第55話 決勝戦③ Final game=3

に先に会えるかと思っていたが、何とか先に会えたな」


 カイトの目の前にはギラ及び五人の精鋭が立っていた。

 カイトはギラたちの様子を疑うかの様に動かず立っていた。

 するとギラはカイトの様子を見て驚いた様子で言った。


「お前…逃げ出さねぇのか…」


 ニヤリと笑ったその口からは尖った歯が見えた。

 どこか嬉しそうな様子を見せるギラ。

 だが、確実にカイトを倒すためにメンバーに耳打ちしているのがわかる。

 どんな策を練ってくるのだろうか。

 カイトは内心ワクワクしながら相手が動くのを待っていた。


 すると、動き出した。

 前方から一人のプレイヤーが長剣を握りしめて突撃してきた。

 大振り。

 上から下に振られたその刃をカイトは難なく避ける。

 続けて横、斜め、下、叩きつけなど多種多様な剣で攻撃してくるが全くカイトには当たらない。


「どうなってやがる?」


 ギラは目の前で起こっていることについて考えた。

 今最前線へ送ったのはこの組織一二を争う剣の使いだ。

 となると、相手は何かを現実世界で習っているのか?

 ギラは考えた末もう一人の剣士を送った。


 これならいける。


 いくら何かの会得者であったとしても二対一はきついだろう。

 誰もがそう思った。

 しかし。

 二本の剣が空を切る音が延々と鳴り響く。


 これは、どういうことだ?

 ギラが怪訝そうな視線を送っていたその時。



 ドスッ!!



 横から飛んできた攻撃で前線でカイトと戦っていた剣士がなぎ倒される。

 攻撃と呼んでいいのかはわからない。

 それは全力で助走のつけ、誰かにぶつかることでやっとダメージが入る。


「リ…リン!」


 ギラは目を大きく見開く。

 一人の味方剣士が飛ばされたことで攻撃を一時的に止めるもう一人の剣士。

 その一瞬を見てカイトは後方に下がり、距離を取る。

 一つの場所に集結した三組織。

 全員がほぼ等間隔に距離を取っていた。

 するとギラがリンに声をかける。


「リン、邪魔すんじゃねぇ。お前は後だ。今は失せろ」

「それはできません。わたしも用事がありますから」


 きっぱり断るリン。

 双方はバチッ、と火花を散らす。

 そのあとリンはカイトのいる方向を見てニコッと笑った。

 カイトは逃げようかな、と思っていたりした。

 だが、できるのなら今剣を抜きたい。

 せっかく役者が揃っているのだから。


「まぁいい。どうせならここでやっちまうか。おい。かける


 ギラに呼ばれたのは先程からずっとカイトに剣を振っている男だった。

 はい、と一つ返事をすると再び剣を構えた。

 そしてまたカイト目掛けて走り出した。

 因みに先程リンに横腹に不意打ちを食らったプレイヤーは後方にいったん下がり、回復しているようだった。


「待って。わたしが用事あるの」


 リンがそう言うと走ってカイトの下へ向かおうとしている翔の前に炎のラインを引いた。


(魔法か?)


 カイトは考えた。

 あれは確実に赤色系統の炎魔法だ。

 自ら曝け出したのは既にトッププレイヤーとして情報が認知されていると思っているからだろう。

 知らないほうがおかしい、そういう次元なのだろう。

 炎の魔法でカイトとギラたちの線引きをしたリンはその中間で胸を張っていた。


 だが。

「翔、進め」

 ギラが手を前に差し出すと同時に一度後方に下がっていた翔が再び走り出す。

 そしてギラの手から発せられた魔法により、炎は消された。

 鎮火まではいかなかった。

 ギラが作り出した氷によって完全には消せないと思ったのか、炎に覆いかぶせるように氷を生成したのだ。


「悪いが、こっちは以前の戦いから学んでるんでな」


 ギラがニヤリと笑う。

 リンはぶー、と頬を膨らませる。


 ガキンッ!


 ついにカイトの剣と翔の剣がぶつかった。

 リンも観念したのか、ギラの言うことを素直に聞き入れたのか、観察したいのかはわからないが、静かにカイトたちの方を見ていた。


 その間、ギラは考えた。

 レベルは250くらい。

 そんなプレイヤーがここまで戦えるか?

 アカウント共有をした?

 まさか。

 だとしたらなんで裏垢のほうが本アカよりも強くしてるんだ?

