第114話 買収 Acquisition
デメルギアスの下に一通のダイレクトメッセージが届いたのはネメシスを倒してすぐの事だった。
ネメシスを倒したにも関わらず、レベル変動が無いことに不信感を覚えていたため、それについての通知かと思い、期待した。
だが、違った。
送り先は株式会社Thunder、このゲームの公式だった。
件名は「仕事の依頼」だった。
本文はない。
その代わりに一つのリンクが添付されていた。
公式のアドレスであることは確認済みであるため、警戒心は皆無だった。
そのリンクを押すと目の前に一人の男が現れた。
ブロンドヘアの髪をがっちりと固めた高そうなスーツに身を包んだ中年の男。
ニコリと笑うその口からは真っ白な歯が見えていた。
「誰だあんた」
突然現れたそのホログラムに質問するデメルギアス。
ネメシス撃破の高揚感が残っているため気が大きくなっていた。
「初めまして、デメルギアス。私は株式会社Thunder社長、ライボルト・マークだ」
「ライボルトォ~?あぁ、社長さんか、どーも」
デメルギアスは会釈のような軽いお辞儀を最大限の敬意を払ってした。
「まずは感謝する。君のお陰でこのゲームは大いに盛り上がっている。観客も最高に盛り上がっているよ」
「今この映像を見てる奴もいんじゃねーのか」
デメルギアスが心配したのは社長ともあろう人間がゲームに干渉することを観客、その他プレイヤーが良しとしないのではないかという不安。
だが、その不安も即座に払拭された。
「心配いらないよ、今映像は別の物に差し替えられている。その上この会話は記録には残らない」
社長がそう言うのなら。
デメルギアスは信用した。
加えてこの状況が不利に働くのはデメルギアスだけではない。
社長にとっても自らの価値を下げかねない行為だ。
それを考えると映像を差し替えたという発言は正しいと考えられる。
「で?俺になんか用件でもあんのか」
「君には何が何でもナンバーワンプレイヤーになってもらいたい」
突然社長の口から発せられたナンバーワンプレイヤー、という言葉。
そしてなってもらいたい、という社長の願い。
社長や管理人はプレイヤーに私情を挟まないものなんじゃないのか。
あくまで公平に、戦いを見守るのが管理人の務めなのではないのか。
デメルギアスはそこに強烈な違和感を覚えたが、社長なりの激励なのだと解釈した。
「言われなくてもそのつもりだ。俺はナンバーワンプレイヤーになる以外脳がないもんで」
ライボルトはニコリと笑った。
だが、まだ何か言いたそうだった。
「足りないね。デメルギアス」
「ああ?」
ライボルトの表情は崩れなかった。
だが、対照的にデメルギアスの表情はみるみるうちに崩れていった。
ネメシスにも言われ、ライボルトにも言われた。
言葉の重みが足りないとでもいうのか。
ネメシスの言っていた覚悟とやらか。
足りない?
ふざけるな、俺はいつだって本気なんだ。
「契約を結ばないか?デメルギアス。君がカイトを倒し、ナンバーワンプレイヤーになった時、我々は100万ドルの成功報酬を与えよう。加えて君を公式選手としてスポンサー契約もしよう。どうかな?」
「なんでカイトって奴と俺が戦うことが決まってるような言い方すんだよ」
「気にしなくていい」
ライボルトの表情は変わらない。
デメルギアスは契約という言葉が出てから冷静になった。
感情に身を任せるのではなく、冷たい目でライボルトを観察する。
「失敗した時は?」
デメルギアスが質問する。
ライボルトはその質問を待っていたように即答する。
「何もない」
「は?」
デメルギアスは何を言っているのか分からなかった。
「君が失敗したとしても何もないよ。だから君は成功することだけを考えていればいいんだ」
そんな都合の良い契約がこの世界に存在するだろうか。
成功報酬は莫大。
失敗しても失うものは何一つない。
「ただし、一つ条件がある」
ライボルトは指を立てて笑う。
「君には何がなんでも勝ってもらいたい。だからね、これを使ってもらいたいのだよ」
ライボルトの人差し指が光った。
そしてデメルギアスの目の前に一つの数字の羅列が並んだ。
「これは?」
「
なるほどな。
そういうことかよ。
デメルギアスはニタリと笑った。
これを使ったら確実に勝てる上に大金が懐に雪崩れ込んでくる。
加えて公式プレイヤーとして雇ってもらえる。
最高だ。
≪ザンッ!!≫
デメルギアスはライボルトのホログラムを一刀両断した。
もちろんダメージはない。
だが、それには大きな意味があった。
「こんなもんに俺が屈するとでも思ったか?社長さんよォ!!」
予想外の反応にライボルトの表情は硬くなる。
こんな好条件の契約を破棄してくる人間などいないと思っていたからだ。
「確実に勝てるだぁ??ふざけんじゃねぇ!!俺は何のためにネメシスに勝ったんだよォ!!俺は何のためにここまで来たと思ってんだ!!そんなもん使って勝っても何の意味もねぇ!!」
デメルギアスは荒い息を上げながら訴える。
「俺が俺でいるためには、俺のチカラでこの世界を獲らねぇといけねーんだ!!そんなカスみてぇなチカラ使って何が面白い!!!」
「君には失望したよ」
ライボルトは指を元に戻す。
そしてデメルギアスを睨む。
「後悔するぞ」
「それはどうかな、事情は良く知らねーが、かなり必死みてーだな、運営さんよ」
ライボルトの青筋が浮かび上がった。
だが、相手は大事なプレイヤー。
ここで激昂するほど、ライボルトは経営者として終わっていない。
「活躍を期待している」
ライボルトはそう言うと消えていった。
デメルギアスは一つ舌打ちをすると行動を開始した。
最後の敵、カイトを探して。
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