放置すればするほど強くなるゲームを5年間放置したらいつの間にか最強プレイヤーになってました。〜ぼっちは嫌なので最強であることを隠します〜
第136話 土足 Shoes strictly prohibited
第136話 土足 Shoes strictly prohibited
「なに庇ってんだよ」
金髪パーマの参謀役は明らかに機嫌が悪くなった。
目つきが鋭く変化し、即座に手が出せるよう臨戦態勢を取っていた。
「悪いが、彼をあまり刺激しないで貰おうか」
ラフこと山田結城の言葉に含まれた真意を金髪パーマは掴むことが出来なかった。
彼にとっては山田結城の言葉はただの薄っぺらい脅しにしか聞こえていなかった。
ふとした瞬間に金髪パーマは肩の力を抜き、臨戦態勢を解除した。
「別にかんけーない奴と戦う義理はねぇんだよ。どこのだれか知らねぇが、敵意むき出しにしちまって悪かったな」
山田結城は驚いた、敵対勢力の一員である面前の男が礼儀をわきまえたやつだとは思っていなかったからだ。
そして山田結城の目には、金髪パーマの表情の奥底から「苦労」の二文字があることを察した。
「なぜカイトを?」
金髪パーマはふう、と一つ息を吐くと話し始めた。
「組員じゃないヤツに話すなとは言われてないから他言してもいいとは思うんだがな。俺らの組を仕切ってるボスはクロミナの上位ランカーなんだよ」
それだけを聞いて察しの良い山田結城は大方話の筋が読めた。
「クロミナは社会現象だ、今やクロミナ内部のレベルで現実世界の人間関係が構築されている状態。友情も差別も、すべてがクロミナで回ってる」
山田結城は頷いた、それは一番山田が知っていたからだ。
そしてその事実に嫌気が刺した山田は、クラスの一軍から身を引いた。
「ボスは公式組織の幹部にも選ばれてるほどの凄腕らしくてさ、オレあんまし知らねーんだけど」
「知らないのか」
ボスの情報を知りたい山田にとって金髪パーマから情報を引き出すことは有益だと考えていた。
だが、当の本人が知らないというのならば仕方ないか。
「オレ最近入ったばっかの新入りでさ。舐められてんの」
「それで特攻兵になれってか」
「いや、そうじゃない。オレは一応幹部として送られた」
「舐められてるな」
「だしょ?!だからなんかしら成果上げて帰らないとまずいんよな」
金髪パーマは頭を抱えながらぶつぶつと呟いていた。
山田が聞き取れたのは、情報を通達してきた奴の首を獲って誤情報を流したとして吊るし上げればいいのか、だけだった。
様子を静観していた山田の目には金髪パーマが相当有能な人間に映っていた。
(なるほど、これは即座に幹部になるわけだ)
会話から頭がさほど悪いわけではない、むしろ特進コースの人間と同じかむしろ良いほど。
彼の頭脳は組織のブレーンとして必須なのだろう。
「言い忘れてたが、オレは
「山田結城……待て、鎮ヶ崎?」
どこかで聞いた名だった。
たしか社長から送られてきた重要人物リストの中に、鎮ヶ崎の名が。
「なんだ?」
「鎮ヶ崎、兄弟はいるか?」
山田の問い掛けに対し、どこかばつが悪そうな顔を見せる。
「…いる」
「兄貴か?弟か?」
鎮ヶ崎 健は何も言わないまま、出口の方向へと歩き出した。
そして表情を悟られない為か、山田に背を向けた状態で口を開いた。
「兄貴は終わった人間だ…詮索するような真似はやめてくれ」
ひらひらと手を振ると
「ボスは公式組織‘‘
扉が閉まり、静かな空気がやって来た。
山田は鎮ヶ崎に心から感謝し、行動場所を現実世界からクロミナ内部に移行した。
それによって動きやすくなった上に、怪我をすることも無くなった。
名が周囲に知れ渡ることも、退学になる危険性もない。
ネストこと根津進登にチャットを送ると、ふと鎮ヶ崎健のことを思い出した。
山田の問い掛けに対し、どこか寂しそうな、悲しげな雰囲気をみせた。
(誰にとっても踏み込まれたくない領域はあるんだった)
あまり人の私情に土足で踏み込むものじゃない。
もしも逆鱗に触れていたならどうなっていたか分からない。
—
まだクロミナが発展途上で社会現象を引き起こす前。
ラフとネストは信頼していた先輩たちと一緒にクロミナをプレイしていた。
彼らはいま公式組織のリーダーとしてクロミナを管理する側に立っている。
彼らが一番大切なものを失ったとき。
その時の顔が脳裏から離れない。
たかがネットで知り合い、ネットで遊ぶだけの仲だった。
だが、彼らの中に築かれた関係性はそんな甘いものでは無かった。
(――ギラさん!どうしちゃったんですか?――)
切迫したネストの声が聞こえる。
(——メイ先輩は——)
(——メイは死んだ——)
(——え——)
(——メイを殺したのはこのゲームだ——)
押し黙るネストとラフを前に気を使ったギラは謝罪する。
(——悪かったな、お前らの愛するこの世界を悪であるかのように言っちまって——)
(——なにか、なにか僕たちにできることはないですか——)
(——俺たちに関わるな、とくに暗黒はもう、今までの奴じゃない——)
(——そんな…――)
(——いままで、楽しかったよ、ありがとう——)
それがギラと交わした最後の言葉だった。
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