第5話 入学式 In the Biginning
4月6日、遂にこの日がやってきた。
新たな生活を前に少し不安になる戒斗はいい人に巡り会えますようにと、神頼みをしていた。
家から数分のところに位置する高校は立地条件としては悪くなかった。
でも戒斗の心の状態は悪かった。
リアルの友達は持っての他、SNSの知り合いすらもいない地に放り込まれるのだ。
(友達出来るかな…)
昨日の夜はそのことを考え詰めた結果、ゲーム等する気も起きず、その上あまり眠れなかった。
校門をくぐり、入学式を終えるとすぐさまクラス内で一人一人の自己紹介が始まる。
戒斗は酷く恐怖心を覚えた。
何年振りかに味わうこの異様なまでの緊張感。
戒斗の掌には汗がにじみ出ていた。
それよりも気になるのは今日からクラスメイトとなる人たちがある言葉を口裏合わせて言っているのだ。
「私のクロミナのレベルは43です…まだまだ初心者だけど仲良くしてください!」
とか、
「俺はあまり放置できてなくてレベル上がってないけどレベル100超えです!」
とか。
(またか)
戒斗の首は斜め45°で固定されていた。
(クロミナはわかるけど……放置?)
なんだそれ、と戒斗は無知な自分に更に恐怖心を覚えた。
次は何やらイケメンオーラを放つ金髪イケメンくんが登場した。
既に女子からは黄色い歓声が上がっていた。
「
(また出たよ新しい単語。魔王軍だ?)
普通はこういう奴は意味わかんねーこと言ってる奴いるよと避けられるものだと戒斗は思っていたのだが、満場一致の大拍手だった。
(マジで?
先生はこの状況をどんな顔で見てんの?!)
だが、その中でもさらに一風変わった奴もいた。
戒斗の隣の席から立ち上がった前髪が伸び、肩まで髪がかかったいかにも根暗な女子。
前髪が伸びすぎていてもういっそのこと目が見えないんじゃないか?と思うほど前髪が長かった。
「
終始何を言っているのか戒斗にはさっぱりだった。
(あの女子はダメかな)
戒斗は早速お友達作りに失敗した印象を受けた。
周りの反応から判断した戒斗は俯き加減で隣の席に帰ってくる隣人に目線を送った。
次は戒斗の番だった。
(普通に、いたって普通に)
それを心がけて立ち上がった。
「き、木下 戒斗です。全員初対面ですがよろしくお願いします」
ちょっと言葉数が少なかったかもしれないと反省したが今更何を考えても仕方ない。
でも周りの反応が薄かった。
(なんだこの学校)
全員の自己紹介が終わり、一旦休み時間になる。
先ほどの楓とかいう奴の周りには男女両方の人だかりができていた。
(うわ、すげえな)
戒斗は目の前でグループが形成されるのを見た。
(まぁその楓ってやつも顔も良くて笑顔を絶やさない系男子だからさぞモテるんでしょうねー)
友達を作りたい戒斗は楓の動向を見ながら誰に声をかけようかとそわそわしていた。
するとなんと戒斗の前に楓がやって来た。
「えーっと、木下君……だったかな?よろしく。僕の名前は楓、気軽に楓と読んでくれ。君もクロミナをやっているかい?」
戒斗はとっさに返していた。
「えーっと……昨日入れたばっかりで……あんまりわからないんだよね……」
はは……と苦笑いを浮かべながら発言する戒斗を見てその男は興味を失くしたかのようにふーん、と言うと静かに去っていった。
(え?!なんか俺変なこと言ったか?)
だが、見た感じによると現段階では楓とやらが今のこの教室の身分カーストは1位なのは明白だった。
目の前で友達を作るチャンスを一瞬にして失った戒斗は机に顔を当てた。
自分だけの暗い空間で戒斗は考えた。
(なんで俺は興味を失われるようなことになった?!)
考えた結果、戒斗はまずクロミナというものを知らなければ生きていけないことを理解した。
戒斗は高校というのはもっと勉強勉強な感じで自己紹介も好きな教科は〜とか、嫌いな教科は〜とかだと思っていた。
時代の流れってやつだろうか。
しかしそのビックウェーブに乗ることはもちろん、存在すら知らなかった戒斗にはどうすることもできなかった。
*
今日の日程は入学式だけだったため、午前中で学校は終わった。
戒斗が帰ろうと身支度をしていると、現段階身分カースト1位の楓が教壇に立った。
「みんな、これからクロミナでみんなと繋がろうと思う。残ってくれないか?」
らしい。
要するに、SNSアプリ(=クロミナ)でクラスメイトの連絡先を追加したいというご意向らしい。
「さんせーい!」
女子からも声があがる。
戒斗はクラスメイト全員と同じ流れに身を投じた。
誰しもSNS上に友達の1人や2人くらい欲しいものだ。
……流れ的に現実でも友達になってくれる人を探せるかも。
戒斗は密かに自分の野望を考えていた。
俺はクロミナというものを少し理解した。
クロミナが高校の自己紹介に入るのもわからないでもない気がした。
このSNSアプリ(クロミナ)が高校生活にとって必要なものだからだ。
戒斗は昨日し忘れていたクロミナへのログインを実行した。
contactの意味は昨日知った。
この場合は手元にVRHSがないから、[contactせずにプレイする]だ。
そして初めの画面で指紋登録とログインIDの登録をした。
データの保護及び転売を失くすための取り組みらしい。
そして新たにアカウントを作成し、ログインが完了すると、ユーザーネームを入力する画面に切り替わった。
戒斗は一瞬考えた後、「カイト」にした。
しかし、その名前はすでに使われているようでその名前ではログインできなかった。
仕方なく「カイト2026」で通った。
するといきなり隣から声をかけられた。
「あなた……カイトっていう名前なんですね……」
急に声をかけられたものだからとても驚いた。
隣を見るとそこにはいきなり自己紹介で厨二発言をしたと思われる黒川 里奈がいた。
「う、うん、そうだけど…?」
戒斗が普通に返すと黒川はニヤリと笑って俺の耳元でヒソヒソと話しだした。
「実は、ここだけの話、私の父がクロミナのゲーム会社の管理人なんですよね。そこで私は父に"聖剣"を持っている人は誰なんだという話をしたんです。そして調べてもらった持っている人の名前は"カイト"だったんですよ……結構粘って聞いたんですよ」
ふふふ、と笑う彼女を見て戒斗は終始意味不明、その言葉に限った。
そもそも"聖剣"って何?
しかし、戒斗はクロミナの事をこれ以上知らないと思われたくなかったため話を繋げた。
「そうなんだ。でも俺始めたばっかでわかんない事だらけで」
そういうと黒川はそうなんですね、と言い鞄を持って去っていった。
あれ、あの人この教室のクロミナグループに参加しなくていいのか?
戒斗はそう疑問に思ったが、気にしないことにした。
その後すぐに楓率いるグループができた。
戒斗もグループには入ることができた。
だが、話や素振りを見ているうちにクロミナのレベル=
それに加え、友達と呼べる友達も一人もできなかった。
戒斗は心の中でずっと予想外だと、こんなはずじゃなかったとぼやいていた。
帰り際に今日の18時からクロミナの中で遊ぶことになった。
もちろん黒川を除くクラス全員で、である。
まぁ何はともあれ戒斗はグループに入ることはできた。
ここから繋がりが広がって行けたらいいとかんがえていた。
しかし、それは単なる幻想だった。
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