第13話 記憶 Memory

 クロミナのcontactを一時的に切ると夕飯のためリビングに行った。


  するとサランラップのかかった夕食とともに置き手紙が置いてあるのを見つけた。


  どうやら祖母からのようだ。


  内容はこうだった。


  [戒ちゃんへ。夕飯を置いておきました。温めて食べてください。何度か呼びかけたんだけど気づかなかったみたいだね。部屋に行ったら真っ暗でゲームしてるみたいだったから驚いたよ。実は今日そのゲームの話があるんだけど、]


  戒斗は後ろに続くと思われる文章を読むために手紙を裏返しにした。


  案の定裏面に続いていた。


  [またあのゲームをやるようになったら渡しておいてって戒ちゃんのお母さんに言われてたの。戒ちゃん、今お勉強頑張ってるみたいだからあの子、渡すのを渋っていたみたいだけどね。]


  渡す物がある?

  なんだ?


  [それは戒ちゃんの部屋のクローゼットのタンスの1番下の奥の方に入ってるみたいよ。]


  それを聞いた戒斗は急いで自室へ向かった。


  お母さんが隠していた物。


  クローゼットを開け、中に設置されているタンスの1番下の段を開ける。


  そこには。


  茶菓子が入っていそうな薄い長方形の箱が入っていた。


  箱を開けるとそこには昔使っていたイヤホンや、カードゲームのデッキ。


  戦隊モノのフィギュアなどそこには過去の大切な思い出が大切にしまってあった。


  ふと戒斗は小さな紙切れを見つけた。


  真っ白な紙切れ。


  裏返すとそこには、



  「00002581……?」



  その時。


  またもや耳鳴りと共に激しい頭痛に見舞われた。


  先程感じたものと同じだ。


  この痛みは……。


  記憶が蘇る前兆。


  またもや5年前と思われる戒斗自身の姿が脳に映し出される。


  あまり見えないが、またもやクロミナの画面だ。


  「まめつけん、しゃいりある…」


  映し出された文字を読んだ。




  【魔滅剣】


  【5年前の俺】


  【クロミナ】


  【コード】


  【00002581】




  (はっ!!!)


