放置すればするほど強くなるゲームを5年間放置したらいつの間にか最強プレイヤーになってました。〜ぼっちは嫌なので最強であることを隠します〜
第123話 上位組織 Higher Level Organization
第123話 上位組織 Higher Level Organization
4月14日19時。
クロミナ公式生放送が配信される30分前。
カイトは自室でパソコンの前に座っていた。
手元には一つのURLリンク。
それはオンライン会議を始めるためのリンクだった。
相手はクロミナ運営。
カイトは決勝戦の日からインターネット及び外部との接触を一切断ってきた。
学校にも行っていない。
クロミナにもログインしていない。
所持していたSNSも開いていない。
世間がどうなっているのか、カイトは知らない。
彼にとってそんなことは些細なことだった。
知っていても知らなくても大差ない。
ただの雑音だった。
「待たせたね」
リンクは既に踏んでいた。
待機画面が変わり、澤田の姿が映った。
カイトの表情は依然として変わらない。
「まずはカイト君。どこまで思い出した?」
澤田の質問にカイトは即答した。
「全て思い出しました」
カイトの目は少し悲しそうで、それでいて憎悪に溢れていた。
澤田はこの世の実情を嘆くかのように俯き、そうか、と一言呟いた。
澤田は姿勢を崩すことなく、カイトに話す。
「君とは長い仲だ。私が君に執着する理由がわかったろう」
「色々とお世話になりました」
カイトにとって一番の恩人は眼の前の澤田和俊のはずだ。
だから澤田社長からの連絡には出た。
ヤツに近付く有益な情報が手に入ると確信していたからというのもあるが。
だが、澤田の目的はカイトの力を封じることにあった。
それはカイトの願いからカイトを遠ざけるような行為だ。
しかし、だとしても、澤田はカイトに幸せになってほしかった。
そのためにも過去のしがらみからは目を背けてでも、自身に刻まれた呪いのような悪夢のような力を封じてでも現実世界を見てほしかった。
復讐という汚れ仕事は大人に任せて欲しかった。
彼には第一線から退いてほしかった。
だが、彼はそれを望まない。
それは長い付き合いだからこそ、澤田が一番良くわかっている。
「ヤツから連絡はありましたか」
「……霧春真司に会ったかい」
話をすり替えたわけではない。
話の核心に迫る前に霧春真司がカイトに与えた影響を知りたかった。
そして願わくば紐解いてやりたいと思った。
「…会いました。決勝戦の日。砂嵐が晴れて少し経ったあと、ヤツが思考に干渉してきました」
「プレイヤー暗黒が使用した‘‘
澤田はあらゆる対策を施してきたつもりだった。
外部からのハッキングやプログラム破壊に対してはほぼ完璧、鉄壁の布陣を敷いていたはずだった。
まさか内部にいるプレイヤーが内部から破壊行動をするとは想定していなかった。
「霧春真治はクロミナの中枢へと侵入した。そして一億を超えるプレイヤーの個人情報をコピーした」
「コピー?なぜヤツはそんなことを」
カイトは不思議そうに目を細めた。
「クロミナの世界では同時に二つのアカウントは共存できない。霧春真治はコピーしたアカウント情報を常にクロミナの世界に存在させ続けておくことでプレイヤーのログインを制限するつもりだ。それによって霧春真治に歯向かうプレイヤー人員を大幅に削減することができるとともに、我々運営にとって強力な脅しとなるわけだ」
もしも仮に運営が強行手段に出た場合。
つまりプログラムを一時的に全て停止させ霧春真治が発動したプログラムを書き換えた場合。
クロミナの世界には安寧が訪れる。
だが、そのストッパーになっているのが霧春真治の個人情報コピーである。
プログラムを書き換えた場合、霧春真治が保有した個人情報のデータは共に消える。
運営が個人情報の権限を持っていない以上、迂闊にプログラムの書き換えはできない。
「今すぐ、というわけではないのでしょう?」
カイトの質問に澤田は頷く。
「ヤツのプログラムは未完成だ。奴の手元にある個人情報も所有の権限を奪われただけ。それを削除や重複して複製する権限などは持っていない」
澤田は続ける。
「5月12日。ヤツはその権限を奪うために中心都市のサーバーに一斉攻撃を仕掛けるそうだ。【クロミナ内で悪魔に倒されたプレイヤーのデータを消去する】というプログラムを持った悪魔を従えながら」
「残り一ヶ月もないですね」
「…ああ。早急に準備を進めなければならない」
「ヤツの居場所は掴めないのですか」
カイトは基本的にクロミナ内部での霧春真治の動向はどうでもよかった。
彼にとって一番興味があったのは、霧春真治が現実世界においてどこにいるのか。
プログラム云々のことは彼には分からない。
一番手っ取り早いのは現実にいる霧春真治を倒す事。
そうすれば再発防止にも繋がる。
それがカイトの考えだった。
澤田和俊は薄々カイトの考えを読むことができていた。
「もうクロミナに戻らないのかい」
だからこそカイトに聞いてしまった。
彼の真意を。
カイトは何も話さなかった。
彼にも葛藤があるのだろう。
今まで戦ってきた仲間たち。
彼らを放っておいていいのだろうか。
自分の復讐にはあまりにも邪魔だった。
だが、だからと言って切捨てていいものなのか。
「霧春真治の動向は掴めていない、だが依然捜索を続ける。だからまずはクロミナでヤツの野望を打ち砕いてくれないか。接触した場合、ヤツの位置情報を割り出せるかもしれない。そしたら全て終わりだ」
「情報提供をしてくれますか」
澤田はしないつもりだった。
もしも霧春真治の居場所を特定できたとしても、カイトには教えてはならないと考えていた。
彼は再び霧春真治と対峙した場合、何をするか分からない。
彼に備わった力は、簡単にそれを可能にしてしまう。
だが、彼の協力は今後の戦いにおいて必要だ。
澤田は渋々承諾した。
カイトも納得したようで一度頷くとクロミナに戻ることを約束した。
「一週間後。公式組織を再編する選抜試合を行う。クロミナ内でより強い人材を育成し、より強い人材で守りを固めることでヤツに立ち向かう。是非カイト君にはいち組織のリーダーとして出場してほしい」
「俺らの組織も出られるんですか」
カイトが気にするのは世間の目とレベルだろう。
「LANKが1,000を超えた組織を我々は【上位組織】と呼んでいる。四大組織と上位組織の総当たり戦によって精鋭を選抜したいと考えている。カイト君のいる無記名組織のLANKは3980だ。充分戦える技量がある」
カイトの頬が少し緩む。
「君に求められるのは組織をまとめる統率力だ。それが君にはあるかな」
カイトは思い出す。
チームメンバーの力量を。
そして—―。
「いつか、みんなで家買いたいね」
ログインしたら、メンバーに会いに行かなければならない。
加えて――。
「もしも他のゲームで私の友達に会ったら伝えておいて…大好きだよって」
メイの伝言を彼女の親友たちに伝えなければ。
カイトはやることを思い出し、いつしか早くクロミナの世界に戻りたいと思うようになった。
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