第8話 新たな出会い Meeting
「え?」
戒斗は思わず素っ頓狂な声をあげていた。
自分に向けられた言葉ではあるが、自分に向けられた言葉には相応しくないような言葉だったため思わずその言葉の意味に疑問を抱いていた。
(正しい……?何の話だ?)
戒斗は先程から無言を貫いている「自由」のプリントがされたTシャツを着た男の方を見た。
「えっと……」
戒斗が言葉を探していると後ろにいたもう1人の男が顔を向けた。
「それだけじゃあ分からんでしょ。ちゃんとゼロから言わなきゃ」
「……そうだな。そうするか」
2人は顔を見合わせて答えを出したようだ。
(何の話?!)
戒斗は依然として話が理解できていなかったようだが。
すると歪な髪の毛をした「自由」に身を染めた男が口を開いた。
「俺はお前と同じクラスの人間だ」
「同じクラス……?」
戒斗はクラスと聞いてそれが現実世界の高校のクラスとすぐに気づくことが出来なかった。
クラスの人間はみんなクエストに行ったと勝手に自分自身で結論付けていたからだ。
「フレンド登録もしてあるはずだ。見てみればわかる」
戒斗は「ディスプレイ」と言い、目の前にフレンド機能画面を表示させると、"圏外"になっていない人が4人程いたことに気がついた。
戒斗はそれを見て少し胸を撫で下ろした。
「全員があんな糞みたいなクエストに参加するなんて思わないでほしい。そして、全員が"アイツ"の意向に従うなんて思わないでほしい」
真顔で心情を吐露する。
アイツとは楓の事だろう。
「じゃあ、君たちは今から何処へ?」
戒斗が聞くと2人の男は顔を見合わせ、「自由」から口を開いた。
「自己紹介が先だったな。俺のユーザーネームは"ラフ"。今からこいつと第10区画にあるゲーセンに行くところだ」
「げ、ゲームセンター?」
戒斗は少し考える素振りを見せて、その後ろにいる男の声に耳を傾けた。
「俺のユーザーネームは"ネスト"。同級生なんだから気軽に呼んでくれよ」
「わ、わかった。宜しく。ラフ、ネスト!」
「それでいい。で、お前は?」
ラフの問いかけに対し、あ、そうだったと戒斗も口を開く。
「俺の名前は"カイト2026"。カイトでいいよ」
「了解だ」
「おっけー」
ラフとレイトは快く頷いてくれた。
そして戒斗は思い出したかのようにラフに質問する。
「何でゲームセンターに行くの?クエストには行かなくていいの?」
するとラフは変わらぬ真顔の表情で一つ溜息をつくと話始めた。
「だから言ってるだろ。あの糞クエストには行かないってな。俺らも前に何回も挑戦したんだが、あれは無理ゲーだ」
ネストも首を縦に振る。
「でも、一緒にクエストに行かないと省かれるんじゃ……」
「省かれるんならそれでいい。このゲーム如きでそんな選別してるような奴とは端から付き合いたくねぇ」
「それに、結構参加してない奴もいるしねー。全く正しい判断だよ。カイトも含めてね」
ネストの言葉にドキリとする。
今から自分がクエストに行くなんて戒斗は言えなかった。
戒斗が口籠っている様子に気づいたのか、ラフが戒斗に聞いた。
「お前、まさか。この電車でクエストに行こうとしてたのか?」
ギクリと戒斗の肩が動く。
ネストもそれに気づいたのか、戒斗に鋭い目を向ける。
「レベルの観点で言わせて貰うとあのクエストはカイトには無理だね」
「見たところ今日始めたって感じか。なるほどな」
「でも……!」
戒斗はそんなことわかっていた。
それでも行かないと……。
「省かれるって思ったんだろ?全く。そんなことで悩むな。時間の無駄だ」
「え?」
思わず戒斗は聞き返していた。
「今頃アイツらは全滅してる頃だ。あのクエストの強さくらい知ってるだろ?それに俺らみたいな奴がいる事も確認できた筈だ。ならお前は1人じゃないだろ」
戒斗は思わずラフの方をじっと見つめていた。
確かにそうだ。
戒斗は1人ではないという安心感が芽生えていた。
「それで?どうするんだ?カイト。このまま17区の東門からクエストに行って奴らの死体でも拝んでくるか?それも案外面白そうだが」