  頭に雷が落ちた。


  ごちゃごちゃに絡まり合っていた全ての単語が繋がった。


  戒斗は静かに笑っていた。


  そして過去の自分に感謝の言葉を述べていた。



 *



  7時30分。


  戒斗は自分がクロミナの世界で最強であると確信を持つようになってきていた。


  理論的にこのコードのアカウントでログインすると5年間放置したデータが蘇る事が分かっている


  ……筈である。


  絶対なる確信はまだない。


  なんかの拍子にスマホが壊れた時にデータごと逝ってしまった可能性も否定できない。


  だが、クロミナには自動保存オートセーブ機能がある。


  Crosslaminaのサーバーの中に戒斗の五年前の自動保存オートセーブデータが残っていれば復元できる可能性はある。


  それに加え、リナが言っていたため分かる通り、戒斗の剣である"魔滅剣シャイリアル"の安否は確認できている。


  データは多分残っている。


  しかし、戒斗は本当にそれでいいのかと疑問に思っていた。


  戒斗はたしかに強くなりたい、高レベル上級プレイヤーになりたいという欲求もあった。


  だが、それは決して最強じゃなきゃならない訳ではなかった。


  戒斗は楽しい高校生活を送ることができればそれでいいと思っていた。


  最強の姿でグループメンバーの前に出ればそれは敬われるし、褒められるだろう。


  だが、そうしたらメンバーとの関係は崩れてしまうかもしれない。


  あいつらは俺が最強、さらに言うと上級プレイヤーじゃないから近寄ってきてくれた。


  最強だったら見向きもしないだろう、いや、見れないだろう。


 戒斗は奥歯を噛みしめ、過去の自分の姿を思い返した。


  戒斗はアプリを開くとホーム画面の右下に小さく表示されている「?」アイコンを押す。


  そこから[データ復元]の欄を押した。


  そのあと出てきた8文字の数字を入力する空欄にコードを入力をした。


  その後、復元するデータを読み込むため、HS(ヘッド・セット)の装着を促された。


  "目"の情報を読み取る為だろう。


  戒斗は装着すると目の前に大きく表示されている「しばらくお待ち下さい」という文字を見ていた。


  現状はcontactはしておらず、ただのVRゲームのような画面になっている。


  すると幸いデータは全てクロミナのサーバーに保存されていたのようで無事だった。


  しかし、同じ目の情報から2つのアカウントがある事が判明すると共に、同端末上に複数のアカウントが存在することになってしまうといった内容の警告通知が届いた。


  そして選択画面が用意され、そこには[1つのデータを消去する]と[アカウント共有と連携する]があった。


  "アカウント共有"はcontact後のステータス画面から行われる設定である。


  アカウント共有により2個のアカウントを持つ事が可能だが、勿論片方を選択した状態でそのアカウントを消去しても自然にもう一つのアカウントに切り替わるだけで2つのアカウントが重複して消去されることはない。


  戒斗は迷わず[アカウント共有と連携する]を選択した。


  すると[contactを開始します]という表示が現れ、[身体を仰向けにして安静にできる場所に移動してください]という注意書きが表示された。


  HS(ヘッド・セット)に付いている平衡感覚機能により、安定した状態でないとcontactが出来ないように設計されている。


  戒斗は仮想世界へのcontact中に考えていた。


  戒斗がクロミナを初めてプレイしてから5年程経過している。


  だとしたらそれまでクロミナの放置が行われていたとすると俺は5年放置したことになる……と。


  「ようこそ」の文字が出て、どこか懐かしい公園のような広場に出た。


  ステータスを確認しようとしたが、アップデートのため動かさなくなった。


  俺は10分くらいかかってやっと5年分のアップデートを終わらせた。


  すると即座に仮想世界内の情報が更新され、町並みや画質も向上されていた。


  現在地は第10区画、街の中の路地裏だった。


  5年前はこんな場所じゃなかったはずだが。


  5年のアップデートでたいそう変わったらしい。


  しかし、戒斗にとっては好都合だった。


  この姿を誰にもバレず見る事ができるのだから。


  そしてすぐにステータスを確認した。




「カイト」【聖騎士エグバート】LV.5203

 Point/0

 体力(HP) /702000

 攻撃力(AT) /57421+68214(武器分)

 防御力(DE)/86321+52542(防具分)

 素早さ(QU)/45326

 特殊(SP)/74536

 魔力(MP)/0




  (何これつっよ。頭おかしいんじゃないかってほど強いぞ?なにこれ)


  魔力は1年前のアップデートで追加された項目の為"放置"の恩恵は受けていなかった。


  当然である。


  放置によるレベル上昇のため、Pointは発生しなかった為、魔力だけにPointを割り振らなかった人と認識されてもおかしくないだろう。


  つまり言ってしまうと「カイト」は魔法が使えない事になる。


  魔力がないからである。


  レベルに関して言うとクロミナの中のレベル最大値はLV.9999である。


  確か現段階の最大レベル上級プレイヤーはLV.4695だったはず。


  (つまり俺が最高か)


  持っている武器……。


  これがリナが言っていた"聖剣"である。




【魔滅剣シャイリアル】LV.6042

「この剣は騎士にのみ装備可能。この世界に一本の名剣であり、魔物を切り裂く力を持つ。剣自体も時と共に成長し、時間が経つにつれてステータスも上昇していく。攻撃力68214/防御力32584/耐久値30425」




  戒斗は言葉が出なかった。


  (これは魔王軍だかなんだかは倒せるわ)


  でも…―――。


  戒斗は1つ決心した。


  このアカウントは"もしも"の時にしか使わないようにしよう、と。


  強敵に襲われた時とかに。

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