第130話 議論 Discussion

 カイトたちは長い話し合いの末に、やはり全員の頭文字を入れたほうが円満に議論を終了させることができると察し、単語を組み合わせて一つの文字を作り上げた。


 KARINMMETT


「どういう意味?」


 真顔でリナは頭を悩ませているカイトに聞く。


「カリンさんに会った(met)って意味」


 端的にカイトは要点だけを伝える。


 そこからは疲労による会話の省略の意図が読み取れた。


「だからどういう意味よ」


 しかし繰り返し問うてくるリナ。


 同じく悩んで頭を抱えているミズナとネムはうめき声をあげた。


「あーー!もうわかんないですよ!でもこれが一番いい気がするんです!」


「なによミズナ。私の意見が悪いっていうの?」


 反発する姿勢を見せるリナ、だがミズナの意見に皆は賛成しているようで。


「まぁオレ様も『聖騎士崇拝教団』は無いと思うぜ?」


「なによ『龍の剣(ドラゴンズソード)』!あんたよりは100倍マシよ!」


「おっ、オレ様の組織名を愚弄するな!!!」


 両者いがみ合う中、ツカサは眠そうな目つきで座っていた。


 それを察知したショタコンお姉さんはチャットを打ち込む。


[私はカイトたちの名前に賛成。全員が揃ってる感じがして素敵。夜も遅いし、そろそろ解散しましょう]


 ミズキのチャットを受けて全員は頷き、立ち上がろうとする。


 カイトたちの組織名は誰からの反対もなく、一部納得のいっていないメンバーもいたが、円満に終えた。


 しかしそこでメンバー全員の足を止めさせたのは他でもない、カイトだった。


「待ってくれ。最後に一番伝えたかったことを手短に話す」


 カイトの呼び止めに一同は姿勢を正す。


 メンバーは静かになり、カイトの発言を待った。


「クロミナには公式組織と呼ばれる組織が4つある。それはみんな知っているな?」


 全員が頷く。


「大会で不正を働いたとして公式組織の一角である『黄虎』が失墜、リーダーの不在によってメンバーはバラバラになった。そこで運営は今、公式組織を再編しようとしている。より強力で統率力のある組織を求めている」


「それが僕たちとなにか関係があるんですか?」


 ツカサはカイトに質問を投げる。


「良い質問だ、ツカサ。公式組織の再編および選抜試験に俺たちの組織が選ばれている」


 メンバーは顔を見合わせ、驚いた。


「それって、公式組織になれるかもしれないってことか?!」


「その通りだ、翼」


「でも、どうして私たちが?」


 興奮した様子でリナはカイトに聞く。


「PvP大会が終結した後、組織ごとにLANKなるものが付与された。これはレベルの他に自身の力を証明する数値として機能する。つまりLANKの高さはレベルの高さに匹敵する」


「PvP大会終了時のカイトさんたちのLANKは3980。LANKは組織の合併により合算される。よって私たちが持っていたLANK350を足し合わせて4330!」


「よ、4000て!上位組織に分類されてるじゃないですか!」


「上位組織?」


 翼とツカサが首をかしげる。


「上位組織っていうのはね、LANKが1000を超えた組織を指す言葉。LANK4000超えなんて、全プレイヤー、全組織の上位1パーセントくらいの場所にいるんじゃないかしら」


「他の組織のLANKも見れるのか?」


 周囲のLANKが気になった翼は調べているネムに聞いてみた。


「はい。見れました。すべてデータベース化されているようです。現在トップは無記名組織所属、リンさん、LANK5600。次いで公式組織『黒龍』、LANK5480。その次が公式組織『黄虎』、LANK5000。その次が、私たち『KARINMMETT』です」


「・・・」


 カイトは一時的に押し黙る。


「や、やっぱり組織名変えるか?改めてネムの口から聞かされると恥ずかしくなってきた」


「そうですか?私は結構気に入ってますけど」


[長さは気になる]


「呼び辛さは否めないかもです…」


「やっぱり龍の…」「聖騎士聖騎士」


「でしたら」


 パン、とネムが手を叩く。


「いっそのこと『カリン』にしてしまうのはどうですか?もちろん表記は『KARIN』でも『花梨』でもなんでも良いのですが」


 ネムの提案に一同賛成し、カイトの組織の名称は『KARIN』に決定した。


「話を戻すが、公式組織に選ばれる可能性が出てきた。公式組織に選ばれるためには四大組織と上位組織の総当たり戦を勝ち抜かなければならない」


「つまりは、」


 翼の言葉を待つ前にカイトは言い放った。


「特訓だ。少しでも公式組織に選ばれる確率を上げるために、それぞれの力、レベル、そして連携を強めていかなければならない」


 カイトの力説は続く。


「この家はその前段階に過ぎない、この組織が勝ち上がっていくために今一度全員が力を合わせ、戦略を練っていく必要がある」


 カイトの言葉に鼓舞されたメンバー一同は、やる気に満ちた声を上げた。


 その後、話を終わらせたカイトは解散を促し、皆の姿を見送ってから行動を開始した。

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