第35話 Dブロック予選③ Pre:Contest=3

 亜空間アナザーフィールド=草原

  経過時間 8:54

  残り人数 1664/1287

  現在地 森林地帯



  「魔法攻撃が効かない?」


  「それに物理攻撃も木の幹みたいなやつで弾かれちまう」


  「これでは僕はノーマルの矢しか打てないですね」


  「私も、攻撃に関しては役立たずね」


  後方では剣と剣がぶつかり合う音がする。


  戒斗は意思伝達テレパシーでツカサに指示を送る。



  ((もう一度木の幹が見てみたい。ノーマルな矢を打ってくれないか?))



  ツカサはすぐに対応した。


  弓を引くと、真っ直ぐに銀髪の少女の方向へと向かってった。


  だが、地面から生えた木の幹が矢を弾き返した。


  (生成された?!)


  「もしかして、彼女。茶系統じゃない?自然の力を扱うという……」


  リナの小さな声に3人は納得する。


  だが、本当かどうかはわからない。


  確信はつけないと思っていたが。


  「そうです!茶系統保持者です!えへへ」


  (いや、聞こえたの?!それにまた言っちゃったし!!)


  銀髪の少女は少し照れたような反応を見せる。


  ミズナとよばれるパートナーは、無視しているようだ。


  だが、魔法攻撃が効かないからと言って何もしないのは違っている。


  翼はもう一度攻撃をする。


  だが。


  ≪ゴウッ!≫


  翼の前に炎の壁ができた。


  「うわぁ!」


  翼は腰を落としてしまう。


  だが、攻撃がくる気配は無い。


  なるほど、耐久戦に持ち込むのか。


  それとも俺らが逃げるのを待つのか。


  俺らがどうするべきか、考えを巡らせていると。


  山の山頂の方からなにやら光が見え始めた。


  その瞬間、それをあたかも予測していたかのように銀髪の少女は焦った口調で話し始めた。


  「お、お願いです!お兄さんお姉さんたち!彼女を、ミズナを守ってあげてください!」


  涙目で必死に戒斗たちに訴えてくる。


  だが、現状が把握できていない戒斗たちはなにが起こっているのかわからなかった。


  ただ山の頂が光ってるな、程度しか思っていなかった。


  「あれは、あれは、最上位の光魔法です!私の予想が正しければあの魔法はこの地上を埋め尽くすでしょう!」


  「な、なんでそんなことが分かるんだ?」


  それはミズキとの攻防戦を一旦止めたミズナが答えた。


  「彼女、ネムリ通称ネムは魔法オタクなんです。だから大抵の魔法は発動前に見切っちゃうんです。」


  (なるほど)


  それによって今から発動する魔法も分かるわけか。


  「ま、守っていただけたらなんでもします!だから、お願いします!」


  「ネム!この人たちとはあくまで敵同士なんだよ?!なに言ってるの?!」


  ネムはミズナの言葉を無視して戒斗たちに懇願した。


  「私は魔法攻撃は喰らいません。でもミズナは……!」


  「ど、どうするんだ?カイト」


  「そうだな」


  戒斗はリナの方を向いてアイコンタクトをとった。


  「その魔法攻撃は絶対に来るんだよな?」


  「はい!間違いありません!」


  「なら。俺らも守りを固めないと全滅だ。ついでに守ってあげよう」


  その言葉にネムは涙を流して


  「ありがとうございます!」


  と言った。


  それほど慕ってるってことだ。


  (いい関係じゃないか)


