第120話 世界の終わり End of the world

 全ての地雷を避けられた。


 まるでどこに設置していたのか全て把握していたかのように。


 一回でも足を踏み違えば吹き飛んでいたはず。


 にもかかわらず完璧に全ての地雷を避けてみせた。


 もちろんカイトが地雷を避けて剣まで向かっている最中に銃弾による攻撃も重ねて行った。


 だが、それは最早無いも同然のように避けられた。


 最高位プレイヤーの弾丸を空気中を漂う埃を払うように無意識に避けられた。


 弾丸は当たらない。


 それはカイトの仕草、姿勢から感じ取れた。


 それを感じ取れないほど、デメルギアスは馬鹿では無かった。


 ともすればあとは斬撃、剣で攻撃する他ない。


 だが、デメルギアスには想像できなかった。


 カイトにダメージを与える姿が。


 奴には今何が視えているのか、何が視えなくて、何を感じ取っているのか。


「……」


 デメルギアスは思考したが止めた。


 カイトの剣が飛んできたからだ。


 一瞬にして間合いを詰めたカイト。


 足元に置かれた地雷を回避しながら、最短ルートで突っ込んできた。


 デメルギアスは破壊されていた外殻を展開する。


 だが、ガラスのように一瞬で破壊される。


 1秒にも満たないただの時間稼ぎにしかならない。


 カイトの剣を捌きながらデメルギアスは考える。


(クソッ!クソッ!どうする…?!)


 カイトの無尽蔵な剣はデメルギアスの思考を削っていく。


 衝撃がデメルギアスの剣に直撃する。


 デメルギアスの剣は弾かれ、後方へと吹き飛ばされる。


「あと5本」


 カイトは淡々と述べた。


 デメルギアスの背に円状に回っている模倣剣の残り本数は5本。


 どうやらカイトは全ての剣を吹き飛ばし、戦闘不能に陥らせようとしているらしい。


 単純技能ではカイトに勝てない。


 剣の扱いの歴も違う。


 弾丸は当たらない。


 地雷も全て見切られる。


 不意打ちの剣技も効果が無い。


 ここにきてカイトはデメルギアスの全ての技を封殺することに成功していた。


(万策尽きたとはこのことか)


 デメルギアスの思考は止まった。


 一度無になったその脳に新しい芽が生えた。


 豊潤な土壌でも障害物があれば植物は育たない。


 デメルギアスは思考した。


 新しい、発想の転換を!


 ≪ヴンッ!!≫


 デメルギアスは外殻を拡張した。


 堕天使の翼に備わった拡張機能。


 自身の持つスキルを拡張し、高次元に持っていく。


 外殻はカイトを覆った。


 何層も、何層も、カイトを覆った。


 その外殻は防御壁としての役割だけではなく、分析を使える。


 すなわち内部にいる人間の分析。


 カイトを外殻の中に閉じ込めつつも、その間にカイトの持つ力を分析し模倣する。


 そして自身の力へと昇華させる。


 今までは外殻に攻撃を喰らわなければ分析できない、いわばハイリスクなものだった。


 だが、今回デメルギアスが生み出した「外殻による封印」は相手が内部にいるだけで解析ができる。


 閉じ込めて相手の動きを止めるだけではなく、相手の能力値を丸裸にできるのだ。


 解析完了。


 カイトのステータスは―――。



 カイト(天)

 装備 ロングソード

 LV.325

 体力 18,974,534

 素早さ 499,999(カンスト)

 守備力 5,676,456

 攻撃力 99,999,999(カンスト)

 懸賞金 ―――


【勝利の翼】

 飛行能力

 移動速度上昇

 特殊技スキル 【勝利の翼 180秒間致死量のダメージを受けても体力値の変動は起こらない】※使用済

 

『帝ミカドNO.005  必殺帝 』

 特殊効果バフ 【吸収上昇】 プレイヤーが受けるデバフ効果、ダメージを全て攻撃力に加算する

 特殊技スキル 【一撃必殺】 対象の体力等を無視して必ず戦闘不能にする(自身は一定時間攻撃ができなくなる)




 デメルギアスが驚いたのは素早さ、攻撃力がカンスト値を記録していたからではない。


 カイトが先程から無意識に弾丸を避けているそのカラクリがスキルやバフのせいではないことが判明したからだ。


 つまりは単純技能。


 カイト本人が持つ、特殊技能ということになる。


 完全自動(フルオート)での弾丸予見・回避。


 地雷の探知。


 動体視力。


 それらは全てカイトの潜在的な能力にほかならなかった。


(なんということだ…)


 デメルギアスはいつの間にか外殻をカイトの周りに展開する作業を止めていた。


 外殻は破られ続ける。


 そしてカイトの刃はデメルギアスの首を貫いた。


 その剣はデメルギアスの自尊心すらも打ち砕いた。


 デメルギアスにとってこれが初めての完膚なきまでに叩きのめされた経験だった。


(こいつには……勝てない)


 そう、本能が言っていた。


 首が落ちるとともに、自分の身体は消えていった。


 カイトは意外にもあっけなく終わったデメルギアスの最期に驚いた。


 もう少し立ち向かってくるかと思っていた。


 だが、デメルギアスからは戦意が削がれていく音が聞こえていた。


 カイトは地面に剣を刺した。


 もう、お役御免だろう。


 この世界での倒すべき敵は全て倒した。


 だが、カイトは喜ばなかった。


 空を見上げ、どこかで見ているはずの奴を睨んだ。


 霧春真司。


 奴を地獄に叩き落とすまで。


 彼の戦いは終わらないのだから。


 カイトの眼の前には大きな数字が出現した。


 そこには59:59と表示され、カウントダウンが始まった。


 どうやら強制退場までの時間らしい。


 それだけではない。


 この世界が少しずつだが消滅の一途を辿り始めていた。


 カイトは思い出したかのように行動を開始する。


 そして意味があるのかはわからないが、4つの都を陥落させに行った。


 ナンバーワンプレイヤーの称号は全ての都を手中に収めることが条件である。


 誰から見てもナンバーワンプレイヤーであると疑いを掛けられないで済むように、カイトは消えゆく世界を飛び回った。


 全ての都を落としたとき、彼の身体は輝き始めた。


 そして分解され、粒子となり空へと昇っていった。


 彼らの長きにわたる戦いは幕を閉じた。


 そしてカイトは―――。

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