第23話探索クエスト③ Dragon→Lizard

『ク、クハハハ!そうだ!それでいい!』


  黒龍はいかにも愉快そうな口で話す。


  だが、その顔には不安が見られた。


  『最初に言っておくが、私は最近開発され、近頃発表される最恐最強のモンスターだ!もう一度いうが、私に負けたらお前のアカウントは……』


  黒龍が最後まで言う前に戒斗は既に黒龍の顔の前まで来ていた。


  (は、速い……!)


  黒龍は咄嗟に魔法を唱える。



  【黒:対象爆破魔法=黒龍の息吹ブラック ブレス



  ボォッと黒龍の口から放たれる黒い炎。


  カイトは肩に剣を担ぐような構えから一気に振り下ろした。


  その瞬間黒龍の魔法はもちろん、後ろの壁まで1キロほど吹き飛んだ。


  そしてその壁には一閃の切り口が刻まれていた。


  (なんて強さだ……)


  黒龍はニヤリと笑みを溢し、


  『そんなに強い力を持っているのならもっと見せびらかせばいい!私のようにナァ!!』


  黒龍は大きな羽を広げ、そこから放たれた無数のミサイルのような物を飛ばしてきた。


  「俺は決めたんだ。この強さは見せびらかすことはしない……。決して威張らず、自分のレベルの高さに溺れずに弱いレベルのプレイヤーにも手を差し伸べる……」


  カイトの頭にラフとネストの顔が浮かんだ。


  そして足を前と後ろに構え、剣を両手で持ち、右側に構えた。


  「そんな人に俺もなりたいんだ!」


  カイトの言葉に共鳴するかのように「魔滅剣シャイリアル」は光輝く。


  そして目の前のミサイルを一蹴するかのように。



  【固有剣技ソードスキル=シャイリアル・スラッシュ】



  キンッ。


  音が一瞬無くなった。


  そして一瞬だが、カイトの斬った切り口が白く、すべてを飲み込んだようにミサイルと共に消えていった。


  壁が崩れ落ちる。


  そこで黒龍は片膝をつけて座っていた。


  片腕と羽は消失していた。


  『ク、クハハハ。それでも意思を変えないか。ならば仕方がない。私はここで下がるとしよう』


  「待て。お前は俺を目立たせて何がしたいんだ?それにメンバーを返せ」


  カイトの言葉に黒龍は呆気にとられたのか、笑い始めた。


  「な、何がおかしい!」


  『いや、失礼失礼。君があまりにも真面目だからね。君を目立たせて何がしたいかはいずれ嫌でもわかると思う。だからここでは敢えて言わないでおこう。

 勿論、アカウントは消さない。ついでに言うとNPCAIの分際で運営に報告などできるはずがないだろう。

 あと、仲間は食べてなんていないさ。君だけあの場で砂嵐に遭ってはぐれたっていうことになってる。適当な口実をしてくれ』


  「そんなテキトーな」


  呆れるカイトだが、1つだけ黒龍に言う。


  「お前はアカウントを消すことを報告できない、と言ったがそれは嘘だ。お前はいつでも俺のアカウントを消すことができる。初めから冷静に考えれば済んだ話だったんだ。俺が聖騎士エグバートだってことを知ってるのは"運営"しか居ない。お前は運営の誰かに操られてるんだろ?」


  その言葉を聞くとまた黒龍は笑いだし、

  『正解だ。今回は君にどうしても会いたくてね。強制的だが、こういう場を設けさせて貰った。急に押しかけてしまってすまなかったな』


  先程とは打って変わって態度を変えるものだからカイトは変な気持ちになった。

  黒龍からは暴力的な言葉ではなく、丁寧な言葉が出てくることに違和感を感じていた。


  『では、君を元の場所へと帰そう。アカウント共有はしなくていいのかい?』


  黒龍の言葉にカイトはあっ、と気づき、アカウント共有で「カイト2026」に戻った。


  『体力は全回復させておくから心配するな。さ。討伐クエスト、頑張ってくれたまえ!』


  そう言い放つと黒龍はカイトの足元に転送魔法テレポートの魔法陣を出現させた。


  一瞬にして戒斗の身体は元いた赤い大地へと戻って来たのであった。

 



