第106話 修行④ Mizuki vs Mei

 ミズキとメイは剣を構え、向かい合う。

 メイは剣技を教わってから初めての対人戦だったこともあり、少し自信の無いような表情を見せたが、ミズキの真剣な顔を見て考えを改めた。

 カイトは中心に立ち、審判役を買って出た。


「では、はじめ」


 カイトの声と共にメイは動き出す。

 ミズキはメイの動きを視たいと思ったのか、動こうとしない。

 メイの斜刃剣は型に則って繰り出された。

 ネメシスから直接教わったカイトの目にはとても美しいフォームに写った。

 ミズキはメイの型をとても剣の持ち方から初めて3日と経っていない技術には思えなかった。

 3日足らずでこの技術が習得されるのならば脅威である。

 そして自身の技の存亡の危機だ。

 しかし3日足らずでそれを会得したのはメイの熱量があったからだ。

 常人にはここまで速い習得は不可能だ。


 斜めから振り下ろされた剣は正確にミズキの身体を捕らえる。

 即座に剣を動かし、剣の着地地点に合わせる。

 ガキンッという金属と金属がぶつかり合う音が晴れた空に響く。

 同時にミズキは剣を持つ右手に少しの痺れのようなものを感じた。


 まさか、これが噂に聞く衝撃波か。

 ミズキは考えた。

 まだ未完成だが衝撃波のようなものが発生している。

 成長が恐ろしいほど速い。

 まるで迫りくる危機に対応するためにいち早く技を習得したいと心から願うように。

 力を、ただ敵を倒すために力を得るために。

 焦っているかのようだった。


 剣を交えてミズキは気付く。

 洗練されているかのように思えたメイの動きにズレのようなものが生じていることを。

 そのズレは疲労が生み出したもの。

 メイは修行を開始してからというもの、眠っていなかった。


「ああああああッ!!」

 唐突なメイの咆哮に驚くミズキ。

 速度は上がっている。

 だが、威力はお粗末なもの。

 軽く弾くと態勢を崩した。

 息が上がっているメイを見てミズキは声を掛ける。


「メイ、あなた眠っていないでしょ」

 ミズキの問い掛けに驚いたのは本人であるメイではなくカイトだった。

「どういうこと…?眠っていないって…」

 カイトの声にメイは観念したように地面に座り込む。

 そして剣を地面に刺し、頭を抱える。


「わたしには時間が無い。いち早くこの剣を習得しないといけないの」

 カイトとミズキはメイに近づき同じように近くに座り込んだ。

 メイは静かに口を開き、話を始めた。



 *



 ネメシスが来たのは自身の戦歴が記録された「聖域」。

 そして倒すべき敵がいる戦場。

 台座に手を置きながらカイト、ではなく外部の人間が言っていたことを思い出す。



「『MAO』は既に目を覚ましています。聖域を破壊し外に出るのも時間の問題でしょう」

 外部の人間は続ける。

「わかっていると思いますが、『MAO』がカイト、メイの前に姿を表した時、カイトとメイは『MAO』を歓迎するでしょう。そして背を向けた瞬間殺すでしょう」

「ああ、わかっている。奴だけはアイツらに見せるわけにはいかない」

 すると外部の人間はクスリと笑った。


「何がおかしい」

 思わずネメシスが尋ねると、失礼、と口元を隠しながら答えた。

「随分と彼らに情が湧いてきたようですね」

 ネメシスはバツが悪そうに空を見上げると言った。


「もうアイツらが悲しむのはいいだろ。死ぬほどの哀しみを経験し、それを乗り越え立ち向かおうとしてるんだ。あいつらにこの障壁は必要ない。必要無い障壁を取り除くのは師匠の役目だ」



「…なんてカッコつけたこと言ってきたが、負けたら洒落にならねーよな」

 聖域へと続く扉が開く。

 そして剣を抜いた。

「ま、オレが負けることなんてありえねーんだよ」

 聖域内部の明かりは全て消えていた。

 しかしネメシスが足を踏み入れた瞬間、全ての明かりが点いた。

 そこに立っていたのは一人の少女。

 そして手には一つのロングソード、聖剣OHMが。


「いつの間に俺の部屋に自動照明機能を実装したんだ?」

 ネメシスの声には何も反応を示さない。

「あと、その剣、俺のだから返してくれない?」

 次の瞬間MAOは動き出した。

 抜刀など必要ない。

 既に抜かれた刀身丸出しの鉄の塊。

 一瞬で近づき、振り回す。

 態勢を低くし、剣をかわす。

 そして隙ができたMAOの身体に剣撃を打ち込む。

 手応えはない。

 鉄の塊を切ったようだ。

 火花のようなものが散った。

 そして何も問題はなく立ち上がる。


[解析完了]

 ロボットの声が脳に響く。

「なるほどな、今と同じ攻撃は二度と効かないってわけだ」

 ニヤリと笑みを零すネメシスの目には炎が宿った。

 コイツを倒した時、俺は更なる高みに行けるだろう。


「おもしれぇ」

 双方は同じタイミングで地を蹴った。

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