第52話 決戦前日 The day before
4月11日。
レベル20以上限定
この日第八区画一帯はメンテナンスのため立ち入りは出来なくなっていた。
その為、その周りの1、3、4、5、6区画にプレイヤーは集中していた。
明日の決勝戦をリアルタイムで見るため、そしてその決勝戦の裏で行われるとある企画のため、人々はなるべく近くの区画へと移動し、談笑をするのであった。
「誰が一位になるとおもう?」
ここは第四区画のとある屋外カフェ。
周囲にいる客もこの話で持ち切りだ。
先ほど述べた、とある ‘‘企画‘‘とは、決勝戦、どの
上位3位までを予想し、三組全て予想を的中させると、それに応じてLANKが獲得できる。
三組全てを的中させるととても高いLANKを得ることができるのだ。
この催しの良い点は、早期脱落者や参加できなかった、若しくは参加していないプレイヤーも参加し、勝ち上がったプレイヤーと同等の、若しくはそれ以上のLANKを手に入れられる可能性があることだ。
それもあってか、ここ数日で最もログイン数が多くなったとか。
さて、このカフェで質問を受けたプレイヤーは、目の前に予選及び本選の対戦記録が映し出された画面を目の前に表示していた。
さらにその横に表示したデュアルモニターには決勝進出者のリストが表示されていた。
それを吟味しながらゆっくり口を開けた。
「ヌルゲーだな」
それを聞いた質問したプレイヤーは聞き返す。
「というと?」
その表情は自分も同意見だと言わんばかりの表情だ。
「このリスト、
「判断しなくても一目瞭然じゃない?」
「……そうかも知れないな」
彼らは上位三組を全てAブロック決勝進出者で埋めた。
他の場所でも同じような会話が飛び交っていた。
「取り敢えず上から上位三組埋めればいいな」
「簡単だな。こんなので貰えていいのか?運営?」
「楽勝ゲット!」
それは、明らかなまでの単純レベルの差を考えたプレイヤーの意見だ。
ただ、そう考えるのが妥当かつ普通だ。
何故なら、このゲームはレベルですべてが決まり、それによってステータスが変動するからだ。
その事実は知らない人など居るはずもない。
一番身近な例でいうとこの大会だってそうだ。
レベルによって戦う土俵が違い、レベルが異なった。
だが、だからこそ彼らは浅はかなのだろう。
一つでも可能性があるのなら、そこで踏みとどまらなければならない。
最終決定を下すのはまだ早い。
「俺はAから一人落ちると思う」
ここはクロミナ四大公式組織の一つ、‘‘
第八区画にある本部が使用できないため、第六区画にある支部を組織メンバーは使用している。
その建物の最上階である四階、リーダーが生活するスペースでその話は行われていた。
外壁に面した奥側にリーダーが座る椅子と机があり、真ん中には一つの机と向かい合ったソファがあった。
ぱっと見た感じ応接室のように感じられるその部屋には四人のプレイヤーが居た。
リーダーが座るであろう一番奥の席には誰も座っておらず、机を間に挟んで二人ずつソファに座っていた。
Aブロック決勝進出者から脱落者が出ると予想した男の正面に座る男は言った。
「Aから落ちるって…、腐ってもあいつらだぞ?流石に上位三組はAブロック決勝進出者が定石じゃないか?」
それを聞いた腕を組んでいる男は口を開いた。
「
蟹谷と呼ばれる男は会話の続きを待った。
「僕は
ピンク色の髪をした性別が判らないプレイヤーは笑いながら言う。
「では、逆に誰が上がってくる?」
蟹谷はそこにいた全員に問いかけた。
それと同時に机の上に一枚の紙を置いた。
それは決勝進出者のリストだった。
全員確認済みなのか、手に取って見ることはしなかった
「どうだ?鎮ヶ崎?」
蟹谷は正面に座る男に聞いた。
「Aブロックから勝ち上がったのは…公式組織‘‘
「その中から落ちると言ったな?」
鎮ヶ崎の意見を聞く前に横から話しかけられる。
「あ!じゃあ鎮ヶ崎は僕と一緒の意見的な?」
ピンク髪のプレイヤーが聞く。
「
鎮ヶ崎は蝶島に尋ねる。
「んー。公式組織の‘‘黄虎‘‘が落ちる的な?」
「理由を聞かせてもらおうか」
蟹谷の質問の答えはすぐに返された。
「だって、不正してる的な感じだもん」
「「「マジか?!」」」
三人同時に蝶島に質問した。
「うそ」
その一言で座っていたソファから思わず立ち上がっていた三人はソファに倒れこむようにして落胆した。
玄武にも同じことが言えるが、公式組織が不正行為をした場合重い処置が施されるのだ。