  戒斗はリナに魔法を指示し、中央にメンバーを集めた。


  ミズナもその中に入った。


  一応裏切ることがないように双剣をミズキに預けたようだ。


  そして次の瞬間。


  光っていた山の頂から一筋の光線が放たれた。


  「来ます!」


  ネムの声に反応してリナは魔法を唱える。



  【金:防御魔法= 完全防御空間パーフェクトキューブ



  6人の周りをちょうど覆うように立方体の金色の障壁バリアが出現する。


  それと同時に空から無数のあり得ないほどの数の光線が降ってきた。


  まるで太陽が降ってきているような光だった。


  金の障壁バリアは効果を成しているようだ。


  外ではネムが光が放たれる方向をじっと見ていた。


  外に広がっていた木々は次々と消滅し、地面も穴が開き始めた。


  その光線は半径1メートルに1発くらいか。


  しかし、その圏内は移動を繰り返している。


  10秒くらい経った。


  ようやく光線は降り止み、ネムの合図を見てリナは魔法を解いた。


  地面は戒斗たちの周りとネムの周り以外全て穴が開き、隕石が降ってできたクレーターのようなものがたくさんできていた。


  当然木々は跡形も無くなっており、元あった地面が深く削られ、10メートルほど下に地面が下がっていた。


  そのため、戒斗たちの立つ場所とネムの立つ場所は二つの尖った山のようにそこだけ盛り上がっているのである。


  「す、すげぇな……」


  さっきまでとは一変したフィールドに翼は驚きの声を上げる。


  「ネム、だったか?助かったよ。言ってくれなかったら俺たちは全滅してた」


  戒斗の言葉にネムは頭を深く下げる。


  「いえ。助かったのはこちらの方です。ミズナをありがとうございました」


  「えっと、その。ありがとうございました。さすがにここから戦う気になれないです」


  ミズナも頭を下げる。


  [カイト。彼女に武器。返していい?]


  ミズキからのチャット。


  戒斗は許可した。


  「うわぁー、だいぶ減りましたね、冒険者プレイヤーのみなさん」


  残り人数を確認したツカサは感嘆の声を漏らす。


  「仕方ないわね…。防御魔法を持っていない冒険者プレイヤー組織ギルドは1発退場だったもの」


  「今回はリナに助けられたな」


  「ありがとうございましたリナさん!」


  ツカサがお礼を言う。


  「いいわよ、そんなの。って、え、?」


  話していた途中。


  リナは遠くを見つめて何やら気づいた。


  「どうした?リナ」


  「あ、あれ。」


  「?」


  山の頂を指差すリナ。


  それにつられるように山の方を見る。


  そして気付く。


  山の頂がまた光出していることに。


  「みなさんも気づきましたか。もう一度、あの魔法を打ってくるようです」


  「冗談だろ?!」


  翼が声を上げる。


  「考えられるのは2つのパターンです。1つは術者が複数人いること。もう1つは魔力を他のメンバーに与える魔法を持っている冒険者プレイヤーがいることです。」


  「魔力を与える?」


  リナが聞く。


  「はい。先程の魔法は【金:"最上位"対象破壊魔法=シャイニングレイン】。高い破壊力を持つ魔法故に魔力が一瞬で底をつく魔法です。」


  「最上位…!」


  リナが息を飲む。


  「レベルがそこまで高くない俺たちDブロックの中でそんなに多くの"最上位"魔法を使える術者がいるとは考えられなくないか?」


  「そうですね。なので。2つ目の方が有力かと」


  「でもさー、ネム。そんな魔法あるの?」


  「あるよ」


  即答だった。


  「【紫:魔力操作魔法=魔力譲渡マジックトランスフェア】や、【銀:指定空間魔力操作魔法=魔力集約マジックコレクト】や、【金:魔力操作魔法=魔力供給マジックギフト】があります」


  (やっば。さすがオタクってところか)


  一同が知らない魔法バンバン出てくる。


  「じゃ、じゃあその可能性と見た方が現実味がありそうだな」


  「で?ここからどうするんだ?」


  翼の質問。


  確かにここでじっとしていても仕方がない。


  「でもさー、ぶっちゃけリナに守って貰えば他の冒険者プレイヤーの全滅を待つのだってありだよな」


  それを聞いたリナが翼に吠える。


  「無理よ!あの魔法、結構魔力使うんだから!次の攻撃で10秒持つかわからないわ」


  「そ、そうなのか、」


  「それに!私も守ってもらうだけでは嫌です。私に何かできることはありませんか?」


  ミズナも言う。


  それを聞いた戒斗は


  「決まりだな」


  「何が?」


  翼はわかっていない様子だが、ネムは分かっていたようだ。


  「ネム。山の方向はわかるか?」


  「はい。把握しております。そして。あの魔法は10分の待機時間があります」


  「そ、そこまでわかるの?」


  リナが聞く。


  「リナさん。ネムをナメないほうがいいですよ。ネムは攻略本の魔法を全て暗記してますから」


  「ちょ、ちょっとミズナ?!」


  (へー。なんかツカサみたいだな)


  「よし。10分経つまでに山の頂まで行くぞ!」


  「おお!魔法を止めるんだな!任せとけ!」


  翼が勢いよく答える。


  全員戒斗の意見に賛成した。


  全ては最上位魔法を止めるため。


  カイト組織ギルドとミズナ組織ギルドの休戦協定が結ばれた瞬間だった。



  【金:"最上位"対象破壊魔法=シャイニングレイン

 発動まであと9:40

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