第83話 インフルエンサー Influencer

 メイの知り合いにインフルエンサーがいるらしく、そのプレイヤーに会うべくメイとカイトとマオは行動を開始した。

「彼女、とってもいい人なのよ」

 メイは嬉しそうにそう言ったが、カイトは少し不安に思っていた。


 そのプレイヤーがインフルエンサーであり、情報通であるのならば、今回賞金首になったプレイヤーリストは網羅しているはず。

 仲が良いメイはまだしも、カイトとマオの扱いはどうなるのだろう。

 それに境遇が同じだったから分かり合えた話も、この世界で出会っただけの赤の他人かつ全く関係のない人間には通じるのだろうか。

 自分たちは研究に使われているモルモットだ。

 このゲームで死ねば現実世界でも死ぬ。

 その事実をどこまで信じて受け止めてくれるだろうか。

 SNSで情報発信をするなら尚更だ。

 自分の発言は気を遣うだろうし、もしかしたらこのゲームの運営に見つかったとしたらアカウントを削除される…なんてこともあるかもしれない。

 兎に角、他のプレイヤーに頼るしかない状況にいるのは間違い無いのだが、どのくらいの人間が信じて行動してくれるか。

 それがカイトが懸念している一番の事だった。


「慎重に」

 外へと繋がる階段を登り切り、周囲を確認する。

 他のプレイヤーがいないことを確認すると、至って普通に歩みを始めた。

 かえってコソコソしている方が怪しまれる。

 堂々と歩いていたほうがただの一般プレイヤーと思われる。

 顔は隠れているし、天使と遭遇する分には問題ない。

 悪魔と遭遇し、攻撃の意思が確認された場合、取るべき行動は逃げること。

 無理に戦って命を落とすなんてことはあってはならない。

 それに。


「マオは剣を使えるの?」

「う、つ、使えない…」

 マオの腰に付いているクレイモアはただの飾りだった。

 クレイモアを選んだ理由も一番軽かったからだそうだ。

 つまりマオはそもそも戦闘ができないのである。

 彼女が標的になれば間違いなく命を落とすだろう。


 どれだけマオを守れるか。

 カイトは考えた。

 自分の命も天秤に乗っている。

 その状況でマオの命と自分の命、どちらを優先するだろうか。

 カイトには自分の命を投げ捨ててマオの盾となる自身が無かった。

 マオが生き残るためには戦闘をしないことは不可欠事項。

 剣も持てない彼女に勝利の二文字はあり得ない。

 何とか周囲のプレイヤーに状況を知らせ、命の危険があることを周知させ、攻撃することを止めるように周知しなければならない。


 そのためにはインフルエンサーの協力や高レベルプレイヤーの護衛が必要不可欠。

 カイトたちが置かれている賞金首という立場を考えてもそれは言えるだろう。

 全てのプレイヤーが経験値欲しさに狙ってくる。

 その状況の下でカイトたちは行動しなければならない。

 それがどんなに難しいことか、彼は身をもって知ることになる。



 *



 幸運なことに友人がいる集落への道中、悪魔とは遭遇しなかった。

 道が北の都に近い位置にあることも理由の一つだろう。

 天使には遭遇したが、戦闘になることはなかった。

 もしかしたら天使のプレイヤーは賞金首が三人で歩いているなんて思っていないのかもしれない。

 行動でバレないようにしたが、姿は客観的に見ればおかしなものだった。

 黒いフードを被ったプレイヤーが三人、列になって行動を共にしているのだ。

 不思議な連中だと他のプレイヤーは思うに違いない。


 集落は森の中にあった。

 視界が悪い上に周囲の木が邪魔で悪魔からは狙い辛い。

 この集落を森の中から見つけ出すことは困難である。

 それがこの集落の狙いだろう。

 悪魔の視線から外れ、生き残るためには、この場所を拠点にするのは正しい。

 カイト自身も自分一人ではこの集落を発見することはできないだろうと思った。

 メイが先導してくれなかったら一生見つけられなかっただろう。

 それほどまで見つけることが困難なこの場所には10名程度のプレイヤーが拠点としていた。


 正面から入った場合、即座に攻撃されかねないと考えたメイは裏口から入ることにした。

 友達のインフルエンサーが住んでいる住居のちょうど裏に出た。

 窓から中を確認し、友達が他のプレイヤーと話している姿を確認する。

 一人になるまで待機し、話が終わったのか、話していた一人のプレイヤーが部屋を後にするとその瞬間、窓から中に入った。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、なになになに、敵襲??」

 突然黒いフードを被った三人衆が窓から入ってきたのを見て驚く。

「突然ごめんねポッピー。少し話を聞いてほしいの」

「およよ、その声はメイちん?」


 メイがフードを取るとポッピーという名の彼女は嬉しそうに笑った。

「久しぶり~!!メイちん!!会いたかったよー!!」

「私も!」

 カイトとマオはこの状況で何をすればいいのか顔を見合わせた。

 二人の感情を察したメイは、紹介するわ、と仲介役を買って出た。


「彼女はポッピーラブリー。Twiterのフォロワーは30万人超えの有名インフルエンサーよ」

「のんのん。"超''有名インフルエンサーでしょメイちん。よろしくね!えーっと…?」

「あ、カイトです」

「…マオです…」

「カイトちんとマオちんね…うんうん。よろしくね!」

 何度か頷き、自己流のあだ名を作るポッピーラブリー。


「私のことはポッピーって呼んでね」

「わかりました」

 マオも頷いた。


「ポッピー、ここに来たのはわけがあるの」

 メイが話し始めるとポッピーは理解者かのようにメイの肩に手を置く。

「大丈夫よ、私はあなたたちを襲わない。経験値には興味ないもの。興味があるのはフォロワーだけ〜」

 ふふふ、と笑うポッピー。

 カイトとマオは安心した。


「その件で少し聞いて欲しい話があるの…」

 メイが神妙な面向きでポッピーを見つめるとポッピーの顔が真剣な顔になった。

「聞かせて」

 メイの話が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る