第129話 加入 Affiliate

 高級住宅街第14区画。


 そこに佇むデザイナーズマンション風コンクリート仕立ての建物の門をくぐり、中庭を抜けるとやっと家が見えてきた。


 扉を開けるとそこには使用人のようにカイトたちを待っている人影があった。


「ミズナとネム…!どうしてここに?」


 カイトが疑問に思った理由は彼女らは全く別の組織ギルドの一員であるからだ。


 一時的に共同戦線を張り、共に大会を勝ち抜いてきたのだが、別組織に属しているという事実は変わらない。


 それに、とカイトは視線をリナの方へとスライドさせる。


 リナがどれだけカイトの属する組織に心酔しており、固執しているかは見当がついていた。


 彼女の独占欲とも見れる言動の数々、他者の参加を認めない強固たる信念。


 組織の人事を担当していると言っても過言ではないリナのお気持ちが変わらない限り、誰もこの組織には加入することはないと踏んでいた。


 ミズナとネムがカイトの属する組織の拠点ともなり得る家、いわば聖域に押しを踏み入れることを許可したということは、組織の一員として認めているということだろうか。


「私たち、カイトさんの組織に加入させてもらうことになったんです」


「おい、いつからカイトの組織になったんだ!俺様の組織だ!」


(翼はブレなくて安心するな)


 カイトは素直な疑問をメンバーに尋ねた。


「俺は賛成するが、みんなは二人の加入について話が付いているのか?」


[リナ主導の元、円滑に進めてくれたわ。私たちは賛成してる]


 ツカサは大きく頷く。


 翼は得意げにニヤリと笑った。


 張本人であるリナは堂々たる姿勢を見せた。


 カイトにとってそれは意外だった。


「カイトさんから直接賛成のお言葉ももらったし!正式に組織のメンバーですね!」


「よろしくお願いします。みなさん」


 二人のメンバーの電撃加入にカイトは驚きこそすれど、彼女たちとは多くの時間を共にした、信頼度は高い。


 それ故に納得したメンバーもいるだろう、どこのだれか知らない人を組織に入れるほど、この組織のメンバーはカイト含め警戒心は低くない。


 リナによる物件紹介が始まった。


 一階は大きなリビングダイニングキッチンが中心にあり、そこから枝分かれするように部屋があった。


 一階だけで8つの個室があり全員分の部屋は確保されていた。


 螺旋階段を使い、二階に上がるとそこには大きなスクリーンと憩いのスペース。


 収集した【特殊技能付与証マジックライセンス】を収納することができる書庫。


 ポーションを調剤することができる実験室などなど。


 一階が生活スペースだったのに対し、二階は比較的実用的であることが分かる。


 もちろん内装や家具の設置は自由に取り決めることができ、俯瞰視点から家を操作できる。


 これは購入し、鍵と呼ばれる組織メンバー、もしくは許可された者にしか扱うことのできない特権である。


「リナ、ここにしよう」


 カイトは全ての部屋を見終わり、リナに声を掛けた。


「みんなはどう思う?」


 カイトの問い掛けに満場一致の賛成だった。


 その後、一回の大広間に集合した一行はリビングの中央に置かれた巨大な長方形の8人掛けテーブルに腰かけた。


 カイトはリーダーが座るような椅子に全員の顔を見ることができる位置に腰かけた。


 初め翼に反発されたが、最初だけ、と言っておいた。


 皆がカイトに目線を集中させると、カイトは一つ咳ばらいをし、話し始めた。


「改めて。今回は集まってくれてありがとう。そしてミズナとネム、俺たちの組織へようこそ」


 メンバーは皆笑みを見せた。


「みんなには話すことがある。これから起きることについてといま起きていることについて」


 カイトが本腰を入れて話を始めようとした瞬間、リナによって制止される。


「ちょっと待ってカイト。まずもっと大事な話をしましょう」


 皆がリナの方を向き、不思議そうな顔を見せた。


「私はわかった」


 ミズナは頷きながら笑った。


「ええ、なになに」


 何もわからないネムは困惑していた。


「この組織の名前よ!」


(あ)


 カイトはリナに止められなければこのまま「無記名組織」で行くことになるところだった。


 そこから2時間、ああでもない、こうでもないと話し合った結果。


 組織の名前は一向に決まらないまま時間だけが過ぎていき。


 結局カイトが話そうとした大きな話は出来なかった。

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