第53話 決勝戦① Final game=1
4月12日。
レベル20以上限定
メンテナンスを終えた第八区画は沢山のプレイヤーで溢れかえっていた。
空は暗く、時折上がる花火が美しくその場の雰囲気を盛り上げていた。
決勝戦が行われる会場は昨日のメンテナンスにより完成した臨時の闘技場。
‘‘第八区画特設総合闘技場‘‘、収容人数は10万人である。
その数の100倍の来客が予想されるが、限度があったらしい。
特設闘技場に入ることができなかった人は別会場のモニターでの応援となる。
それだけでなく、contactしなくても動画共有サイトと提携したサービスも敷かれており、そのサイトでリアルタイムで戦いを視聴することができるようになっている。
決勝戦は一番人が集まる。
それに加えて一般来場者にも大きな企画がある。
応援にさらなる拍車をかける事になるだろう。
戒斗はメンバーから一通り応援メッセージを貰うと出場者控室へと移動した。
その間に沢山のプレイヤーから視線を送られた。
決勝戦進出者は大きな注目の的だ。
それはその人が応援する対象だからという理由だけではない。
この大会に出場した全プレイヤー2582
2582
約0.00580945の確率を勝ち取ったのだ。
それだけでも、この決勝の舞台に立つことだけでも、称賛に値し、今後クロミナ掲示板に載ること間違いなしなのだ。
さて、そんな一躍時の人になることが確定した戒斗は控室に入ると近くにあったベンチに腰を下ろした。
控室は各ブロックごとに分けられ、その内装は予選、本選と変わらなかった。
円形になったその部屋の中心には大きな石碑らしきものが置いてあり、それを囲むかのように円状にベンチが設置されていた。
遠くのほうから微かに歓声が聞こえてくる。
戒斗は静かに目を閉じた。
ここからは単なる戒斗の‘‘興味‘‘である。
メンバーが居ない以上協力プレイなどはできない。
どのタイミングで死んだってメンバーには関係ない。
だが、戒斗には確かめたいことがあった。
本当に自分の力が現上位プレイヤー共に通じるのか。
それは慣れや経験値も大きく影響すると思うが、高レベルプレイヤーというだけで戦っていけるのか。
それを確認したかった。
そのついでに報酬も手に入ればいいな、などと考えていた。
つまり、最初から『カイト』で行くつもりだ。
だが、一番危惧しているのは‘‘死に方‘‘だ。
一番のレベルを誇るカイトのHPを一瞬で削ってくれるのなら話は早いのだが、そんな状況にはならない可能性のほうが高いだろう。
となると、どこで殺してもらうか…。
再確認をするが、戒斗は自分が聖騎士エグバートないしは最高レベル保持者であることを他プレイヤーにバレたくない。
自身の素性を隠し通すことは最優先事項として、それができなくなりそうな場面になった場合は即座に撤退するつもりだった。
またあの頃のように一人にはなりたくない。
またあの頃のように寂しい思いはしたくない。
やっと手に入れたんだ、掛け替えのない自分自身の居場所を。
今度こそ、失ってたまるか。
戒斗はそう決心すると、ゆっくりと目を開けた。
*
トッ…。
どこか懐かしい音。
しかし聞こえるのは自分一人の音だけだ。
目を開けるとそこは荒原地帯。
赤色の土に枯れ果てた大地。
おまけに砂嵐という特典付きだ。
これなら【煙幕弾】を使わなくても大丈夫かな、などと考えているうちに決勝戦が始まった。
視界が砂嵐及び土煙によって奪われ、遠くがあまりよく見えない。
暗視の魔法がどれほど便利だったか、身をもって痛感していた。
他のプレイヤーはどうしているのだろうか。
カイトはステータスから試合状況を確認した。
そこには経過時間と残り人数、地形等が表示されていた。
そこには、【残り人数 24/34】の表示が。
カイトはものの数秒で8人ものプレイヤーが退場していることに驚きを隠せなかった。
そしてこの瞬間も自分が狙われる危険があることを思い、行動を開始した。
*
「8人減ったか」
一人のプレイヤーを先頭に走らせ、砂嵐の中一寸の迷いなく荒野を走るのは頭から角を生やした大柄の男、ギラである。
ギラの
ギラは普段から人に当たる態度は悪いものだが、戦略や、人選センスはこの世界一である。
その為、彼は高レベルプレイヤーの象徴の一つとして現クロミナ界を引っ張っている。
そのギラの先を走るのは【紫系統】のプレイヤー、【暗視】使いである。
彼らが目指すのはとある
規約違反、BAN対象のプレイヤーのいる
「それにしても…一瞬でしたね、8人。どなたがやったんでしょうか?」
ギラの後方を走っていた男がギラに尋ねる。
「多分だが…Aブロックの奴らだろ。狙われたのはEブロックの奴らだろうなァ」
ギラは可哀そうだと思っていながらも、まぁそれも仕方のないことだったのさ、と言わんばかりの表情を見せた。
するとギラの前方を走っていたプレイヤーの足が止まる。
