第7話 選別社会 Sorting→Loneliness

 戒斗は2時間ほどクロミナをプレイしていた。


  戒斗は、クロミナをやっていない人が何故軽蔑されるのかが分かった。


  クロミナは世界最大級の使用者を誇っていたSNSアプリであるに加え、最高に面白いゲームだったからだ。


 このアプリの需要がこれほどまでに拡大していた理由がわかった。


  俺がいない5年の間にこんなことになっていたとは……。


  しかし、5年間も携帯を触れなかった彼からすれば当然のことである。


  戒斗はなんとかレベルを6に上げたが、完全に初心者だと思われるだろう。


  レベルが1から6に上がったのは、レベル20までは実績の解除等でクエストに行って経験値を得なくても上げることができるためだ。


  ガチャを一回引いたが期待値が高いだけの弱い剣が出ただけだった。


  弱いといってもこのゲーム特有の"放置"をしないと成長しない武器だった。


  戒斗は友達が欲しかった。


  クロミナで強くならなくてもいい。


  だが、現実はそう甘くはなくてクロミナができないと友達ができないらしい。


  (全くふざけた世の中になったもんだな)


  そう心情を吐露しているうちに約束の時間の18時になった。


  戒斗は第8区の大通り「クロス」にいた。


  (どこに行けばいいんだろう)


  戒斗は「ディスプレイ」と言うと"フレンド"という機能を選択した。


  これは先程述べたとおり、contactを必要としないSNSアプリとしての一面と連携している。


  その為、SNSアプリ内でフレンド登録したプレイヤーは必然的にこの画面に表示される。


  そこには計32ものプレイヤー名が表示され、それらが全て戒斗とフレンド登録済みとなっていた。


  戒斗は心底ほっとした。


  もしもこの2時間ちょっとの間で仲間外れにされていたらクロミナを辞めようとまで思っていたからだ。


  なんとか外されることが無かった戒斗はプレイヤー全員の現在地を確認する。


  プレイヤー全員の位置情報をオンにすると白い丸がバラバラの位置に存在していた。

  まだ来ていないプレイヤーもいたが、殆どがこの世界にcontactを果たしている様子だった。


  戒斗がどうするべきかと考えていると1つの白い丸がこちらに近づいているのが確認できた。


  そのプレイヤーの名前を確認すると"yuto"と表示されていた。


  キョロキョロと周りを見渡していると後ろから突然声をかけられた。


  「カイト君!こっちだよこっち!」


  驚いてすぐさま後ろを向くと笑った様子の男が立っていた。


  黒縁のメガネをかけ、黒の整った髪の毛に整った顔、スラリと伸びた身体つきに黒のコートを羽織り、本を一冊手に持っていた。


  「突然悪い悪い。俺の名前はユウト。その様子だと始めたてってとこかな?」


  苦笑いを浮かべるユウトは戒斗の身体を見渡していた。


  「ば、バレたか……。実は2時間前に始めたばっかりで」


  戒斗は嘘偽りなく正直に話した。


  「マジで?」


  「ごめん、初心者で」


  「いやいや、全然!それよりも2時間でここまで来たのは凄いよ。まぁ本音を言うとレベル20を超えてて欲しかったところはあるけどね」


  ユウトはニヤリと笑ってみせる。


  「なんで?」


  「あぁ、そうか。基本魔法の獲得条件はあまり知られてなかったっけな……。えっとね。レベルを20まで上げないと転送魔法テレポートが使えないんだよ」


  そういえばそんな記事を見かけたなと戒斗は思い出す。


  「あ!そうだった……。移動手段が俺だけ電車かバスか……。仕方ないな」


  因みにユウトのレベルは132。


  ステータスを覗いてみると魔力数値が1番多く、200を超えていた。


  他のパラメータを見る限り、魔力にほぼ全振りしているようだが、かなりプレイしているようだ。


  「ユウト君は結構プレイしてるみたいだね」


  戒斗は羨望の眼差しを向けながらユウトに問いかける。


  するとユウトは頭をかきながら


  「いや、あのなー。実は俺もまだ始めたてなんだ。高校に入る前に中学の時の同級生と一緒に行ったクエストで高く上げて貰っただけで。高校でいじめられないようにー、ってさ。いい奴らだろ?」


