第27話 宝箱とレベル Treasure box and Level

 土煙が立ち上がる。


  相手の様子が確認できない。


  だがきっと倒れていない。


  でも"穴"は開いた筈だ。


  「ミズキ!とどめを頼む!」


  一瞬で敵へと向かうミズキ。


  意思伝達テレパシーで言われた通りの場所に…剣を突き刺す。


  その瞬間。


  鎧兵はガラガラと崩れて始め、静かに消滅した。


  「た、倒したの?」


  魔力を使い果たしたリナが問う。


  「よくやったな。リナ。リナのお陰だ」


  戒斗がリナに言う。


  リナは嬉しそうに笑って見せる。


  すると経験値が全員に付与された。


  全員のレベルが上がる。




  【カイト2026】 239→251

  【リナ♪25】 239→251

  【純白の翼】 250→269

  【ミズキ294】 245→257

  【ツカサ10】 173→201




  「おー!終わったかー!」


  どうやら翼が起きたらしい。


  蘇生早々うるさい。


  「それにしても戒斗さん」


  戒斗は突然ツカサに声をかけられたことに少し驚く。


  「なんだ?ツカサ」


  「今回の敵NPCAIには弱点が無いはずなんですが、なんであの脇の下が弱点だって気付いたんですか?」


  ツカサからの純粋な質問。


  確かにツカサの情報は正しいだろう。


  戒斗は素直にその質問に答える。


  「俺は自ら弱点を作った。これでな」


  戒斗は取り出した物をツカサに見せる。


  「『クロミナジュース』?!」


  ツカサは思わず声を上げた。


  「以前コンビニで買っておいたんだ。これを解けた液体の中に混合させた」


  「なるほど!それを含んだ銅は異物として変色し、そこが脆くなっているわけですね!」


  ツカサが納得する。


  [それだけじゃ無いわ。銅は酸素が含む場所では腐食が発生するけど、炭酸水に含まれるCO2、つまり二酸化炭素によって腐食が起きるケースもある。その腐食が体内で起こり、少しの攻撃でボロボロになったって訳ね。流石カイトだわ]


  ミズキの補足説明を聞いて戒斗は目が点になっていた。


  (え、う、うん。もちろん、それも念頭にあったよ?)


  あまり理解できていなかったツカサだったが、


  「戒斗さん、すごいです!そんな事まで頭に入れてあったなんて!」


  戒斗は羨望の眼差しを向けられ少し照れたが、後の方にミズキが言っていた腐食だの二酸化炭素だのって言う話は殆ど知らない話だった。


  実際どこまで現実の世界と環境が合致しているか不明だが、そういう現象が起きたということにしておこう。


  「おーい!みんな!宝箱開けるぞ!」


  翼の声に4人は宝箱の方へと行く。


  そして翼が開けた。


  中には……。


  「特殊スキル……?」


  宝箱の中には巻物が5本入っていた。


  以前に見たことがあるのか、翼が真っ先に声を出す。


  「前に店で見かけたぜ。この巻物に書かれてるコードを自分のステータスに打ち込めば新しいスキルや魔法が使えるようになるって言う……。結構な値段してたぜ?」


  (なるほど、そんな代物まであるのか)


  現物を見たことがなかった4人は初耳だった。


  リナは「ポ◯モンのワ◯マシンみたいね!」と1人で納得していたが、本当に理解したのだろうか。


  「じゃあ、1つずつ見ていくぞ。翼、いいのか?」


  珍しく戒斗に巻物を開ける役を譲った翼。


  こういう目新しい事は率先してやりたがるような気がしたが。


  「いいから早く見せろ」


  らしい。


  なら開けてみせようと戒斗は一つ目を開ける。

 




  【特殊技能付与証スキルライセンス

  技能:神速斬しんそくざん

  系統:全色対応

  説明:目にも留まらぬ速さの斬撃はまるで神の技。

  コード:M12987KAW

 




  「神速斬しんそくざんだってさ。ミズキ使ってなかった?」


  特殊技能付与証スキルライセンスを持つ戒斗が聞く。


  [使ってはないけど持ってるわ]


  即答された後に続けて、

  「俺も持ってるぜ」


  「私は剣使わないし、要らないかな」


  「僕も…」


  「おい!コイツがかわいそうだろ!俺が貰ってやるからな!」


  戒斗は何故かこれがかわいそうに思え、つい強い口調でメンバーに反抗した。


  彼は精霊崇拝アニミズム主義者ではないのだが。


  「ちょうど俺持ってなかったからな。よっしゃ、新しい剣のスキルが手に入ったぞー!」


  戒斗は少し棒読みでコードを入れた。


  (わかってた)


  「なぁ、戒斗。そのスキル、結構弱いぜ?」


  (わかってたっつったんだろ!

