第90話 デメルギアスvs南都幹部 First Round

 まるで敵の位置が分かっているかのように一切迷いの無い攻撃を繰り出すカイト。

 銃を構えてくるその前に既に攻撃を仕掛ける。

 当然悪魔は動揺し、狙いなど定まらず、放った弾丸は遠くの壁に着弾する。

 また一人、また一人と悪魔を斬っていくカイト。


 悪魔陣営は金の卵が戦場に出てきているので、攻撃をしないなど有り得ない。

 絶好のチャンスなのだから。

 だが、その動きを捕らえることはできず、ただ同族が死んでいくのを横目で見ているだけだった。


 捕らえられないのは俊敏な動きの所為ではなく、全ての行動が予測されているかのような最適化された行動故である。

 走るモーション、斬るモーション、回避行動、その全てにおいて洗練されており、そこには量産型との圧倒的なスキルの差を感じさせた。

 熟練の技、と言うのだろうか、遥か昔からこのゲームの感覚に慣れ親しんでいなければ体得し得ない動き、そんな感じがした。


 誰かがまた金の卵だ、と叫んだ。

 同時に発砲が開始される。

 しかしその数秒後、発砲は止まる。

 発砲した悪魔が制圧された合図だ。

 カイトのレベルがまた上がる。


(…懸賞金は妥当だったということかッ…!)


 物陰からカイトの様子を眺めていた一人の悪魔が考える。

 あの動きは並大抵のプレイヤーではない。

 初心者かつ低レベルプレイヤーに多額の懸賞金が懸けられたから皆こぞって金の卵と呼んでいたのだ。

 最早その懸賞金は妥当だと判断せざるを得ない段階まで達している。

 周囲に倒すべき悪魔が居ないことを悟ったのか、カイトは風のように消える。

 物陰に隠れていた悪魔は、ほっと胸を撫で下ろす。


 しかし。

 斬撃が上空から飛んでくる。

 即死ダメージこそないが、対応できなかった。

 振ってきた斬撃と2撃目を繰り出すカイトに倒された。

 これにて制圧完了。

 レベルは40を超えていた。

 相手が全員『転生者』だったことが原因で、あまり経験値が得られなかった。

 カイトが今倒した悪魔の数ならば通常レベル60は超えている。

 しかし敵のレベルが全員1か2となれば一定数の経験値しか得られない。

 カイトは静かにため息を吐くと

「これで当分は大丈夫だろう」

 呟き、元居た牢獄へと自ら足を運んだ。



 *



「お前、倒したプレイヤーから嫌われるぞ」

 ゼウリウスはデメルギアスに言う。

 確かに共同戦線を張ったにも関わらず、その協定を破り、しかもあろうことか皆殺しにしたことは多くのプレイヤーの反感を買うことになるだろう。

 だが、デメルギアスはそんなことはお構いなしに笑う。


「んなことはどうだっていいなァ…俺が思うに、人の好き嫌いは名誉の上にある。だから当てにならねェ」

 デメルギアスは続ける。

「例え世界中の人間から嫌われてたとしても一回の名誉ある行動でその人間の評価が見直されることがある…。俺もそうだァ…最強を下すことによって俺の行動は伝説として昇華されるッ…!!」

 つまりはネメシスを倒す事、それが成し遂げられれば他には何もいらないという実に危険な思想であった。

 だが、この世界に革命を起こすのならばこういう頭のネジが吹っ飛んだ人が必要なのかもしれない、とシュベインは思った。


「お喋りは終わりだァ…経験値、貰うぞ!」

 キュインッという機械音が鳴り響くとデメルギアスの翼が展開される。


(攻撃の拡張!!)