 そんなバカみたいなことをするはずがない…。

 ギラはついに一つの結論にたどり着いた。


「奴は素早さ極振りプレイヤーだ!」


 翔及び他のプレイヤーは、はっと気づかされる。


「S値全振り?!」


 リンは納得のいっていない顔で静かに見守っていた。

 魔法攻撃が飛んでくる。

 その攻撃もすべて見切る。

 リンは何を思ったのか、魔法による細かい炎のレーザービームを指先から放った。

 一瞬だったが、それも避けられる。


(あの攻撃、この世界では誰にも避けられたことなかったのに…)


 それはもちろん今まで出会ったS値全振りのプレイヤーにもだ。


(やっぱり、何かが違う)

 リンは確信した。

 今までの自分の経験と照らし合わせて。


 カイトは一連の会話や攻撃パターンを観察していた。

 これほどまでメンバーを動かせるのか。

 カイトはギラに関心していた。


 メンバーの力を最大限に生かすことはメンバーの能力を全て把握しているということだ。

 だから規則的に、また変則的に繰り出される攻撃に多少翻弄された。

 遠距離からの魔法攻撃と計算された待機時間とその穴埋め。

 全てが計画性に富んでいて、尚且つメンバー全員の力が最大限に発揮されている。

 この組織になら負けても良いかな、そんな感情すらも抱かされてしまった。

 だが、その前に相手の攻撃が止んだ。

 荒い息を吐きながら肩で呼吸をする剣士。

 それとは真逆にカイトの呼吸は一つも乱れてはいなかった。

 それもそのはず。

 カイトはただ相手の攻撃を弾くだけ。

 普通の人から見れば剣を互いに本気でぶつけ合っているように感じるかもしれないが、それは違う。

 上級プレイヤーの、しかもこの場にいる上級プレイヤーであるリンとギラには分かっていた。

 完全に見切られている、と。


 ちょうどいい。


 カイトはそう思うと、勝手ながらこの世界最高峰の場所で試させてもらうことにした。

 すると、ちょうどその時。

 まるでカイトからあふれ出る力が周りの砂嵐を打ち消しているかのように、カイトの周りから砂嵐が消えていく。

 だが、そのような現象はどこでも同じ。

 特定の条件下になったため、砂嵐が消えるようになっていたのか。

 判らないが、兎に角周囲の邪魔な環境はなくなった。

 急激な環境の変化に驚く一同。


 カイトは左手に煙幕弾を持った。


 ギラは無言で何かをしようとする攻撃を全部避ける謎のプレイヤーに警戒心を覚えたのか、一瞬顔を青くすると、

「お前ら!伏せ…」

 何かを叫ぼうとしたが遅かった。


 カイトが地面に煙幕弾を投げつけると、目の前が真っ暗になった。

 だが、カイトは目星は付けていた。

 カイトは剣を取り出す。

 その剣の名は『魔滅剣シャイリアル』。

 世界最高レベルの大剣でありながら、その剣は闇の中でしか輝けない。

 カイトは静かに抜刀した。



 ーーーーーーーーーーーーーキィンーーーーーーーーーーーーー



 音が無くなった。

 砂嵐が唸る音も。

 プレイヤーが振った剣の音も。

 ギラの周りにいた、五人の鼓動の音も。

 暗闇の中。

 ドサッと倒れる五つの音とガラスが割れるような音とともにこの戦場から消えた姿を確認すると、先程立っていた抜刀した場所へと帰った。

 何事もなかったかのように、剣は戻して。

 ギラとリンによって煙幕が消された。

 どのようにやったのかは判らなかったが、上級者の場の切り抜け方があったのだろう。


 ギラは一人になった。

 それを見て思わずギラは笑った。

 口だけを曲げ、赤い目は鋭くカイトを指していた。

 リンも薄く笑いながら肩で息をしていた。

 この場にいるものはわかっただろう。

 この場にいるものにしかわからなかっただろう。


 リンとギラは確信した。

 カイトが攻撃をした、と。


 一瞬にして五人もの上級プレイヤーを消したカイトの一撃。

 本来ならばここで全員気づかれぬ前に倒した後に自分も倒れようと思っていたのだが。

 流石に一撃ではくたばってくれなかったようだ。


 カイト、リン、ギラ。

 本当の現環境最強プレイヤーがここに集結した。

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