第12話 アカウント共有 Account sharing
戒斗一行は
5人で掲示板を見ているとリナと翼は違うクエストを選んでいた。
「私はここ!レベル相応のクエストじゃないかしら!」
リナはレベル20向けの「初級モンスターを捕獲せよ」のクエストを選んだ。
「いや、リナ。そんなよわっちいところ行くなよ!俺様の純白に輝くこの"白夜刀"を見ろよ!攻撃力は300だぜ?!ここに決まってる!」
翼は自慢げに刀をすらりと抜きながらレベル50向けの「凶暴モンスター討伐」のクエストを指差していた。
(まぁ攻撃力300武器か。なかなか強いじゃんか。俺の武器は120だからな)
「カイトはー?」
「カイトはどこだよ?!」
リナと翼に追い詰められる。
戒斗は逃げるようにツカサに聞いた。
「ツカサはどれにしたい?」
するとツカサはもじもじしながら掲示板を指差した。
「これ……」
ツカサが指差したのはレベル1向けの「お花畑でお花摘み」のクエストだった。
なるほど、可愛い。
ミズキはツカサが見せた可愛さで後ろに倒れそうになった体を抑えながら大きく頷いて
[決まりだね(^^)]
とグループチャットを打った。
「何勝手に決めてんだよ!俺がいるから大丈夫だって!ここにしようぜ!」
自信満々の翼。
[黙りなさい、ガキ。ここにするって言ってるじゃない]
殺意剥き出しのショタコン。
リナはどうすんのよという目で俺に聞いてきた。
俺は仕方なく決定した。
「じゃあ今日はツカサが選んだやつにするか」
えー、という翼の声を聞き流し俺はツカサの方を向いた。
ツカサの隣にいたショタコンお姉さんは頷いていた。
リナも仕方がなさそうにしていた。
クエストを承諾した俺らはお花畑のある森林地帯の「ガイア」に向かうことになった。
バトルフィールド「ガイア」は南に位置しているため、バトルフィールドと「
翼はぶーぶー言っていたがミズキの目を見たリナが止めに入った。
電車の料金はミズキが翼以外のお金を払ってくれた。
ショタコンじゃなかったらいいお姉さんなんだけどな。
電車に乗り込むと中には2グループが奥の方にいた。
それ以外は誰もおらず、戒斗一行は向かい合っている長い座席に左からツカサ、戒斗、リナ、ミズキの順で座った。
もう1人の翼はというと。
「おい、翼。意地貼ってないで座れって」
戒斗の呼びかけにも動じない。
「ふん。俺レベルになると電車なんて座らずにもいられるのさ!というか。電車に座りたくなどない!」
そう言う翼は車内の真ん中で腕を組んで仁王立ちしていた。
「あのな、翼……」
「別にほっとけばいいのよ。いつか疲れて座るわ」
リナが戒斗の発言を妨げる。
確かにそうかもしれないな。
翼の腐った厨二心は戒斗がどのようにしても変わるはずなどない。
「まぁ、翼は置いておいてさ。みんなが選択した魔法系統を知りたいな」
「ツカサはまだだけどな」
戒斗がツカサに向けて補足説明する。
「じゃあ私から教えるわね。私は金色。主に光の防御魔法とか光の攻撃魔法を扱うわ」
胸を張るリナ。
ツカサがおおー、と感心の声を上げる。
ミズキは長文を打っているのか、ずっとリアクションを取らない。
するとチラチラと戒斗に向けて翼が視線を送っていた。
それに気づいた戒斗は
「翼の魔法系統はなんだ?」
それを聞いた翼はニヤリと笑い
「よくそれを聞いてくれた!我が魔法の系統は銀だ!この世の全ての空間を操る最強の剣士だ!」
どーん、とリナに負けじと胸を張る翼。
「銀?銀ってどんなことができるのよ?」
リナは少しなめたような口調で翼に聞く。
「ふ、リナ。見て驚くなよ。例えば、こんなことができるのさ!」
そういうと翼は一本の剣を手に持ち、鞘に収まった状態で横に差し出した。
そして魔法を唱えた。
【銀:空間魔法=
すると差し出した右手に黒いもやのような穴が出現し、その中に手に持っていた剣を入れ、さらにその中から巨大な剣を取り出して見せた。
この穴が翼曰く銀系統使い特有の"
その亜空間の大きさは自身の魔力と比例し、魔力が大きいほど亜空間も大きくなり、武器の収容量も増えるという話だった。
「ど、どうだ!」
想定外の重さだったのか、少し持っていてキツそうだ。
ツカサは目を丸くして驚いていた。
「以外とやるじゃない。クエストで装備できる武器の数にも制限があるからそこに入れられれば抜け穴になるわね」
「それだけじゃねぇぜ。武器の持ち替えが早いんだ。そこまで考えてるんだよ俺は!!」
