第22話 探索クエスト② Forced

 その後も現れる敵を前に魔法や新調した武器で戦ってみる戒斗たち。


  だいぶ戦闘にも慣れてきたようだった。


  「上に行ったぞ!」


  空を優雅に舞う鳥型の敵NPCAI。


  リナの防御魔法の応用で、翼の足元に地面と平行に壁を作り、鳥を目前にして剣を振った。



  【剣技ソードスキル=黒龍斬こくりゅうざん



  黒い旋風を纏った翼の剣はその鳥型モンスターを一刀両断にした。


  「今のは"デザートバード"です。結構強いモンスターですよ。」


  ツカサが捕捉説明する。


  「そういえばツカサ。なんでそんな敵のこと詳しいんだ?弱点まで知ってたじゃないか。」


  戒斗が聞くとツカサは少し照れたように

  「実はこのゲームの敵NPCAIのデザインが好きで……全敵NPCAIが載ってる本を買って夢中になって見ていたら全部覚えたみたいで……」


  「マジで?全部覚えたのか?!」


  「はい。一応出てきた敵NPCAIの名前と弱点ならわかります。まぁ、以前の"悪魔"とか本に載ってなかった敵はダメなんですけどね」


  ツカサは苦笑いをして見せる。


  「す、すごいよ!そんなの普通の人ならできないって!」


  リナが全力で褒める。


  「そ、そうですか?」


  ツカサも嬉しそうに頬を赤らめた。


  [すごいわツカサくん。さすがね]


  ミズキもチャットを飛ばす。


  「なぁ?翼もそう思うだろ?」


  戒斗が翼に確認をとる。


  「ま、まぁな。確かにすげぇよ。実際役に立ってるしな」


  確かに敵の情報を知らない人にとってはとても心強く、頼もしい存在となるだろう。


  「ツカサ!今後も情報提供よろしく!」


  「はい!」


  戒斗の言葉にツカサは元気よく答えた。

 



 *



 

  そうこうしているうちに荒野地帯にやってきた。


  赤い地面が一面に広がり、情報通り草木が一本も生えていなかった。


  それどころか戒斗たちの周りには誰もいなかった。


  「誰もいないみたいだな。」


  「ということは探索クエストで見つけた宝は俺らが独占していいってことか!」


  翼はぐへへと笑う。


  「そうやって考えて。ボスにボコボコにされたらどうすんのよ。それを考えるのはあと。分かったわね?翼」


  リナに言われ、翼はへいへいと半分わかってないような返事をした。


  すると次の瞬間。


  大きな音を立てて舞い上がった砂が回転しながらこちらに向かってきていた。


  「砂嵐だ!」


  翼がそう言ったのを最後に戒斗は他の4人との連絡がつかなくなった。


  「ディスプレイ」と叫んでもステータス画面はブラウン管テレビの砂嵐のように機能していなかった。


  砂嵐による特殊影響か?


  戒斗はそう考えることにしたが、おかしな点もあった。


  「暗視魔法が発動しない?」


  戒斗が持つ紫系統の魔法で使用に適した場面で自動的に発動する【暗視ダークサイト】という魔法。


  レベルはMAXなはずなのだが、目の前は以前として真っ暗な闇だった。


  だとすると、考えられるのは。


  この砂嵐やみは魔法すらも妨害している?


  いろいろと考えを巡らせたが結論までには至らず、途方に暮れていた。


  だが、その時。


  バッ!という音を立てて砂嵐が左右上下全方向へ飛び散った。


  戒斗は驚いた。


  そこがさっきいた場所とは全く違う場所だったからだ。


  先程いたはずの場所は開放感あふれる晴天の下。


  今いるのは大きな空洞の中だ。


  周りを見渡しても出入り口らしきものは見つからない。


  (強制的に転送魔法テレポートされた?)


  戒斗は今何が起きているのか理解できなかった。


  だが、わかることが一つ。


  目の前50メートル程先に佇む巨大なドラゴンがいることだ。


  全身を黒く塗装したようなそのデザインはお腹周りから顎先にかけては白かった。


  (どういうことだ?)


  特殊イベントかとも考えたがそれでも戒斗単体でそのイベントが行われるのはおかしい。


  それに勝てそうにないほどのレベル差だ。


  戒斗は相手の表示されている名前とレベルを見た。


  「黒龍=ヴォルドムス……レベル2500か。」


  すると戒斗が思いもよらなかった出来事が起きた。


  『お前は私を見ても怖気付いたり逃げたりしない…。お前には真の秘めたる力があると見た!』


  (しゃ、喋った?!)


