第112話 新世代へ To a new generation



『Enge : Devil Online』 

ナンバーワンプレイヤーランキング予想  (2022.8.21.16:59更新)


 1位 ネメシス (天使)

 2位 デメルギアス (悪魔)

 3位 ダンデ・リ・ユニオン (悪魔)

 4位 アルフレッド (悪魔)

 5位 カイト (天使)






『Enge : Devil Online』は終幕が近づいていた。


 インターネット上でもナンバーワンプレイヤーに選ばれるのは誰か、議論が白熱していた。


 またもやネメシスがナンバーワンプレイヤーになることを予想している者。


 南都幹部を壊滅、西の都を陥落、堕天使の翼を所持し、実戦経験も豊富なデメルギアスに軍配が上がると予想する者。


 ダンデ・リ・ユニオンがどこかで逆転を狙っていると期待を抱く者。


 東の都のリーダーにして最速でレベル100に到達した最長生存記録を所持しているアルフレッドを支持する者もいた。


 そしてごくわずかだが、ネメシスの一番弟子、カイトがナンバーワンプレイヤーになりこの世界に革命をもたらすと信じている者もいた。


 このゲームは最早この5人によって成立していると言っても過言ではなかった。


 他のプレイヤーは彼らの前ではゴミも同然。


 レベルの低いプレイヤーは皆ログインを止め、静観を始める。


 これが『Enge : Devil Online』のクライマックス。


 終盤に起こる自意識によるログイン停止である。


 このゲームにはこの五人しかログインをしていなかった。


 否、一人の天使がいた。


「カイト」


 彼女の目の前には変わり果てた戦友の姿があった。


 穴だらけでボロボロになった服や乱れた髪の毛。


 それはどうでもよかった。


 彼女の目に真っ先に入ってきた違和感はカイトの目だった。


「か、カイト、何を考えているの?」


 黒、漆黒、闇。


 引き寄せられ、粉々にされてしまいそうな引力。


 人間の目からは多くの情報を読むことができると言うが、彼の目からは何も得られなかった。


 純白の羽。


 カイトの背中に生えたそれだけが彼を照らしていた。


 右手に持ったロングソードはただ黒く、何の感情も持っていなかった。


「私の声が聞こえる?カイト」


 カイトは何も答えない。


(怖い)


「私はね、カイト。いつまでもあなたの友達だから」


 カイトの目には数字が映っていた。


 34。


「カイトが何をしようともね」


(震えが止まらない)


「私はあなたの味方だから」


「34か」


「え」


 カイトの言葉に素っ頓狂な声を出す。


「ちょっとだまれ」


 ≪ザンッ!!≫


 ミズキの首が飛んだ。


 カイトに経験値が付与された。


 振り返らない。


 カイトは次なる敵のもとへと向かった。


 それがミズキとカイトの最後の会話だった。




 *




「少しスピードが落ちたんじゃねーかぁ?!ネメシスさんよぉぉ!!」


 デメルギアスの堕天使の翼から繰り出される多種多様な弾丸、刃は着実にネメシスの体力を奪っていた。


 何よりデメルギアスのスピードについて行くことだけで精一杯だった。


 それもそのはず、ネメシスとデメルギアスの間には100を超えるレベルの差があるのだ。


 ネメシスは単純体力や動体視力だけで戦っているのと遜色ない。


 ネメシスはまた剣を構える。


 相手は戦車、いや、軍艦か。


 ネメシスは針金一本で戦っているようなものだ。


 空に飛べば追尾弾が何万発と放たれる。


 陸から攻めれば何千本もの刃が身体を襲う。


「ここまでか」


 ネメシスは最大限の力を振り絞り、デメルギアスに特攻を仕掛ける。


(速いッ!!)


 デメルギアスは身構える。


 そして翼を起動させる。


 銃弾の雨を降らせるとともに剣の嵐を吹かせる。


 完全防御形態。


 敵うわけがない。


 これがデメルギアスが編み出したナンバーワンプレイヤーになるための秘策。


 死角は、ない。


 ≪ドッ!!≫


 肩に剣が刺さる。


 ネメシスの剣だ。


 当初何が起きたか分からなかった。


 だが、すぐさま理解した。


 ダメージを与えられた。


 即座に抜こうとした。


 だが、その前にネメシスの姿を確認しなければ安心できない。


 デメルギアスは雨と嵐を止める。


 そこには剣を投げたモーションで静止しているネメシスの姿があった。


 周囲にはネメシスの血が飛び散り、HPは底をついているようだった。


「一石を投じたぞ」


「じ、じ、自分が死んだら意味ねーじゃねーかッ!!」


 デメルギアスは思わず叫ぶ。


「これでいいんだ。俺たちは飽きていた。この世界に。それを変えてくれるのはお前たち新世代だ」


「おまえたち?……って誰のことだよ」


「お前を倒しに来る奴の事さ。あいつは今、最強になるためならすべてを捨て行く覚悟を持ってる。お前にもその覚悟があるか?」


「元から、そのつもりだ!!最強になることがオレの人生だ!!」


 ネメシスは安心したように倒れた。


 ネメシスは倒れた。


 そしてこの世界から消えていった。


 新世代を作るために、彼は二人の最強を作り出すことに成功した。


 彼らが次世代のネメシスになる。


 ネメシスは重い荷物を下ろした。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 勝者―――デメルギアス。


 レベル変動、無し。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る