 *




  「カイトー!」


  戒斗の姿に気づいたリナは遠くから声をかける。


  「おーい!リナ……っておい!」


  地面を揺らし、戒斗の方へ近寄ってくる。


  手を大きく振りながら近づいてくるリナの後ろには巨大な緑の装甲車のようなトカゲが迫っていた。


  一直線にこちらに向かってくることに気づいた戒斗はリナから逃げることにした。


  「あ!カイト待ってよぉ〜!」


  リナの弱々しい声が聞こえる。


  戒斗はリナに届くように比較的大きな声で


  「なんでコイツに追われてんだぁー!?コイツがボスなのかぁ!?他の奴らはどうしたぁー!?」


  「えー?!何?聞こえないー!」


  あまりにも大トカゲの足音がうるさすぎるのか、その1メートル圏内にいるリナにはカイトの言葉は聞こえなかった。


  戒斗は走る先に空洞がある事に気付いた。


  入り口は大トカゲは入れなそうな大きさだ。


  戒斗は手で先にある空洞に入ることを示すと、一足先に空洞に入った。


  すると地面を揺らす音はどんどん大きくなって、リナが空洞に入った瞬間に大トカゲは通過していった。


  2人の荒い呼吸が空洞に響く。


  リナは肩を使って呼吸していた。


  「で?もう一度聞くが、なんであの怪物に追われてたんだ?」


  するとリナは俯き加減で


  「えっとね、その、砂嵐が晴れたあとに今回のクエストが行われる場所じゃない所に間違って行っちゃって。翼がその場所に突っ込んで行ったらこの通り。トカゲを連れて帰ってきたって話よ」


  リナは少し怒りを露にしながら言う。


  「なるほどな。で、他のメンバーは?」


  「全員バラバラになっちゃったからわからないわ。翼が連れてきたのに私の所に来るなんて、なんて日なの?!」


  リナは憤慨したように言う。


  「今確かめたが、この近くに3人はいないみたいだ。巨大トカゲもな」


  紫の目をした戒斗が言う。


  「え、な、なんでわかるの?」


  リナは少し動揺して聞く。


  「紫の魔法だよ。千里眼セカンドサイトっていう魔法だ。今は半径2キロ圏内ならすべてお見通しっていう魔法」


  「す、凄い!やっぱ紫も侮れなかったわね!」


  リナは興奮したように言う。


  確かに、紫の魔法じゃなかったら先程会ったドラゴンにも勝てなかったかもな。


  尻尾の攻撃で一撃ノックアウトだっただろう。


  「それより。別れる前にツカサはそのトカゲについて何か言って無かったか?」


  「あ、言ってたよ。そのトカゲを見た瞬間にツカサが『あれはデスモルガネスだ!』って言ってたはず」


  何もわかっていないリナは何なんだろうね〜と陽気に笑う。


  戒斗は戒斗自身が分かるほど顔が青くなっていた。


  「で、デスモルガネス?!そ、それはだいぶまずいことになった!……みんなが危ない!」


  「え?」


  戒斗の緊迫した表情にリナも何かを感じたのか、真剣な顔に戻る。


  「デスモルガネスは最近まで倒されていなかったかなりの強敵。俺らで太刀打ちできるかどうかも不安だぞ?」


  「そ、そんなに危険な敵に追われてたの私……」


  リナも顔を青くする。


  追いつかれていたら一瞬でやられていたかもしれないという恐怖で。


  「兎に角、こんな所にいる場合じゃない!みんなと合流してここからいち早く離れるんだ!」


  そう言うと戒斗は1人でに外に飛び出した。


  だが、そこには。


  ぺろりと舌を出して待っていた……


  大蜥蜴デスモルガネス


  戒斗は思考が一瞬止まったが、すぐに行動に移した。


  リナの腕を掴み、その場から逃げた。


  いきなり腕を掴まれたリナは少し驚いていたが、そのすぐ近くにいたトカゲに気づき、さらに驚いていた。


  「か、カイト!走ってくるよ!!」


  「わかってるよ!それがわかってんなら自分で走れ!腕掴んでるのも楽じゃないんだよ!」


  戒斗は少し怒りを露にしながら全力で走った。


  リナはもう少し掴まれたままでもいいかなと思っていたが、さすがに怒られると思った為、走り出した。


  このまま走っているわけにもいかない。


  そう考えているのは戒斗だけではなかった。


  なんとか打開策を考えていたが、良い案が浮かばない。


  その時。


  「カイトさん!リナさん!こっちです!」


  その声の主はツカサだった。


  遠くの崖の上に弓を持って立っていた。


  「ツカサ!」


  「ツカサー!助けてー!」


  リナは年上のプライドなど初めからなかったのか。


  年下のツカサに全力で助けを求める。


  「少し待ってください!」


  ツカサは弓を構えると魔法を唱えた。


  (勝負は一瞬!)