  戒斗は敵NPCAIが喋ったことに対して驚きを隠せなかった。


  確かに中心都市にいるサポートNPCAIは普通に話すし話せる。


  その容量で敵NPCAIにだって話すプログラムを組むことは容易だろう。


  『何か言ったらどうだね?』


  黒龍の言葉に戒斗は答える。


  「何故俺をここに?」


  さらに戒斗は続ける。


  「他のメンバーはどこにやったんだ!今はどこにいる!」


  戒斗の言葉に黒龍はニヤリと笑いながら答える。


  『私は冒険者プレイヤーから発せられる怒りの感情が好物なのだよ。』


  「質問の答えになってねぇぞ…メンバーをどこにやったんだって聞いてんだ!」


  すると黒龍はあたかも簡単に物を言うように


  『喰った』


  「は?」


  そして地面が割れんばかりに笑い出した。


  戒斗は怒りの感情を覚えた。


  (なんだこの敵NPCAIは)


  疑問は募る。


  だが、戒斗は震える手で剣を握りしめた。


  そして黒龍目掛けて走り出した。


  『おいおい!そんな貧弱な身体では私の弱いパンチで吹き飛ぶぞ!』


  戒斗はわかっていた。


  これはレベル差がおかしい無理ゲーだと。


  だが、引き下がることはできない。


  黒龍は何も動かない。


  戒斗がもうすぐ間合いに入るというのに。


  しかし、戒斗には黒龍が何をしようとしているのかがわかった。


  そして横から物凄い速度で振り払われる黒龍の尾にジャンプで対応した。


  『!』


  来るタイミングがわかれば余裕だ。

 


  【紫:視覚補強魔法=千里眼セカンド サイト



  『紫の魔法か!なかなかやりおる』


  黒龍は即座に戒斗の魔法の系統を見極めた。


  そして空中で間合いに入った戒斗は剣を投げつける。


  あれは直撃した――はずだった。


  目の前から黒龍の姿は一瞬にして消え、その巨体が動いたことによる土煙が立った。


  そのまま戒斗の背後にあまりにも早いスピードで周りこむと黒龍は鼻息を戒斗に吹きかけた。


  しかし鼻息と表現していいかわからないほどの強風。


  これは一種の突風だった。


  それに煽られた戒斗は壁に打ち付けられた。


  突風によるダメージはないものの壁に打ち付けられたダメージが戒斗の体力の半分を削った。


  「ぐっ…」


  全身に痛みを覚えた。


  足がふらつく。


  なんとか立ち上がるが、視界がぼんやりしている。


  『もう良いだろう。私もお前をギリギリまで生かしておくのは高難易度の技なのだ。早く――』


  その次の黒龍の言葉で戒斗は凍りついた。


  『アカウント共有をしろ。』


  戒斗は目を大きく開いて黒龍の方を見た。


  「お前が、なんでそれを知っている…?!」


  『そんなことはどうでもいいではないか。さぁ、私に強いお前を見せてくれ』


  「ど、どうでもよくねぇよ」


  すると黒龍はニヤリと笑い、お腹のあたりに生えている2本の腕を交差させた。


  『否定しないということは本当らしい。では強い私にはわからない為聞こう。何故お前は仲間や他の冒険者プレイヤーに力があることを隠す?』


  戒斗はふらつく足元をなんとか制御しながら答える。


  「ただ仲間が欲しかったからだ!!」


  そう戒斗が前に手のひらを大きく広げた手を差し出しながら言うと黒龍の横腹のあたりに戒斗の剣が刺さった。


  『ぐぅ?!』


  黒龍は苦しそうに声を上げる。


  紫に変色した目をした戒斗はその差し出した手を動かし、黒龍の内部で剣を動かす。



  【紫:浮遊魔法=意思移動テレキネシス



  戒斗はこの魔法で自分の武器が動かせるようにわざと剣のレベルを52にしていた。


  これでだいぶダメージが食らわせられる!


  そう思ったのだが。



  『グガァァァア!!』



  突然の咆哮と共に巻き上がった暴風で戒斗は後ろに腰をついてしまった。


  そして目の前から一瞬で戒斗の剣が戒斗の顔の数センチ横目掛けて飛んできた。


  ≪ザンッ!≫


  戒斗の背後の岩に剣が突き刺さる。


  『だから言ってるだろう。早くアカウント共有をしろとな。お前には隠したい理由があるのかもしれないが、私にはそれが理解できない』


  ドラゴンは一呼吸おくとそうだ、と言い、


  『お前が私に負けたらお前のアカウントである「カイト2026」を消すように運営に報告しよう。』


  「?!」


  戒斗は言葉にならなかった。


  『それがいいな。そうすれば強制的に君は最強プレイヤーとしてこの世界に名を轟かせる事だろう!』


  黒龍は人間が見てもわかる笑顔と笑い声で言って見せた。


  そして、


  『半ば強引みたいだけど、すまんな!』


  と思いっきり握りしめられた拳で戒斗を襲った。


  ≪ドンッ!!≫


  後方の壁を100メートルほど削る程の力。


  貫通力も高い。


  戒斗は100メートル先の壁に打ち付けられ……。



  [アカウントが共有されました。別アカウント「カイト2026」はスリープ状態に入ります]



  AIのような声。


  それが聞こえた時、黒龍はその手が何者かに押さえつけられていることに気づいた。


  「攻撃力にして10.000か。」


  ステータスを確認しながら言う。


  黒龍は一瞬にしてその気配を感じ取った。


  (これは……)


  そこには「カイト」が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る