第113話 継承 Inheritance

 

 カイトが次に会ったのはダンデ・リ・ユニオンだった。


 長い間現実世界で澤田和俊とともに調査をしていた関係でログインしていなかったが、最終決戦前にログインすることができたようだ。


 遠くからでも伝わるその威圧感に思わず足を止めた。


 だが、ダンデ・リ・ユニオンからは敵意や殺意は感じない。


「少し時間をくれ」


 ダンデ・リ・ユニオンの声に剣を握りしめていた右手を緩める。


「調査結果を報告させてくれ。俺は今『ZONE』社長澤田和俊とともに事件解決に動いている。調査では霧春真治が複数人のプレイヤーに向けて資金援助をする代わりに自分の目的を果たすための駒にしていたことを突き止めた。実際に金銭の移動が視られた記録から駒を特定。その人から証言も得られた」


 カイトは何も反応しなかった。


「だが、霧春真治の行方は掴めていない。現段階は逮捕状を申請するために証拠を集めているところだ」


「Thunderには?」


「もちろん報告した。だが、そのような人物はいないと主張している」


 ダンデ・リ・ユニオンはしかしだ、と付け加える。


「君とネメシスが作成した契約書、あれがかなりの効果を発揮している」


 霧春真治とカイト・ネメシスの間に結んだ自らの命を懸けた契約書。


 作製したのは澤田和俊だ。


 あの場所で澤田和俊が動かず、口約束になっていた場合、何の効果も得られなかっただろう。


「霧春真治という人間がThunderにいないとしても、契約書にサインした時の肩書きは紛れもなくThunderの社員だった。いくら後から霧春真治の首を切ったとしてもThunder社員が契約をしたという事実を消すことはできない。もう一度契約内容を確認しよう」


 ダンデ・リ・ユニオンは目の前に契約書の文言を提示した。




【プレイヤーカイトがナンバーワンプレイヤーになれなかった場合】

 ・カイトは死亡する

 ・プレイヤー名ネメシスは賠償金1億円を霧春真治に譲渡する

 ・プレイヤー名ネメシスは『Enge : Devil Online』を永久追放される


【プレイヤーカイトがナンバーワンプレイヤーになれた場合】

 ・カイトは現実世界に生き返る

 ・霧春真治は『Thunder』を辞職する

 ・『Enge : Devil Online』を消去する




「ナンバーワンプレイヤーになれた場合の項目にある『霧春真治は『Thunder』を辞職する』は効果を発揮しない。なぜならThunder側にしてみれば既にいない人間の話だからだ。しかし、『Enge : Devil Online』を消去する、という項目についてはThunderも黙っていられなかった。このゲームの最後まで効果は続き、君がナンバーワンプレイヤーになった瞬間、このゲームは問答無用で消える」


 つまりどういうことかわかるか?とダンデ・リ・ユニオンは尋ねた。


「Thunderは君をどんな手段を使ってでも消しに来るということだ」


 どんな手段を使ってでも。


 それはチート行為だって許可されていることになる。


 ルール無視のレベル変動だってあり得る。


 なぜなら敵は企業そのものなのだから。


「君の行動を縛ることはできないから安心してくれ。君のアカウントは一般のプレイヤーとは異なる場所で管理されている。自身でのログアウトができないという縛りが存在するため、企業側も強制的にログアウトさせることができないようになっている。独立しているんだ、君のプログラムは」


 カイトは心配はしていなかった。


 他のプレイヤーと異なる性質を持ったカイトからすれば管理が別サーバーで行われていることは分かっていた。


 だが、同様に。


「しかし、それも時間の問題なんだ。企業側は強制的にログアウト、つまりはライフラインを強制的に断ち切ることを始めた。タイムリミットはあと3日といったところだろう」


「よく3日も持ちますね」


 ダンデ・リ・ユニオンは不敵な笑みを浮かべた。


「我々、『ZONE』が妨害工作をして回っている。賠償責任が生じると思うが、人の命に比べれば安いものだろう、と澤田和俊は言っていた」


 カイトは少し驚いた。


 自分の為に動いてくれている人間がたくさんいることに。


 自分は師匠ネメシスからレベルを貰ったあと、一人になったと思っていた。


 この世界ではたった一人になったと思っていた。


 自分以外のプレイヤーは全て敵だと思っていた。


 だが、それは違った。


 その事実だけでも、彼は多少の余裕を作り出すことができた。


「話は終わりだカイト。これから君を狙って理不尽なほど敵が湧いてくる」


 カイトは静かに頷く。


「最後に、俺はお前の味方だ、カイト。ナンバーワンプレイヤーになってこい!!」


「感謝します、ダンデ・リ・ユニオンさん」


 カイトのロングソードがダンデ・リ・ユニオンの心臓を貫いた。


 ダンデ・リ・ユニオンは一切の抵抗を見せなかった。


 レベル変動。


 ダンデ・リ・ユニオンのレベルは200を超えていた。


 4億を超える経験値が、カイトに降り注いだ。


 結果、カイトの純白の羽は、次のレベルへと進化する。

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