  【緑:弾道補正魔法=疾風弓矢ブローアロー



  ツカサから放たれた矢は丸い弾道を描きながらデスモルガネスの目へと直撃した。


  『グァァァア!』


  片目を射抜かれ、苦しみだす大蜥蜴デスモルガネス


  「ツカサナイス!」


  「ありがとう!」


  戒斗とリナからの感謝にツカサは頭をかきながら照れる。


  ツカサは魔力系統マジカルディセントを緑色に選択した。


  武器屋で話を聞くとツカサは弓矢を使う冒険者プレイヤーだった。


  この世界では弓矢使いは緑色の系統を選択するとほぼ決まっているらしい。


  何故なら弓矢を使うにあたって大切なのが飛んで行く弾道をどのように"風力"で調整するか、だからである。


  逆に言えばその風力を操れさえすればどんな変則的な弾道だって矢に描かせることができるのだ。


  因みに風力は弾道を補正する機能だけでなく、矢の周りで風を発生させ、矢の速度を速くすることも可能である。


  片目を潰され、慌てる大蜥蜴デスモルガネス


  そしてツカサの隣からミズキが飛び出し、戒斗の元へ降り立った。


  ミズキは魔法により電気を身体に纏っていた。


  それによってミズキの周りの砂がミズキを囲むように先程の砂嵐の下位互換のようなものが発生していた。


  そしてミズキは大剣を前に突き出すとその剣の先に黒い物体が付着し始めた。


  それは次々に連なり、大剣からさらに一回り大きな真っ黒な剣へと進化した。


  地面の砂の中にある"砂鉄"が電気によって纏わりついたのだ。


  剣は鋭く尖り、正確に敵の位置を定めていた。


  そしてミズキは黒刀を構え、全身に電気をさらに纏って斬った。


  それは一瞬の事で戒斗には見えなかった。


  ただ見えたのは結果。


  大蜥蜴の横腹にかけて大きな傷口が開いたのだ。


  張本人のミズキは大蜥蜴デスモルガネスの後方にいた。


  『グァァァア!!』


  先程と同様の声を上げる。


  (そのまま倒れるか?)


  戒斗は少し期待したが、すぐにその期待は打ち砕かれた。


  大蜥蜴デスモルガネスがさらに暴れ始めたのだ。


  じたばたと地面を掘りながら少しずつこちらに向かってくる。


  ミズキも戒斗の元に合流した。


  (どうする?!)


  戒斗は頭の中で思考を巡らせた。


  (リナの防御魔法……難しい、破られたら終わりだ。

  ツカサの弓矢……暴れている標的を狙うのは難しいだろう。

  翼……あれ?)


  戒斗はそういえば翼がいないことに気がついた。


  (既にやられた訳じゃないよな……)


  戒斗がステータスからグループメンバーの情報を見るとまだ生きていることがわかった。


  「カイト!ど、どうする?」


  リナに聞かれる。


  ツカサは崖の上にいるから大丈夫だと思うが、この場所じゃあ逃げるにも逃げられない。


  ここは渓谷のような場所でツカサがいる場所を崖と言ったが、そこが本当の地上で戒斗たちがいる場所は一層下に位置している地下のような場所だった。


  そのため当然道幅も狭く、逃げるような横に入る道も無い。


  もうすぐ大蜥蜴が来る。


  (とりあえず逃げるか?!)


  そう考えていたその時。



  【銀:"上位"空間操作魔法=空間重力フィールドグラビティ



  ドゴンッと大蜥蜴の動きが止まった。


  そして影のような暗い空間に大蜥蜴は支配された。


  どうやら上から押さえつけられているようだった。


  大蜥蜴も必死に抵抗するがどんどん下へ押されてゆく。


  すると上の方から聞き覚えのある声が聞こえた。


  「おーい!お前ら!俺様とツカサが少し抑えてやるからさっさと上に上がってこい!」


  「翼!」


  翼の声に3人は急いで上の地上へと上がる。


  最後のミズキが上に上がったと同時に大蜥蜴が超速で通り過ぎていった。


  地上に戻るとやっと全員集まった。


  「翼!よくやったぞ!」


  「こ、今回は助かったわ」


  [ご苦労]


  3人からのメッセージに翼は照れを隠すように


  「はっ!やっぱり俺の力が必要だったみたいだな!」


  「そうだな」


  戒斗の言葉に翼はそうだろう、そうだろうと強く頷いていた。


  「それにしても今の銀魔法って結構強力ね」


  リナが翼に対して話しかける。


  「それはそうだ。あれは俺が唯一持ってる‘‘上位‘‘魔法だからな。対象の敵の動きを重力によって制限する魔法だ。どうだ?強ぇーだろ!?」


  戒斗はこのクエストで思った事がいくつかあった。


  やけにミズキと翼は戦闘慣れしているということだ。


  ミズキに関しては剣術が上手い。


  翼もミズキには少し劣るがなかなか剣術が上手かった。


  そしてツカサも弓の扱いが上手いこと。


  (こいつらもしかして、現実リアルで何か習ってたりするのか?

  ま、まさかな)


  VRMMOは現実リアルの自分の力もかなり反映されるゲームだ。


  剣術なり弓使いなり、現実リアル世界ワールドで培った"感覚"というもので強くなることもあるのだ。


  もちろん、VRMMOをたくさんやっている上級者ならばゲーム独自の"感覚"というものを培えるのだが。


  戒斗は流石に現実リアルの事を聞くのは申し訳ないと思い、その話は一旦忘れることにした。

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