ドヤ顔で自分の魔法をアピールする翼。
やっぱキツそうだ。
額には少し汗が見えた。
「他にもできるんだが。ここでやると色々面倒になるからやめておく。」
翼はもう一度先程の魔法を唱えると、"軽い方"の剣を亜空間から取り出した。
戒斗は大口叩いている割に以外と周りの事を見ている翼に少し驚いた。
しっかりできることはできるのか。
ふぅ、とナチュラルに座った翼は置いておいてミズキから長文チャットがグループチャットに届いた。
[私の色は黄色。雷を纏い戦う剣士だよ。電気の力によって一時的に素早さを上げることもできるんだよ。それに周囲の微量な磁力を感じ取って敵の位置を把握したり、地面にある砂鉄を電気で持ち上げて剣に纏わせて攻撃力を上げることもできるの]
「凄い!絶対強いじゃない!」
「まぁまぁだな……」
「強いんですね!ミズキさん」
ツカサの言葉に顔を赤らめたミズキ。
バレないように別の方向に顔を向けた。
「マジか……絶対強いじゃん」
戒斗が嘆く。
「最後のカイトは結局なんなんだよ?」
翼が意表を突いてきた。
リナが笑いを堪えていた。
ミズキもツカサもこちらを向いている。
その視線が左右から確認できた。
「俺は……紫だよ」
そのあと笑いが巻き起こったという事実だけでもう十分だろう。
戒斗のHP(Heart Point)はゼロになった。
*
何だかんだで第17区画大南門に着いた。
「ふぅ、やっと着いたな」
「ごめんなさい、僕のレベルが低いせいで……」
「全くだぜ!時間の無駄ってやつだ!」
「まぁまぁ着いたんだし!いいじゃない?」
[黙りなさい。糞餓鬼]
「お?誰のことだよ?ミズキ」
「あーっと、あそこに見えるのが中心都市とバトルフィールドの境界線となる大南門だな!翼はここに来たことあるのか?」
戒斗はとっさに翼に話を振る。
「あたりメーだろ。『ガイア』には討伐クエストへ行く為に何回も来たぜ。ま、アカウント共有したもう1つのアカウントのデータの話なんだけどな」
ん?
アカウント共有?
何だそれは。
「なぁ翼。アカウント共有ってなんだ?」
すると翼は呆れ顔で答えた。
「ああ?そんなのも知らねーのかよ。ほんと初心者だな!アカウント共有ってのはな、」
翼の話が始まった。
戒斗は翼の話を理解できなかった。
というか意味が不明だった。
( 何語話してんだこの厨二は)
戒斗が醸し出していた表情から何かを察したのかリナが教えてくれた。
「えっと、つまりね!自分で作ったもう1つのアカウントを自分自身で共有することができるの。だから、このクエストの時はこのアカウントのキャラクターがいいなーとか変更ができるの!まぁやるのは上級者の人が多いけどね」
「なるほどな」
つまり、もう一つアカウントを作って、それを今のアカウントと共有し合うことでいつでもアバター、スキンや能力、自身のセーブデータの変更が可能というわけか。
その際、"本アカウント"から"サブアカウント"へのアカウントの切り替えが発生し、切り替わった"サブアカウント"の方だけが"放置"の恩恵を受けることができ、切り替え、"サブアカウント"となった"本アカウント"はスリープモードになって"放置"の恩恵を受けることができないという。
「以外と便利かもな」
「でしょ?」
「ツカサもわかったか……っておい!」
ツカサの方を振り向くとつい大きな声を出してしまった。
ツカサと一緒にいたミズキが倒れていた。
「ちょっと、ミズキ?!大丈夫?」
リナが心配する声で介抱する。
「ツカサ!何があった?」
戒斗がツカサに聞くと恥ずかしそうにしていた。
「いや、その…」
なんだ?
「何してんだよ、まったく!」
翼はイラついてきていた。
ツカサは恥ずかしそうに口を開いた。
「はぐれないように手繋いでって言ったら倒れちゃったの……」
は?
おいミズキ。
まさかお前……堕ちたか。
ミズキを起こすリナ。
ショタコンお姉さんは鼻血を出していた。
いや、顔面から転んだからじゃない。
あれは興奮だ。
「「仕方ねーお姉さんだ。」」
俺は翼と初めて意見が合った気がした。
騒がしいけど、なかなか楽しいクエストになりそうだな。
戒斗一行はクエストに行く前に
空にはすでに星が瞬いていた。
再集合は20時に決まった。
あと1時間後だ。
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