第89話 堕天使の翼 Fallen Angel Wings

「キリがねぇ!!」


 ゼウリウスが鬱陶しそうに叫ぶ。

 城壁に背を預け、飛んでくる弾丸を避ける。

 弾速は遅い上に、ダメージは少ないがそのダメージも蓄積すれば馬鹿にならない。

 問題なのはリロードのタイミングに生じる一時的な弾丸の停止が無い事だ。

 数の暴力。

 相手は決して一人ではない。

 複数人居る場合リロードのタイミングなど三者三様。

 被るはずもなく、それは永続的に弾丸の雨が降り注ぐことを意味していた。


 時折城壁から身を乗り出し、手に持ったショットガンを打ち込む。

 だが、彼の持つショットガンは近距離専用にカスタムされている。

 発射と同時に四方に弾丸が炸裂するようになっている。

 このショットガンを近距離から打ち込まれた場合、回避には相当な運と実力が必要だ。

 弾丸の発射角度はその都度ゼウリウス自身が瞬間的に判断し、設定する。

 遠距離からの大量の銃弾による攻撃には対処しようがない。

 まず距離を詰める方法が無い。

 弾速からして避けて進むことは難しくは無いが、それにしても弾丸が多すぎる。

 ゼウリウスが放ったショットガンから発せられた四発の弾丸は飛距離が足りず、ゼウリウスと悪魔たちの中間地点に着弾した。

 膠着状態に陥ることはなく、弾丸が有り余っているかのように発射を止めない。

 このままではゼウリウスは動けない。


 その時、ゼウリウスの前方にいた悪魔の集団が怯んだ。

 何処からともなく飛んできた弾丸だ。

 流れ弾か、そう思ったが違う。

 その弾はプレイヤーの間を貫通し、全てのプレイヤーに着弾した。

 それも使役する帝による特殊効果バフが付与された弾丸だった。


 特殊効果バフ【階級無視】。

 ゲーム内に存在するレベルの概念を無視した攻撃を繰り出すことが可能になる。

 それはプレイヤーのレベルも同様だ。

 プレイヤーが所持するレベルも彼の特殊効果の範疇であり、弾丸はダメージ計算を行う前にプレイヤーの間を貫通する。

 弾丸が止まることはない。

 先述したが、この世に存在する全ての物質にはレベルが付与されている。

 そのレベルの概念を無視し、攻撃を行う為、レベルの壁に着弾し、弾丸が止まることはない。

 つまりはレーザービームのようなもの。

 直線状に発射された弾丸は設定した着弾位置を誤れば思わぬ場所で味方すらも犠牲になりかねない。


 それに加え、この効果を使えば南都から北都の王を攻撃することだって可能だ。

 ただ、南都と北都の間にはそびえ立つ活火山『メラネア』があるため、狙いを定めることは極めて難しいが。

 シュベインのレーザービームによって怯んだ悪魔たちとの間にあった間合いを一瞬で詰める。

 そして近距離でショットガンを打ち込む。

 相手に銃を構える隙など一瞬も与えず、ただ打ち込む。

(乗ってきた)

 走り出したゼウリウスは弾丸を避け、前へ前へと進む。



 ≪ダンッ!!!≫



 制圧完了。

 周辺にいた悪魔は全て倒した、その数100。


 ゼウリウスは違和感を覚えた。

 玉座の間の窓から外を見た時にはもっと悪魔の数は確認できた。

 100なんかでは収まらない、100万、200万弱は居たはずだ。

 上空からシュベインが降ってくる。

 どうやら砦の上からレーザービームを放っていたようだ。

 シュベインも同様に違和感を覚える。

 全ての悪魔がナッシュベルの方へ行ったのか。

 だとしたらもう少し騒がしいはずだ。

 辺りはあまりにも閑散としすぎていた。

 ナッシュベルが全てを倒したのか。

 そう考えたが、それは間違っていた。


 前方の南都正門から禍々しいオーラを放つプレイヤーが現れた。

 フルオートライフルを装備し、細身で黒いレザージャケットを羽織った尖ったヘアスタイルの悪魔がそこにはいた。

 デメルギアスだった。

「いやァ…こんなにいい餌巻いてくれて助かるわァ…」

「てめぇは…?」

 南都幹部、ゼウリウスとシュベインに気付くとニタリと笑った。

「懸賞金7600万と2980万か…」

「味方はどうした?お前一人か?」

 ゼウリウスの言葉にデメルギアスは笑う。

「俺に味方なんていねぇよ…俺の味方はレベルだけだァ!!」


 バチバチッ!!


 雷のようなものがデメルギアスに落ちた。

 その瞬間デメルギアスの背中から黒い翼が生えた。

 鳥の翼のような綺麗なふわふわとした翼ではなく、異形な、それでいて禍々しい、現代アートのような形をしていた。


「それはッ…!!堕天使の翼!!」


 電撃を纏ったその異形の翼は【堕天使の翼】と呼ばれている。

 レベル100を超えたタイミングで使うことができるようになる悪魔版【純白の翼】。

 ただ、レベル20で解放される【純白の翼】とは異なり、性能が段違いで強化されている。

【堕天使の翼】の効果は飛行能力の付与に加え、攻撃力に特化している。


 


 攻撃力の上昇は計り知れず、一撃で相手を葬り去る力を備えることになる。

 レベル100を超えたプレイヤーの出現はこの世界の終盤を意味する。

 攻撃力やレベルにインフレが起き、太刀打ちできない状況が続くからだ。

 全ての都を落とし、全てのプレイヤーの頂点に立った時、人はそのプレイヤーをナンバーワンプレイヤーと呼ぶ。

【堕天使の翼】はダンデ・リ・ユニオンですら持っていない。


「どうやってその翼を手に入れた…?」

 その質問はつまりどのようにしてレベルを上げたか、という意味だった。

 デメルギアスは笑いながら答えた。

「馬鹿だよなァ、コイツ等は。仲良しごっこでもしてるつもりかよ、みんなで攻め落としましょう~なんて阿保か」

「つまりは味方を全員殺したと…?!」

「だからァ…俺に味方なんていねぇっつってんだろ?!まぁ良い糧になってくれたわ、これで俺は最強と戦える」


 満足したように頷くとデメルギアスは言った。

「中でもナッシュベルって奴は美味かったな、一人で経験値5430万…!!効率よくレベル上げるためには経験値が高くねーとな」

 その瞬間、ゼウリウスとシュベインが殺気付いた。

 デメルギアスはを睨みつけ、銃を構える。

 その様子をみてデメルギアスは可笑しそうに笑う。

「いいね、いいねェ…!!やろうか!南都の幹部!!」

 奇怪な音を上げながら上昇するデメルギアス。

 静かにその姿を見据え、構えるゼウリウスとシュベイン。


「俺の名はデメルギアス…!!殺す悪魔に敬意を払って!!」

「行くぞ、シュベイン」

「了解」

 高レベル悪魔同士の戦いが今、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る