第54話 決勝戦② Final game=2
また残り人数が減った。
カイトは表示を見ながら眉をひそめた。
これほど簡単に、短期間に倒れていっているということは高レベルプレイヤーによる低レベルプレイヤーの撃破が考えられる。
同じくらいのレベル同士であった場合、決着には多少の時間がかかると思うからだ。
依然として周囲は砂嵐。
視界が悪い。
先程この状態なら煙幕などの身を隠して戦うスタイルをしなくてもいい、などと考えていたが、よく考えると観客が如何なる状況であっても出場選手の動向を確認できないのは仕様的にあり得ないだろうと考え改めていた。
観客に見られているのならいっそのことこの砂嵐を誰か払ってくれないものか。
この砂嵐に価値がない。
自分の足が遅くなっているだけだ。
まぁ運営的にはそれが狙いなのだが。
この砂嵐という自然現象。
目を開けていると目の中に砂が侵入してきて視力を奪われ特定の目薬を使用しないと治らないなどといったプレイヤーの行動を大きく制限するようなそんな影響を及ぼすものではない。
影響といえば影響だが微弱なものだ。
ただ暴風による移動速度の低下と、ちょっと先が見えないだけである。
目の前が真っ暗になっているわけではない。
カイトの周囲3メートルの範囲ははっきりと見えている。
半径3メートルの竜巻の渦の中、と言えば早いだろうか。
時折驚くことと言えばプレイヤーかと思い、よく見たら枯れ果てた木の幹だったことくらいだ。
先もわからないカイトは何やら気配を感じた。
前方から誰かが走ってくる。
砂嵐が奏でる轟音の先に何かが聞こえる。
それからすぐ。
目の前の砂風の壁から人影が出てきた。
その人影は下を向いて手をぶんぶんと振って走ってくる。
その姿からは必死さが伝わった。
(ま、前を見ろよ!)
カイトもカイトで前から突進してくる闘牛に対応できなかった。
ドスッ!
カイトの腹部から鈍い音がした。
もちろん痛覚無効をオンにしているため痛みは感じなかった。
だが、そのフルスロットル頭突きはダメージが5000入った。
ズサササ…と後方に飛ばされるカイト。
目を回しているその少女は目をぱっちりと開けると頭にはてなマークを浮かべた。
(5000ダメージ?!)
カイトは言葉を失っていた。
(もともとのアカウントだったら、死んでたぞ?頭突きだけでこれだけのダメージを与えられるとなると…)
しかし言葉を失っているのはカイトだけではなかった。
(おかしいな…適当に走ってたら誰かに当たって倒れると思ったのに。アカウント共有?いや、そんなエフェクトなかった。となると…)
二人の思考は一瞬同じになった。
((この人、何者だ?))
カイトははっと気づいた。
どこかで見たあのルックス。
小顔童顔は今のところ一人にしか会っていない。
カイトは確信を付けた。
(現最強プレイヤー…確か名前はリン…)
カイトは立ち上がると考えた。
目の前に正座する最強を見て。
すると突然リンが口を開いた。
「あの…もしかして…」
突然話しかけられたことにカイトは驚く。
それはとてもおとなしい声だった。
「強いですか?」
「?!」
カイトは思わず吹き出した。
リンは続ける。
「だいたいのプレイヤーさんはわたしを見たら大声を上げて逃げていくから…」
「…」
カイトは沈黙の一点張りだ。
「そうしないってことは、わたしをおそれていないってこと…」
それを聞いたカイトは急に後ろの方向へと走り出した。
「あ、待ってください!!」
リンもすかさず後ろを追う。
そしてリンは気づく。
「あー!やっぱり速い!S値ぜったいわたしより上ですよね?!」
カイトはその場を離れることだけを考えていた。
だが、相手もなかなかしぶとい。
声が割とクリアに聞こえてくるものだから無視もできない。
「レベルは?!レベルを教えてください!」
「251レベル!!」
「うそ!!だったらさっきのでたおれてる!!」
二人の間の縮まらない追いかけっこは続く。
「もしかしたら…」
リンは独り言のように少しトーンを落として微笑みながら言った。
そして立ち止まり大きな声でカイトに呼び掛けた。
「そのまま逃げてもいいです!でも、わたしよりもレベルが高かったら、私の代わりに公式組織のリーダーになってください!!!」
カイトはその声を聴いて思わず立ち止まる。
そして後ろを振り向く。
そこには笑った少女がこちらを見て立っていた。
カイトは言われたことを考えていた。
(公式組織のリーダー?)