「近くにいます」
そう告げるとまたゆっくりと歩みを進めた。
前方を走っていたプレイヤーの手のひらにあったのは一筋の‘‘光‘‘。
これは【紫:対象追跡魔法=
魔法を唱える際に以前に遭遇したことのあるプレイヤーのユーザー名を打ち込むことでそのプレイヤーが居る場所に光が導いてくれる、といった魔法である。
特定のプレイヤーを追跡するにはうってつけの魔法である。
その光が導く先は一つの洞窟。
少し盛り上がっているその地形からは数人が隠れることができそうな場所に見えた。
「ここか」
ギラは先頭プレイヤーの隣に立つ。
そして、魔法を唱えた。
【水:‘‘上位‘‘対象破壊魔法=
ガキンッ!と地面すらも貫通する氷がまるで氷山の一角のように地面から発生した。
その発生時間は地面から時間をかけて大地が動くようにゆっくりではなく、その場所に氷山の一角が瞬間移動でもしたのかと思うほど一瞬で、それでいて確実に地面を貫通していた。
発生とともに冷たい冷気が足元をかすめた。
ギラが洞窟の入り口に回って中を確認するとそこには四人のプレイヤーが居た。
そのうち二人は急に現れた氷に飲み込まれ、一人は片腕を飲み込まれ、一人はギラが来たことを確認すると震えだした。
それに加えて
「な、なんであんたがここにいんだよ?!」
驚愕の事実を知ったリーダー、ガンマは片腕を強引に氷から抜こうとしていた。
しかし、びくともしない。
「ここにいる理由としては、二つあるなァ」
ギラは獲物を見つけたハイエナのように眼を鋭くさせた。
だが、その裏にある獲物を見つけられたことに対する高揚感も見て取れた。
「まずは、お前を通報するためだァ、胸糞野郎」
ニヤリと笑うギラ。
なにか思い当たる節でもあるのか少し顔を青くするガンマ。
「てめぇの言動全てが気持ち悪ぃんだよ。自覚ねぇのかァ?だとしたら重症だなァ」
ギラが話している裏で何やらマルスに指示を出すガンマ。
「他プレイヤーへの恐喝行為、無理矢理痛覚無効をオフにするように指示を出す行為、その状態での暴力行為。これらはすべて規約違反だ」
ギラの言葉に耳を傾けながらも氷からの脱出を試み続けるガンマ。
すると次の瞬間ガンマがニヤリと笑ったと思ったその時、ザンッ!という腕を斬り下ろした音が洞窟内に響いた。
見ると、ガンマの氷に囚われていた右腕が後方に構えていたマルスによって切断されたようだ。
解放されたガンマは残った左手で剣を構える。
そしてその矛先はギラではなく、その隣にいたプレイヤーに向けられた。
攻撃量を一時的最大値まで上げた剣を投げつける。
その速さは一瞬。
だが、何も気にする様子を見せないギラ。
次の瞬間、一瞬で目の前まで来た剣にさらに速い速度で抜刀し、その剣を弾き飛ばした。
一人でも倒したいという思いがあったのか、その思いが絶たれると悔しそうに歯噛みした。
「俺よりも弱ぇ奴狙うとか、お前つくづくカスだなァ。尊敬に値するレベルだぜ」
ギラの言葉にガンマも口を開く。
「か、仮に、つ、痛覚無効を強要したとして、それは規約違反じゃねえだろ!」
必死に訴えるガンマ。
確かに規約にそのような記述はない。
だが、ギラは憐れむような、または呆れるような目でガンマを見ると口を開いた。
「倫理観、モラル云々の前にそういう思考してる時点でこのゲームは向いてねえよカス。人を痛みつけるゲームやりてえならfpsで軍人とでもやっとけ」
ギラは一度区切ると続けた。
「お前と会うのもこれで最後だと思うから言っておく。俺は運営とのコンタクトが取れる公式組織のトップだ。‘‘
ぐうの音も出ないガンマ。
追い打ちをかけるようにギラが続ける。
「そうそう、二つ目だ。それはな、当然のことだ」
ギラは剣を腰から抜く。
「
一閃。
スキルや魔法など使用していない。
だが、確実にガンマ及びその他三人を撃破した。
‘‘単純攻撃力‘‘。
レベルでここまでの差が生じるのだ。
自身の氷すらも粉砕する一撃は氷に綺麗な切り口を入れると、四人とともに静かに消えた。
一つ息を吐くギラ。
それを見た後方にいたメンバーが尋ねた。
「一人先程の組織のメンバーでないプレイヤーがいたようですが、このままでよかったのですか?」
ギラは剣を仕舞いながら答えた。
「十分だろ。俺らはアイツの障害を取り除いた。ここから先はアイツの道だ。好きにさせてやればいい」
「しかし、このまま放置して、現実世界でのいじめが激化しませんか?」
ギラは笑いながら
「それ以前に、いじめてた奴らが生きられればいいんだが」
ギラは教えを説くような口調で続けた。
「今回俺らがやったのは全世界に向けたいじめ摘発及び公開処刑だ。今就いてる職を奪われるかもなァ」
少し笑みを浮かべながら次なる獲物へと、悪魔は進む。
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