第9話 新たな世界へ Welcome to a New World


  19時半。


  戒斗は第八区画にある"共通ギルド"に着いた後、夕飯の為一時的にcontactをやめた。


  因みに戒斗の両親は戒斗の身体の心配で仕事に手がつかなかった分仕事が山程入り、共に県外へ出張に行っている。


  どうやら当分帰ってこないらしい。


  夕飯は近くに住んでいる祖母が作ってくれていた。


  それを1人で食べた後、すぐに再開した。


  共通ギルドに入った戒斗は共通ギルド内に居る不特定多数のプレイヤーに送信される"招待サーチ"をネストに言われた通りに送っていた。


  しかし、招待サーチしてもなかなか引っかからない。


  「サーチ」というのは一緒に戦ったり、会話したりする仲間を見つけるために自分のプロフィールを共通ギルド内のプレイヤーに公開し、興味を持ってくれたプレイヤーが戒斗のことを承認してくれればそのプレイヤーと仲間となることができる仕組みだ。


  だがレベル6でクエスト参加希望者なんか足引っ張るだけだと思われて承認なんかせれないんだろうと戒斗は考えていた。


  だが、戒斗に希望の光が射した。


  突然目の前に「承認されました」の文字が。


  早速相手のプロフィールを見るとレベルが同じくらいの初心者みたいだった。


  名前を「リナ♪25」と書いてあった。


  名前からすれば女の子っぽいが、わからない。


  戒斗はすぐさまフレンド申請をした。


  するとすぐに相互フレンドとなり、"フレンド"の画面に位置情報が追加された。


  戒斗は初めは礼儀が肝心だと感じ、チャットで今から会えるか聞いた。


  するとすぐに返事は返ってきた。



 [もちろんOKです( ̄^ ̄)ゞよろしくお願いします!]



  うーむ。絵文字の使い方からして、女性か?いや、わからない……。


  戒斗は少しの葛藤に襲われたがすぐにその思考は止まった。


  前から声をかけられたのだ。


  「あの……か、カイト2026さん……ですか?」


  「あ……はい。こんばんは……」


  戒斗は控えめに声を出した。


  するとすぐに返ってきた。


  「は、はい!こんばんは…えっと、は、はじめまして!」


  声からして女の子だった。


  「リナさんは女子…?」


  控えめな表現で聞いてみた。


  「そ、そうです……高校1年生女です……」


  まさかの同年代だった。


  「そうなの?俺も高1だよ。奇跡的だね」


  「そ、そうなんですか!?や、いやーすごいな、まさか同年代の人と出会えるなんて」


  「同年代だから敬語無しにしない?」


  「い、いいんですか?やったー!嬉しいです!」


  戒斗は心が踊った。


  これが高校で、このゲームの中でやりたかった会話だった。


  それから戒斗とリナはとても親密な関係になっていった。


  リナは結構伝説とかが好きなようで、魔王軍を倒してくれる勇者を待っているらしい。


  戒斗とリナはとても話が合った。


  姿はやはり女の子。


 さらりと肩まで伸びた黒色の髪の毛が綺麗だった。


  リナは魔法使いの格好だった。


  「スキン」では無かったが、戒斗のように質素な服ではなく、ちゃんとした女の子っぽい戦闘服だった。


  その後はカフェに行って話したり、簡単なクエストに行ってレベルを上げたり、実績の解除をしたりと、とても楽しい時間を過ごした。


  時刻は11時。


  そろそろお互いやめることにした。


  戒斗は満足だった。


  (こんなに楽しいことをしたのは何年ぶりか……!)


  選別社会のようなクラスの連中との絡みとは違い、とにかく楽しかった。


  戒斗はリナに別れの挨拶をすると、contactを止め、ログアウト状態にし、明日に備えて寝た。




 *




  朝。


  戒斗は目を覚ますと高校の事が気が気でなかった。


  (学校行って虐められたらどうしよう……)


  何分人生経験の薄い戒斗。


  高校生活も昨日始まったばかりで心配事も多かった。


  二階の自室から降りて一階のリビングに行くと祖母がテレビを見ながら待っていた。


  「あら戒ちゃんおはよう。朝ご飯はできてるわよ」


  「お、おはようございます……」


  こんな調子で祖母は両親の代わりに朝食昼食夕食を作ってくれる。


  祖母は戒斗の眠そうな仕草を見て

  「戒ちゃん、昨日夜遅くまで起きていたの?今日学校休む?」


  「大丈夫だよ大丈夫!それくらいで休めるか!」


  すると優しい笑みを浮かべると

  「本当に元気になったね。よかったわ」


  戒斗は少し自分の身体を見ながら照れる。


  この動ける身体になったのも祖母のお陰も含まれている。


  沢山病院では世話をしてもらった。


  戒斗はこの借りはいつか返したいと考えていた。

 



 *




  学校に到着した戒斗は心臓が破裂しそうな気持ちだった。


  しかし考えていても仕方ないと思い切り、戒斗は教室のドアを開ける。

  そこには。


  楓を中心とするグループ(男女比2:6(敢えてここでは2:6と表記させてもらう))と何人かの集まりがバラバラとある状態だった。


  窓際に男の4人程度の集団が楓のグループを避けるように集まっていた。


  他の着席をしていたり、歩いたりしている人間は楓派だろうが、楓のグループには入れない様子だろうか。


  楓達は何を話しているのか。


  検討も付かないし、付きたくもない。


  あの4人の中にラフやネストがいるのかな?


  しかし、仮想世界とは違い、プレイヤーの名前を確認することなどできないため確証が付けなかった。


  (だとすれば俺はバレバレじゃん……!)


  戒斗は本名をゲームの世界で使わないでおけばよかったと後悔した。


  戒斗は6列×6席の椅子の1番窓側の後ろにある自席に座るとホームルームが始まるのを待った。


  早く始まってくれ……。


  そこは空気が重過ぎた。




 *

 



  時はすぐに経ち放課後。


  戒斗はそそくさとこの場から退散しようとしていた。


  今日の日程も簡単なもので、係り決めや席替え、委員会決めだけで終わった。


  まぁ今日あった出来事とすれば席替えで隣の席があの厨二発言をした黒川になったって事くらいだろう。


  戒斗は今日の一連の事で持論を呈した。


  戒斗は人を省くことはしたことがないためよくわからないが、人の本質を理解した上で避けるのならいいと思うが(まぁあまりよろしくは無いが)理解していないうちにその人のことを理解したと思って省くのは良くないと思った。


  まぁたしかに黒川はちょっと変かもしれない。


  今日も終始笑顔だった。


  笑顔というよりニヤニヤしていた。


  帰り際。


  戒斗は帰ろうとしている黒川に今日のことを聞いた。


  「黒川さん、今日なんかあった?」


  すると黒川さんは笑顔でこちらに振り向いた。


「うふふ、最近クロミナが楽しいんですよ……」


  そうなんだ。


  まぁクロミナ楽しいのは知ってるけどそれは昔から知ってることなんじゃ無いのか?


  もしかして初心者か?


  いやまさかな。


  自己紹介の時にあんなクロミナの発言しておいて初心者はないだろう。


  そのように戒斗は自分で結論付けた。

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