第56話 決勝戦④ Final game=4

 カイトvsリンvsギラ。

 三つの勢力がついに出揃った。


 そんな中、一人の男が考えを巡らしていた。

 ギラである。

 意味不明に味方の攻撃を全てかわされ、意味不明な一撃で仲間を全員失った。

 これはまずいことになった。

 ギラはこの決勝戦に臨むにあたってほぼ万全の態勢を整えていた。

 全てはリンを倒し、一位に君臨するため。

 その為に戦略を練っては崩し、練っては崩しを繰り返しついにはAブロック決勝進出者でフルメンバーでの出場という快挙を成し遂げた。

 戦力差、と言われたとしても構わない。

 全てはその先の栄光のために。

 いや、彼には栄光なんていらなかった。

 誰にも話したことのない、彼自身の‘‘ケジメ‘‘の為に。

 そんな中、彼をどん底に叩き落したのはあの一撃だ。

 これでほぼリンへの勝機は無くなった。

 ふっ、とギラは笑った。


(何弱気になってんだ?俺は。そんなんじゃなかっただろ)


 ギラは一度空を見上げた。

 そして目をつむると今までの物語が一枚一枚写真のように映し出されるのだ。


(俺が負けるわけねぇ。なぁ、メイ)


 必死になったって構わない。

 全ては…。



 *



 時は少し遡り、義武vs暗黒。

 義武の一方的な攻撃から抜け出すために暗黒は金属のランスを取り出した。

 これで義武の繰り出す雷撃攻撃を避雷針にしてよけようと考えたのだ。

 その効果はかなり大きく、近接戦に持ち込むことができ、義武に微小ながらダメージを負わせることにも成功していた。


「流石は一組織のリーダー、といったところでしょうか。多彩な攻撃パターン、臨機応変に対応するスタイル。お見事です」


 頬に傷を負いながら義武は淡々と言う。


「しかし、まだ届きませんね…」


 それは火を見るよりも明らかであった。

 義武の傷の何倍もの傷を暗黒は追っていたのである。

 それは紙の先で切ったような小さな掠り傷のようなものから、大きくえぐり取られたようなものまで存在した。

 普段なら回復役が回復魔法でも打ってくれるのだろう。

 だが、暗黒に仲間はもういない。

 それは義武も同じなのだが。


 暗黒は一つの可能性を信じていた。

 逆にそれでしか相手は倒せない。


 その方法はこの世界に二人しか使用する者のいない特殊な魔法。

 声に出して詠唱する事で普通の魔法よりも大きな力の魔法を放つことができるという魔法。

 その名も『詠唱魔法』。

 この魔法のからくりは『詠唱』というこの世界におけるシステムコードを入力することで世界に多大なる影響を与えることを可能とする魔法のこと。


 簡単に言うならば‘‘上位を超える魔法‘‘。

 少し誇張して言うと‘‘チートコード‘‘。


 弱点としては放つまでかなりの時間が必要であるということ。

 それに一語一句間違えない集中力と記憶力が必要となる。

 暗黒は一語一句覚えていると自負していた。

 忘れるはずなどなかった。


 だが、間違えないかどうかはわからず、その上相手には隙がない。

 しかし、やるしかない。

 ここでその魔法を打たなければ、情けないが勝機は生まれない。

 暗黒はふと自分が今まで歩んできた道を思い出した。

 そしてふっ、と笑うのだった。


(何弱気になってんだ、俺…)


 暗黒は空を一度見上げた。

 砂の竜巻の中でも上は吹き抜けになっていて、決勝戦にふさわしい曇り空だった。


(俺が、負けるわけない。そうだろ?メイ)


 目の前から来る義武を睨むと周囲の人から見たら唖然としている人もいるかもしれない、ニッコリと笑ったのだ。

 義武はなにか底知れぬ恐怖を感じ取り思わず怯む。

 彼自身も、自分が笑っていることに驚いた。

 あの日から笑えなくなっていたのに。

 あの日から自分はいなくなったのに。

 どこか、昔の嫌いな自分に戻った気がしたが、今は奥歯を噛んで我慢する。



 ー*-



 これからお話しする話は彼らの話。

 四年前に彼らがこの世界で失った、掛け替えのない物語。

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