あんた!厨二のくせに私の彼を侮辱するの?!」
(いや、いつお前のものになったんだその彼は。てか、そういえばその彼は俺なんだよ。どうしよ)
戒斗がは頭の中でこれからの方針を考えていた。
すると今度はリナが話を振る。
「じゃあさ!ミズキはどういう男が好きなのよ?!」
(まずい!)
戒斗はミズキの方を見た。
(ミズキお姉さんのショタコンがバレる!)
どう誤魔化すのか、それともいっそのこと告白するのか。
戒斗が考えていると、グループチャットにチャットが届く。
[可愛い人かな?]
(なんだそのクエスチョンマークは!語尾が違うぞ語尾が。文を肯定文で作れ!)
戒斗は心の中で全力で突っ込んでいた。
そうこうしているうちに目的地であるお花畑に着いた。
「うわぁ!きれいだなぁ!」
先程まで落ち着かない様子でいたツカサが珍しく声を上げる。
広大な土地に何百万本もの花々が咲き誇っている。
たしかにこれは美しい。
今回のクエストの内容は「黄色い花を50本採取せよ」というものだ。
簡単そうに聞こえるが、先程言った通りこの土地には何百万もの花が咲いている。
色も形も様々なのである。
そのため見つけることは意外と簡単ではないのだ。
翼が渋々下を向いてお花畑を歩いていると前方不注意、他のプレイヤーに当たってしまった。
ドンッ。
「あ、悪い。俺の……」
翼が謝ろうとして上げた声は遮られてしまう。
「なんだこのガキは?」
「偉そうだなぁ!ああ?!」
「レベル40ちょいのカスが!」
お花畑が似合わない3人組のチンピラが翼に寄ってきた。
(まずいな)
完全に喧嘩を売られている。
戒斗は知っていた。
翼は口も悪いし、態度もでかい。
でもそれなりに周りを見て言葉を選んでいることを。
しかし、目の前の輩はそんなことは微塵も感じられなかった。
ただ、相手を罵倒するためだけに発された言葉だ。
まるでクラスの奴らみたいだな。
戒斗は1人でにそう思った。
相手のことを理解せず、理解している、自分より弱いと決めつけ、思い上がり、差別する。
戒斗はこのままではいけないと思った。
「ああ、たしかに今のは俺の仲間が悪かった、それでいいだろ?」
戒斗はあくまでこちらが悪いことを認めた上で話をしようとした。
これで少しはまとまってくれると思ったのだが。
「はあ?だったらちゃんと謝れよ!土下座しろ!お前がやんねーならお前がやるか?」
そう言い俺の方を指差してくる。
コイツらのレベルは50。
戒斗のグループの誰よりも強い。
戒斗はちらりと後ろを見た。
ツカサとリナが怖がっている。
ミズキは震えながらも剣を握ろうとしていた。
やはりこの世はレベルが高い奴が、1番強いんだな。
当たり前のことを考えていた。
例えここでアカウント共有をして自分の方が強いと証明しようとしてもそれでは意味がない。
それはこのチンピラ共と同じ行為をすることになる。
それは本当の強さではない。
三人衆からの土下座コールを耳に俺は土下座をしようとしていた。
翼のプライドが高いことは知っている。
だからここは俺が……――。
膝を地面につけようとした、
次の瞬間!
ドーン!!!
横から隕石でも落ちてきたんじゃないかと思われるほどの爆発音がした。
そしてその音の方向から咲き乱れていた花々が次々と真っ黒に枯れていく。
ツカサはあまりの音の大きさに泣いてしまった。
ミズキがそっと抱きしめていた。
爆音がした先を見る。
そこには……
頭に角を生やした"悪魔"がいた。
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