  みんな持ってるってことは結構序盤で手に入るやつじゃないですかなんで私は持ってないんですかそうですか)


  戒斗は頭の中で強く訴えたが、その訴えは誰にも届かなかった。


  「まぁいいけど。二個目見ろよ」


  コード入力が終わった戒斗に翼が声をかける。


  「わかったよ……えっと、次のは……」

  戒斗は2個目の巻物を確認する。




  【特殊魔法付与証マジックライセンス

  魔法:炎鳥フレイムバード

  系統:赤色

  説明:唱えると手から火の……


  「いらねぇー」


  説明を読んでいる戒斗に対し翼がストップをかける。


  「違う系統のやつは使えねーからな後で売りに行くぞ」


  「わかったよ。次行くぞ」


  つまり違う系統のやつはみなまで言わなくていいとの申し出だった。


  (たく、気になってると思って言ってやってるのに!)


  戒斗は少し翼を睨む。


  「3つ目は……」


  戒斗はそっと宝箱の中に巻物を戻した。


  (((違う系統だったんだ…)))


  戒斗以外の4人は察した。


  「4つ目!いいの出てくれ!」


  戒斗が誰かしらに懇願する。


  よくあるもう結果決まっちゃってんのに必死に懇願する奴。


  テストの結果とかな。

 



  【特殊魔法付与証マジックライセンス

  魔法:接触低下タッチダウン

  系統:紫

  説明:触れた対象のレベルを1秒に1レベル下げる。

 ※冒険者プレイヤーへの使用及び中心都市内での使用はできない。

  コード:M587695RGD




  戒斗は1人で声を上げていた。


  戒斗にとってその魔法はチートのようなものだった。


  「そんな魔法見たことねーな……」


  翼がぼやく。


  「まじで?!じゃあ俺が一番かな?!」


  しつこいほど翼に寄る戒斗。


  彼は少々興奮していた。


  新しいチートスキルの入手に。



  この世界の物には「レベル」という物が付けられている。


  地面や建造物、草木まで。


  あらゆる物にレベルがついている。


  バトルフィールドではそのレベルを超えた冒険者プレイヤーが対象の物体に攻撃をする事で破壊することができる。


  破壊できないということは自分のレベルよりも対象の物体のレベルの方が高かったということになる。


  中心都市の建造物にもレベルは割り振られているらしいが、それを破壊する事は厳禁。


  まぁ中心都市では破壊行動はもちろん攻撃をする為に剣を抜くこともできないのだが。


  そういう訳でバトルフィールドで近くに生えた邪魔な草は剣一振りで切れてしまう。


  これが「レベル」の概念である。



  戒斗はそれを自由自在に変動させる事ができる力を手に入れたのだ。


  さらに戒斗の魔法、意思移動サイコキネシスを使う為に50レベルまで物体や敵に触れて下げてしまえば、自在に動かす事が可能になるのだ。


  (これは強い)


  確信した戒斗はニヤニヤと1人で笑っていた。


  そして戒斗は今回の戦闘で魔法のさらに言うと意思移動サイコキネシスのレベルをもっと上げておこうという考えに至った。


  「ラストは俺が開けるぞー!」


  翼が最後の巻物を手に取ると、開けた。




  【特殊魔法付与証マジックライセンス

  魔法:完全防御空間パーフェクトキューブ

  系統:金・銀

  説明:冒険者プレイヤーが指定した範囲に魔法・物理攻撃諸々から身を守る空間を作成することができる。 範囲は広ければ広いほど魔力使用量が多くなり狭いほど魔力使用量が少なくなる。




  「来たぞー!防御魔法だ!」


  戒斗も説明を聞いていたがなんだその魔法はと思わず存在を疑ってしまうほど驚いていた。


  "諸々"という言い方がまた強い。


  何故なら判定が緩そうだからである。


  所謂いわゆるなんでもあり…になりそうなこの魔法。


  (これは荒れるな)


  戒斗は1人でそう思った。


  「私にぴったりの魔法じゃない!」


  「いいや!空間を司る俺様にぴったりな魔法だ!」


  (やっぱりそうなったか)


  戒斗は個人的にはリナにその魔法を持って貰いたいと考えていた。


  リナはこのグループの中で一番魔力数値が高い。


  防御に徹してもらうにはかなりの魔力が必要。


  それに防御魔法の使用の経験のある(というか本職の)リナの方がその魔法を使えばどんな場面でも適応することができるだろう。


  ミズキとツカサも困ったように言い争いをしている2人を見ていた。


  ミズキとツカサも戒斗と同じ意見だった。


  痺れを切らした戒斗は


  「それは後でゆっくりみんなで話そう!今はここから出るぞ」


  地面に魔法陣が出現した。


  その魔法陣から発せられる光は天井へと伸びていた。


  ふに落ちない2人だったが、戒斗の意向に従った。


  なんやかんやで早く外に出たかった。

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