 シュベインとゼウリウスは即座に外壁に身を隠す。


 レベルが100を超えたプレイヤーに譲渡される機能、【堕天使の翼】には攻撃力の上昇だけでなく、攻撃パターンの拡張という機能も含んでいる。

 普通は銃を手にし、トリガーを引くことで発砲するが、その攻撃スタイルを刷新することが可能になる。

 例えば攻撃にかかる時間の短縮であったり、攻撃範囲の拡張であったり、散弾、跳弾の組み合わせを自由自在に変更したりなど。

 様々な攻撃を繰り出すことが可能になる。

 それも銃の使用無しで、だ。

 自らが念じ、攻撃を設定するだけで自動的に背に生えた翼は攻撃をする。

 この領域まで行くとほとんど壊れ性能であるため、敵対勢力を想定していない。

 強いて上げるとするならば、【堕天使の翼】だろうか。

 目には目を歯には歯を。

 堕天使の翼には堕天使の翼でしか、対抗はほぼ不可能。

 それに加え。



 ≪ダンッ!!≫



 ゼウリウスの放った弾丸は翼に依って防御される。

 キンッという金属音を鳴らしながら、敵の攻撃を遮断する。

 その物質としてのレベルは実に1万。

 1万レベルを超えることは実質的にほぼ不可能であるため、堕天使の翼の防御を破ることは不可能である。

 だが。



 ≪ダダンッ!!≫



 デメルギアスにダメージが入る。

 堕天使の翼を貫通し、内部にいるデメルギアスの身体に直接的なダメージを与える。

 シュベインの崩壊帝の特殊効果だ。

「レベル透過か…面白れぇ…!!」

 赤いLEDライトのように翼が光る。

 その瞬間ゼウリウスとシュベインの足元に赤い斑点が表示され始めた。

 それも辺り一帯にだった。

 避ける場所などない。



 ≪ドドドドドドドドドッ!!!!!≫



 上空に向けて数100発もの弾丸が放たれる。

 全て上空から降ってくることを想定されたミサイルだ。

 ダメージは乗数。

 現状当たったら即死。

 しかし弾は避けられない。

 詰み。

 否、諦められない。



【悪魔王の加護】



 二人は同時に自身の防御力数値を上昇させる道具を使用する。

 上昇倍率は5倍。

 この道具は本当に危険な時に使用するつもりだったお守りだ。

 それをいともたやすく使わせるとは、恐るべき力。

 戦力差を埋めるためにはバフを利用し、相手と同等のステータスまで持っていくしかない。



 ゼウリウス 守備力 552,341×5=2,761,705

 シュベイン 守備力 246,745×5=1,233,725



 デメルギアスの攻撃力は120万。

 乗数効果で9999万9999。


 カンストだった。

 二人の南都幹部にカンスト値のミサイルの雨は降り続く。


 二人の敗因としてはデメルギアスに対してデバフを与えなかったこと。

 もちろん敵う相手ではなかったと言ってしまえばそこまでかもしれないが、この世には相手のバフを逆手に取ったデバフも多数存在している。

 相手のバフ値をマイナスにする、といったデバフを仮にデメルギアスに与えていた場合、乗数効果により上昇する値はマイナスとなり、攻撃力は0となる。

 低レベルプレイヤーがレベル100を超えたプレイヤーと戦うとすればそれしか勝利する方法はない。

 レベル100を超えたプレイヤーは乗数で上昇する攻撃力と同時に一瞬で攻撃力が0になってしまうリスクも背負っている。

 神になる瞬間もあれば低レベルプレイヤーよりも低い攻撃力になる瞬間もある。

 それが【堕天使の翼】の全貌だった。


 遠くで音がした。

 何者かが地面に着地する音だった。

 ゼウリウスとシュベインが後方へと回避行動をとっていた。

 だが、最早二人に戦意は無い。

 ゼウリウスはミサイルに掠った。

 それだけで致命傷。

 倒されなかっただけ奇跡と呼べる。

 ゼウリウスが使用した特殊技スキル瞬間移動テレポート】は自身と対象のプレイヤーをランダムで選ばれた場所まで移動させる。

 シュベインは攻撃を受ける前に退避することができた。


「シュベイン…俺を殺せ」

「!!何を言ってるんスか!」

 驚いた表情でゼウリウスを見るシュベイン。


「時間が無い、次、奴が攻撃してきたら回避する術は無い」

「じゃあどうすれば…」

「お前が戦うんだ!!シュベイン!!」


 珍しく弱気になっているシュベインに向かって先輩として言葉を掛ける。

「俺の経験値が奴に移ってみろ、それこそ終わりだ…!!だからシュベイン、お前が継いでくれ」

 シュベインの肩を持つ。


「俺の経験値があればお前はレベル100を超える…回避不能のカンスト攻撃をお見舞いしてやれ」

 悩むシュベインに喝を入れる。

「早く!!奴が気付いて攻撃を繰り出す前に…!!」

 シュベインは覚悟を決め、銃口を尊敬する先輩に向ける。

「あとは任せてください」



 ≪ダンッ!!≫



 ミサイルによって発生した土煙によって視界が遮られていた。

 奴らは死んでいない。

 レベルが変動しない。

 ステータスが向上しない。

 周囲を見渡すデメルギアスだったが、未だ二人の姿は見つけられずにいた。

 するとその時。

 土煙が一瞬で払われた。

 そしてその先に立っていたのは異形の翼を持った白髪の少年。

 デメルギアスは不敵な笑みを零す。


「第2ラウンドと行こうかァァ!!!」

 デメルギアスは咆哮する。


 シュベインはただ静かに相手を見つめ、意思を固めた。

「俺がナンバーワンプレイヤーになります」


 レベルを超越した戦いが今、始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る