「ラフ、性格悪い」
「それともどうだ?」
ラフはネストの発言を無視してこちらを凝視した。
「俺たちとゲーセン行くか?」
「…………」
この時の戒斗には既にクエストに行くという感情は芽生えていなかった。
そもそも楓に相手にされなかった時点でクエスト参加者に選ばれていなかったのかもしれない。
選別社会だと思っていたこのゲーム。
でもやっぱりこのゲームは楽しむ為にあるんだ。
それをこの2人は認識させてくれた。
戒斗はとてもありがたい誘いだと思った。
ここから仲良くなれるかもしれない……。
「もし。この世界のことをもっと知りたいのなら。」
ネストの発言で思考が止まった。
「共通ギルドに戻って同じ初心者同士の仲間を集めればいい。そしてそこでゼロからこの世界と触れ合ってみればいい。そうすればこの世界の見方も変わるんじゃないか?」
ネストは一呼吸置くと
「その後でいいよ。ゲーセン行くのはさ」
戒斗は心が暖かく感じた。
そして何故だか目頭が熱くなっていた。
友達……。
俺が長年欲して来た友達。
小学校時代の友達はどんな顔だったか。
唯一の昔の人間の友達を思い出せない自分が悲しかった。
「ありがとう」
戒斗は思わず感謝の言葉が漏れていた。
「ゲーセンも楽しいけどな」
ラフは間髪入れず主張した。
「俺らは少し飽き飽きしてんだ。そういうこの世界はレベルや力で全て決まるみたいな思想にな」
それは何かを知り尽くしているような発言だった。
「2人は魔法で飛んで行かないの?」
「第10区画のゲーセンは転送装置からは遠い。電車の方が歩く距離が短くて楽に行ける」
戒斗はこの世界について知り尽くしているように感じた2人に憧れのような感情を抱いた。
電車が次の停車駅のアナウンスをする。
『次は〜第10区画"SAGA"前駅〜』
「お。次だ」
アナウンスに気づいたネストは立ち上がる。
「そういえば。さっき言ってたけど、なんであのクエストが無理ゲーなの?」
2人は少し考えた後すぐに答えを出した。
「あのクエストにいる悪魔と呼ばれる敵を倒すには特定の武器が無いと倒せない。その武器っていうのが現れない限り、あのクエストは攻略できない」
「特定の武器?」
「そうそう。いくら攻撃力が高くとも攻撃が通らないんだから嫌になるよ。運営は何を考えているのかね。あんな特定の人にしか攻略できないクエストを用意するなんて」
プシューという吐息と共に電車が止まる。
「それでは。また会おう。乗り換えるなら次の駅で降りるといい」
「あ。ありがとう、ラフ」
「次会うのは
「うん。ネストもまた明日」
そういうとラフとネストは降車していった。
後ろ姿を見送った後、戒斗は再び動き出した電車に身を任せた。
『次は〜第10区画合併駅〜合併駅〜」
その合併駅とやらがラフが言っていた駅だろう。
どうやらその駅は今乗っている中心都市を外回りで外周するルートから中心都市の内側を通る内回り線(2車線)に乗り換えることができるようだ。
そのルートが早く第8区画"共通ギルド"に着く最短ルートらしい。
「ふぅ……」
戒斗は一つ息をついた。
いい人達だった。
確かに自分の考えだけで物事を全て考えちゃダメだよな。
あの2人から得られた事は大きかったと思う。
戒斗はふと「フレンド」機能を開いた。
そして圏外になっていない人の内からラフとレイトを探した。
そして見た瞬間思わず声をあげてしまった。
[ラフ LV.1480]
[ネスト LV.1358]
戒斗は今まで話していた人が上級プレイヤーだったことに驚いた。
それは楓とかとは違う"レベル"だった。
「強くても……威張らない……」
戒斗はふと思った。
(俺がもし強くなったらこの2人みたいに……。)
なんて、とすぐにありもしないことを思い立った自分に恥じる戒斗であった。
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