第117話 覚悟 Determination

 カイトがアルフレッドを倒したことでデメルギアスとのレベル差はほぼ無くなった。


 逆に言えばデメルギアスがアルフレッドを倒していればレベル差が大きく開き、戦いを有利に進められたはずだ。


 にもかかわらずカイトにアルフレッドを討たせた真意はデメルギアスの持つ自戒の念からだった。


 デメルギアスは運営が用意し、敵が自分に対して使用した違法弾丸を模倣して使った。


 そこには一種の正当性はあるように感じるが、平等や公平性を重視するデメルギアスの心情を傷つけていた。


 その戒めの意味もあり、最後の弾丸はアルフレッドを対象からわざと外していた。

 だが、それも全て結果論だ。


 この筋書きはデメルギアスが違法弾丸を外殻に打ち込まれ、その弾丸の特性を理解してから考案したものだ。


 仮にカイトの拘束が破られないことが分かったのなら問答無用でアルフレッドを対象にしていただろう。


 カイトの剣はほぼ確実に一撃で相手を必殺する。


 今現在は収まっているが脳波とリンクしたステータス上昇効果。


 その効果は一度の脳波指数の変動でマックス値カンストまで効力を高めていた。


 加えて彼の持つ帝。



ミカドNO.005  必殺帝 』

 特殊効果バフ 【吸収上昇】 プレイヤーが受けるデバフ効果、ダメージを全て攻撃力に加算する

 特殊技スキル 【一撃必殺】 対象の体力等を無視して必ず戦闘不能にする(自身は一定時間攻撃ができなくなる)



 この全貌がネメシスとの修行中に明らかになっていた。


 この帝はカイトを監視するために外部の者が作成した隠れ蓑だった。


 スキルは既に一度使用してしまっているため、二度と使用することはできないがバフは永続的に力になっているとのこと。


 つまりはカイトが他のプレイヤーから受けたデバフやダメージは全て攻撃力に加算され、攻撃されればされるほど強くなり、窮地に追いやられるほど彼の真価は発揮される。


 どこの誰が必殺帝なる帝を付与したのかはわからないが、それはカイトが知らなくてもいい事だろう。


 あくまで運営の、神のみぞ知る事柄である。


 カイトの剣に触れてはいけないことはデメルギアスは理解していた。


 アルフレッドにはほとんどダメージを与えていなかった。


 にもかかわらず一撃で葬り去った。


 それほどまでカイトの剣の攻撃力は高まってることが分かる。


 アルフレッドはあれでもこの世界に最も長く存在して居たプレイヤーだ。


 体力値の占める割合も多かったに違いない。


 もしかしたらデメルギアスの体力値よりも多かったかもしれない。


 防御が遅れていたため、ほぼノーガードで攻撃を受けたことは間違いないが、それでもデメルギアスの持つ体力値を一撃で削るほど高い攻撃力を有していることは想像に難しくない。


 対するデメルギアスの外殻。


 カイトにとってはそれが一番の難所だろうと踏んでいた。


 あの外殻を壊さないかぎり本体に攻撃できないことは分かっているが、厄介なのが模倣だ。


 彼の持つ外殻に触れた攻撃は分析・解析され、模倣される。


 それは弾丸だけではない。


 斬撃をも模倣する。


 弾丸の特性を模倣できるため、斬撃に与えられている特性も模倣の対象である。


 つまりはカイトがデメルギアスの外殻に攻撃を与えた場合、即座にネメシスの剣、衝撃波が模倣される。


 そうなればデメルギアスに優位性が働く。


 カイトが考えられる外殻へのアプローチは一つしかない。


 一撃で外殻を破壊することだ。


 だが、彼には多くの武器がある。


 一つは、外殻バリア


 一つは、模倣コピー


 一つは、弾丸バレット・レイン


 一つは、ソード・ストーム


 一つは、階級無視ヒエラルキー・ブレイク


 これらすべての障害を潜り抜けた先にしか勝利はあり得ない。


 弾丸の雨を避け、幾千の刃を見切り、模倣された数多の弾丸を超えた先にようやく外殻に当たる。


 外殻は一撃で壊す、その為にはマックス値の攻撃力を当てなければならない。


(そんなことできるのか……)


 カイトは冷静に考える。


 圧倒的に駒の数はカイトの方が不利だった。


「……」


 ふと背中に意識を向ける。


 金色に輝く「勝利の翼」が。


 移動速度は上昇しているようだが、未だに使い方がよくわからない。


 かつてこの翼を手にしたのはネメシスだけ。


 ネメシスはこの翼についてカイトに何も助言はしなかった。


(この翼に意味はないのか?)


 カイトは考えたが答えは出ない。


 実際に使っていくうちに何か分かるのか。


 それでは遅い。


 勝負は一瞬一秒で決まる。


 こんな博打のような戦法が通じるような相手ではない。


 少しでも期待してしまう自分がいるのならその期待は払拭する必要がある。


 


「なっ、なにしてんだァ?!敗北宣言か!?」


 デメルギアスはカイトが何を考えているか分からなかった。


 少しでもバフが付与されるのなら付けておいて損はないじゃないか。


 誰もがそう思った。


 だが、カイトは違った。


 何かが起こるかもしれない、その淡い期待が身を滅ぼしかねないことを彼は知っていた。


 絶対的な勝利しか、彼の目には無かった。


 それはネメシスも同じだった。


 削ぎ落された右翼は粒子となり、カイトの身体を巡った。


 そして与えられる、勝利の翼と呼ばれる所以である力が。



 特殊技スキル 【勝利の翼 180秒間致死量のダメージを受けても体力値の変動は起こらない】



 勝利の翼。


 授かった者に必ず勝利を与えるモノ。


 だが、それを使いこなせたのは歴代で見てもただ二人。


 ネメシスとカイトだった。


 カイトはずっと疑問に思っていた。


 神殿跡地に置かれたネメシスの銅像がなぜ勝利の翼を片方失っていたのかを。


 いくら強いと言っても多勢に無勢、一億の首を切り落とすなんてできるのか。


(この力があればできる)


 カイトはネメシスの姿を見た。


 きっとこの景色はネメシスも見ていた景色なのだろう。


 勝利の翼を授かったとしても慢心せず勝利のために羽を削ぎ落す「覚悟」があるか。


 強力な力を授かったとしても自分を信じ、確実な未来を描けるか。


 ネメシスも同じ葛藤をした、そう思うとカイトはなぜか強くなれた。


 自分も同じ道を辿っているように感じられたから。


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