第84話 発信 Transmission


 メイは細部まで詳しく置かれている現状についてポッピーに話した。

 ポッピーは真剣な眼差しで時折頷き、相槌を打ちながら聞き入っていた。

 時間にしてどのくらいが経っただろうか。

 全てを話し終えるとポッピーは信じられない、と言った。

「じゃあ、この世界にずっと閉じ込められちゃってるってわけ?」

「はい、そうです」

 カイトが答えた。

「それに加えてゲームで死んじゃえば現実世界でも死んじゃうなんて…そんなのアリ??」

「どこまで本気か分からないけど…私たちが聞いたことが正しいのなら死ぬ可能性はあるわ」


 ポッピーは青ざめながら足をふらつかせた。

 そしてメイに抱きつくと泣き始めた。

「…苦しかったでしょ?悲しかったでしょ?メイには私が居るからね…!!」

 ぐすんぐすんと鼻をすすりながら泣いているポッピーの姿を見てメイも心なしか目に涙を浮かべている様子だった。

「ありがとう、ポッピー」

「いいのよぉ~」

 ポッピーの頭を撫でるメイ。

 慰めるつもりのポッピーが逆にメイに慰められている感じだった。

 カイトとマオはポッピーのことを信用した。

 ここまで誰かのために涙を流す人が悪い人なわけがない。

 まるで自分の事のように話を受け止めてくれたポッピーには好感が持てた。

「みんな!ここでゆっくり休んでいいからね!気のすむまで匿ってあげるね!」

 泣きながら訴えるポッピー。

 感謝の気持ちを伝えるカイトとマオ。

 ポッピーは自身の家の部屋を一室貸してくれた。


 その部屋にカイトとマオを入れるとポッピーは扉を閉め、メイと二人で話すと言っていた。

 SNSでの情報発信の話だった。

「お願いできる?」

「任せて。みんな私の味方だから大丈夫!」

 慣れた手つきでログアウトし、その場から姿を消す。

 メイは一人になった途端、嬉しさのあまり笑みがこぼれた。

(計画が進んだ…これで多少は良くなるはず)

 メイの頭の中にはいつでも二人の友達の姿がある。


(早くここから抜け出して…会いに行かなきゃ…!!)

 メイは強く決心し、カイトとマオがいる部屋に入った。



 *



 >ポッピー・ラブリー@30万フォロワー感謝

「Enge : Devil Online」をプレイ中のフォロワーのみんなー!ポッピーだよーー!!

 最近賞金首になった三人のプレイヤーいるでしょ?

 彼らに攻撃するとアカウントが乗っ取られちゃうんだってーー!

 キャー!!みんな攻撃しちゃだめーーー!!



 >ぬめぬめした海藻@ポッピー教

 ポッピー愛してる♡

 まじか!!気を付けよ



 >なしょなるいまじねーしょん@ポッピー教

 ポッピーこんにちは!!

 そうなの?!知らなかったー



 >道頓堀にいる獣@ポッピー教

 ポピはろーーー!!

 やべぇやん!!みんな拡散しろーー!!



 >ZEUS@ポッピー教

 ポピはろっすー

 拡散しときましたよ



 >のんびりーあいりっしゅ

 それどこ情報?



 >ネクスト困難

 情報源開示求む



 >努力友情怠惰

 それ普通にヤバくね?



 >ドッキリにかけられた猫

 運営は何しとんじゃ



 >シナモンロールじゃないシナモロール

 @Thunder_CO.




 *



 突然扉が叩かれたのはポッピーと話してから1時間が経過したあとだった。

「みんな!!逃げる準備をして!!」

 焦った声のポッピーに促され、剣を持ち準備をする。

 窓から外の様子を確認するとそこには化粧が濃いヴィジュアル系バンドのメンバーのような男が立っていた。

 男の周りを囲むように数名の天使が居た。

 互いに相手の動向を探り合っている膠着状態だった。

 いや、それは天使サイドだけの話かもしれない。

 周りにいる天使を全く気にも留めていない様子で堂々と立つその男は大声を張り上げた。

「おい!!ここに最近賞金首になった三人がいねぇか??」

 急に聞かれ、困惑する天使。

 もちろん誰も知らない、知るはずがない。


 ポッピーが部屋に入ってくる。

「みんな、逃げて!今から隠れ家を教えるわ!!」

「ありがとう、ポッピー。大丈夫なの?!この集落…私たちの所為で…」

「言わないで、メイちん!大丈夫だから、みんなは気にせず逃げて!」

 メイは強く頷くとカイトとマオを連れて裏口から外に出た。

 そしてポッピーを後にして隠れ家へと急ぐ。

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