しかし、その少女とカイトの間にできた砂風の壁によって少女の顔色を疑うことができないまま、カイトの目の前から少女は消えた。
カイトは少し棒立ちになった後また走り出した。
*
砂嵐の中。
一人の男が立つ前には四人のプレイヤーが束になっていた。
一人の自信ありげに仁王立ちしたプレイヤーの右手には何やら黒い
目と口はにっこりと笑い、前分けした茶色の髪の毛はサラサラで、風によってなびいていた。
高身長スマートなその体にはスーツ型の防具がよく合っていた。
そのプレイヤーの正面には三人の男を先頭に立たせ、中央の一人を守っているような陣形を取っていた。
高身長スマートプレイヤーの名は『藤原義武』という。
レベル824のBグループ決勝進出者である。
それに対するは公式組織‘‘黄虎‘‘である。
言わずとも知れた四大公式
三人のプレイヤーに囲まれたのは公式組織のリーダーである『暗黒』というプレイヤーである。
公式組織は高レベルプレイヤーの集まり。
その公式組織が何やら劣勢に見えた。
「今回は天が僕に見方をしてくれたみたいですね。」
義武はにっこりと笑う。
それに対して暗黒が口を開く。
「ふざけやがって…今すぐぶち殺してやる!」
忌々しいものを見る目で義武を見る暗黒。
だが。
「あらら。公式の組織様がそんな言葉をお使いになってもいいのですか?」
「黙れ」
「おー、怖い」
義武は表情を変えずに答える。
「でも。果たして黙るのはどちらでしょうか?」
義武が右手に持った
するとその物質は形状を変化させ、次の瞬間鋭利な刃となった。
暗黒の盾となるように立っていた三人のプレイヤーは防御魔法を唱える。
だが、その魔法障壁を難なく突破し、三人のプレイヤーの体に直撃する。
横一文字の切り口が前方三人の腹部に通ったとともに三人は倒れた。
暗黒は悔しそうな表情は見せなかった。
ただ敵の魔法が気になっていたようだ。
「なんだ…?その魔法は!?」
すると義武は簡単なことですよ、と言うと説明した。
「僕の魔法系統は黄色です。もうわかりますよね?この空間で電気を発生させるだけでいい。この周囲一帯の砂の中に含まれた砂鉄が全て僕の武器となります」
「…」
暗黒は口を閉じたままだった。
「先程の魔法障壁を破ったのもそうですね。いくら防御を固めても光の速さには敵いません。例え手に持っていた砂鉄が払われたとしてもあなた方の周囲に回る砂鉄が補ってくれます」
そして最後にこう付け加えた。
「この空間においては、僕が最強です」
暗黒は何もしゃべらなかった。
もう負けることが確定したから。
もう勝つ術がないから。
もう自分を守る‘‘盾‘‘が居ないから。
違う。
「ここで負けたらさぞ公式組織の地位は下がりますね」
彼は脳を回した。
「あ、もう手遅れですか」
余計なことを考えないように。
そして、自分のために信じて、死んでいった仲間たちのために、勝つために。
それだけではない。
大いなる、‘‘目的‘‘のために。
「終わりにしましょう」
義武は淡々と言った。
義武の雷撃が暗黒の下に突き刺さった。
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