  戒斗はこくりと頷く。


  中学の同級生か……。


  当然ながら戒斗には中学時代の同級生など存在しない。


  中学時代の友達といえば酸素供給機と点滴くらいだ。


  戒斗は少し、いや大分羨ましく感じた。


  「そう言えば、俺たちはどこに行けばいいの?」


  「あー、そうだなぁ。あのリーダー格になってる"楓"っていう奴を待つしかないんじゃないか?」


  ユウトは少し嫌なモノを見るような顔で言う。


  どうやらまだ楓の人望は思ったよりも少ないようだ。


  ユウトは女子人気が集中している男の事は好きにはあまりなれないらしい。


  すると戒斗は多数の白い丸がこちらに向かって向かってきていることに気がついた。


  その理由はすぐにわかった。


  戒斗の後ろにはクエストへ行くための申請をする機関である"共通ギルド"があったのだ。


  「ありゃー。どうやらみんなしてクエストに行くみたいだねー。調子乗らなきゃいいけど」


  ユウトは苦笑いをしながら言う。


  「調子に乗る?」


  「あぁ。大口叩いて"魔王軍の領域"へ行くなんて言ったりしないよなーって少し不安でな」


  確かにそれはまずい。


  そうなると戒斗は真面目に役に立てない。


  しかし、戒斗のような底辺プレイヤーの意向に沿ってクエストへ行くとは考えられない。


  するとまた後ろから声がした。


  「あれ?そこにいるのはユウト君とカイト君かな?」 


  その声の主は楓だった。


  現実リアルと変わらない金髪に白い純白の鎧に身を固め、白い鞘に収まった大剣を腰にかけた格好をしていた。


  あれは強そうである。


  レベルは532。


  パラメータを見ると全て平均的に割振られていたが、特に攻撃力と特殊に多く割り振られていた。


  両隣には女子が2人、その後ろにも何人かの女子が群がっていた。


  楓は一瞬戒斗の方を見るとすぐにユウトに目線を移し、ユウトに話しかけていた。


  「ユウト君。今からクエストに行くんだ。ついて来てくれるかい?」


  「え、あ、あぁ。もちろん行くが……何処のクエストに行くのかい?」


  楓は少し考えるとあたかも当然の事かのようにニッコリと笑って、


  「"魔王軍の領域"だよ?」


  すると協調するかのように周りの女子が、


  「私も行くー!楓くんの活躍見たい!」


  「私もー!私たちなら余裕じゃない?」


  「確かにそれなー」


  女子及び楓はクエストを決めたようだ。


  魔王軍の領域でのクエストに。


  「し、しかし……いくらなんでも、厳しいんじゃ、」


  ユウトが必死の抵抗を見せるが聞く耳を立てず、女子たちのお喋りに遮られる。


  「行こうか。ユウト君」


  その間楓は俺の方など一度も見なかった。


  逆らうことが出来ないのか、ユウトは苦笑いを浮かべながら楓について行った。


  既に33人精鋭部隊の組織ギルドは完成していたらしく、組織ギルドの共同チャットに楓から



 [今から魔王軍の領域へのクエストに行くよ。申請は既に済ませてあるから全員共通ギルドの転送装置に集まってね]



  という内容のチャットが飛んできていた。


  戒斗は溜めていた溜息を一つつくと、ぼーっと白い丸が重複して表示された転送装置を見た。


  重なり過ぎていて何人集まったのか見当がつかなかったが、多分全員集まったのだろう。


  一瞬にしてその白い丸は消え、位置情報は"圏外"と表示された。


  これは中心都市かバトルフィールドのどちらか同じ場所にいないと互いに位置情報が使えないためフレンドが圏外になった事はバトルフィールドへ行ったことを裏付けていた。


  戒斗は仕方なく電車で中心都市の一番東に位置する第17区にある、バトルフィールド「キルタイト」へ通じている"中心都市大東門"の最寄り駅、「第17区大東門前駅」を目指すことにした。


  因みに電車に乗るために必要なG(ゴールド)は実績の解除を終わらせていくうちに少しだが貯まっていた。


  戒斗は少し歩いて「第8区大通り前駅」に到着した。


  目指しても何も意味ないのに……。


  戒斗は何をすれば良いのか分からなくなっていた。


  例えその戦場へ行ったとしても役に立てる事は何一つない、断言できる。


  でも確実にその場所へ行かないと次の日から高校で省られる。


  何故ならクラスの殆どががクエストへ行っているのだから。


  そこへ行かないことは自分から仲間に入りたくないと意思表示しているようなものだった。


  仲間に入りたいのに。


  仲間には入れない。


  こんな世界ゲーム、楽しいのか?


  戒斗は今の自分の立場と共にこのクロミナにも疑問を抱くようになっていた。


  一度最高に楽しい世界ゲームだと断言したにもかかわらず、だ。


  戒斗が切符を買い、改札口に入り、ホームに立っているとすぐに電車が来た。


  シルバーの車体の現代によくありそうな電車のフォルムだった。


  プシューと荒い息を吐くとその電車は止まり、扉を一斉に開けた。


  1番近くにあった扉から入り、近くの空いていた椅子に座る。


  長い椅子が両側向き合うように配置されたその内装には客は戒斗を含め3人しかいなかった。


  電車の窓からは沈みかけている夕陽が見えた。


  とてもリアルな電車の動きに驚いていると戒斗の前に座っていた2人の客のうち1人の客と目があった。


  その客は歪な形をした黒髪で鋭い目。


  白いTシャツを無造作に着ており、そこには「自由」という文字がプリントされていた。


  するとその客は立ち上がり、戒斗の前に立った。


  その鋭い目はしっかりと戒斗を捕らえていた。


  そしていきなりその男は真顔で


  「お前は正しい」


  と言った。

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