それはかの昔、連帯責任を負わせるために実施した「五人組」制度のように一人でも禁忌を犯したらその組織全体に影響するといったものだ。
まぁそれは禁忌を犯さないようにするために互いに見張りあうといった意味合いも含まれていたそうだが。
つまり、公式組織とはそれほど運営から信用されたプレイヤーが任命されるものであり、不正行為とはかけ離れた存在でなければならないのだ。
その公式組織が不正しているとなれば同じ公式組織としても危険視されかねない状況になる可能性も捨てきれない。
それほどまでに重要な事をジョークとして扱ってもいいものか。
憤りは覚えたが、いつものことだ、と開き直ってしまうのがオチだ。
「ったく…それはお前が嫌いなだけだろ?」
「それは
蝶島は思い出したかのように今の話の根拠を提示する。
「この前もギラさんが『くそ野郎だ』って言ってましたし。みんなそう思ってる的な?」
「ギラは誰に対したってくそ野郎って言うだろ」
桐野はため息をつきながら腕を組んだ。
「あー、わかる。まぁあいつは治安維持の最前線に立っている存在だからな…。くそ野郎が多いんだろう」
同情するかのように蟹谷が話す。
「脱線してる。俺の意見を言わせてくれ」
話を元に戻すために鎮ヶ崎が渋々口を開く。
だが、その言葉に聞く耳を持たずに蝶島は話す。
「ってか、なんで僕ら大会出なかったんすかね。十分戦えた的に思うんすけど」
「仕方ないだろ。リーダーが不在なんだから」
桐野は誰にも座られず、寂しそうにしているリーダーの椅子を見た。
蝶島と桐野が面と向かって話を進めるため、発言権を得られない鎮ヶ崎のイライラが募る。
その様子に気づいたのか、気づかずに言ったのかは判らないが、蝶島が鎮ヶ崎の話題を振る。
「それに、即戦力の鎮ヶ崎が戦えないんだから。そもそも無理的な?」
即座に反発するかのように鎮ヶ崎が言う。
「戦えるわ!」
「一撃だけね。全く、面倒くさいよな、お前の
頭を抱える鎮ヶ崎。
「それに、
「?」
鎮ヶ崎は体が固まった。
そして蟹谷が言ったことに言及しようとしたが、
「その話は面倒くさくなるからやめろ」
桐野も流石に痺れを切らしたような口調になる。
「話が脱線しすぎだ」
桐野が話を元ある場所へと戻した。
「Bブロックからの勝ち上がりはどうだ?」
鎮ヶ崎が答える。
「微妙だ。唯一考えられる勝機は
「結局Bブロックの人達の裏アカウントは何だったんだっけ?逃げアカ的な奴だっけ?」
「…そうだな。全員がその場しのぎのために作った‘‘保険アカ‘‘だった」
「じゃあAブロックの勝ち上がりには勝機は無いか。単純レベルの差でやられるか」
「じゃあCブロックは?」
蝶島が鎮ヶ崎に聞く。
「Cも同じだ。全員が保険アカでその全員が倒れている」
「じゃあ意味なしか」
「Dはどうだ?鎮ヶ崎?」
蟹谷が聞く。
「ここからが一番難しいところだ。何故ならDブロック出場者はアカウント共有を使用していないからだ。…だが、考えられるのはここだ」
そう言いながら鎮ヶ崎はDブロックのリストを指さす。
「なんで?なんで?Eブロックの可能性もあるんじゃない的な?」
「それにしては拮抗していたんだ。時間も一番かかっていたしな」
「なるほど、高レベルプレイヤーが混ざっていたらもっと早く終わった、と?」
「申し訳ないがそういうことだ」
「では、Dか」
桐野も考える。
「
「まぁ、全員アカ共有できると思っていたほうがいい的な?」
「それはそうだが…」
鎮ヶ崎には一つ気がかりなことがあった。
Dブロック本選の最後。
あの空に駆けたあの一筋の斬撃は?
鎮ヶ崎は情報通である。
ある事件、ある出来事が起きた時。
彼は当時の記録映像を漁るのが趣味となっているほどである。
だからこそその知識や観察眼があるためにこうやってメンバーから情報提供をお願いされるのだ。
そんな彼はその斬撃にどこかデジャヴを覚えてならなかった。
(あれは、そう。割と最近の…ことだった気がする…)
そして鎮ヶ崎は自分自身で一つの結論を導き出した。
「今回の予想は俺の意見に従ってくれないか?」
するとそこにいたメンバーは何をいまさらと言うように承諾した。
「で?誰なんだ?結局Aブロックか?」
「これはあくまで予想だが、」
鎮ヶ崎の下に視線が集中する。
「上位に食い込んでくるのは、Dブロック…無記名
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